三話
そして、お見合い当日。
目の前に座るのは眼鏡をかけた仏頂面の男性。
「初めまして、葛城春一といいます。本日はよろしくお願いします。」
「く、倉中紗穂です。よろしくお願いします」
挨拶は礼儀正しいが全く変わらない表情と軍人というだけあって大柄でがっしりとした体つきから放たれる厳粛な雰囲気に紗穂は少し萎縮してしまう。
「いやーごめんなさいね、こいつこういうやつなんですよ」
その隣に座る白髪混じりの男性はまさに今回のお見合いの話を持ちかけてくれた店の常連であり彼の上司、笠原さんだ。悪いやつじゃないんだけどね、と葛城さんの肩を叩きからからと笑っている。少しでも和やかな雰囲気にしようとしたのだろうが肩を叩かれた本人は軽く眉間に皺を寄せるのみで、むしろただでさえ厳しい印象を持たせる仏頂面がさらに険しくなり私にとっては逆効果であった。
そもそも結婚相手の顔を祝言を挙げるまで知らないことも多い今の世の中で、こうして事前に顔を合わせる機会があることは珍しい。笠原さんは私の過去を知っているからこそこの機会を設けてくれたんだろう。せっかく用意してもらったのだからこれぐらいで萎縮してはいられない。
「本当はこちらも親御さんに来てもらう予定だったんですけどね、色々ありまして今日は自分が失礼します。」
普通婚約は子供の意思より親同士の合意で結ばれるものだ。なのにこうした場に親がいないというのはあり得ない。どうしてだろうか、と不思議に思った両親は
「体調を崩されているのですか」
と聞いた。「いや…」と笠原さんが返事をしようとするとそれを横から遮るように葛城さんが口を開いた
「いえ、そうではないですが、私の親はいてもいないようなものですのでお気になさらず。」
「おい、おまえなぁ」
本人があまりにさらりと言うので一同戸惑いが隠せない。
「いやあの、普段軍の宿舎で過ごしているものですから、あまり親に会えていないようでしてね、今回のことはもちろん伝えてありますから」
笠原さんが慌てて訂正するがこちらは咄嗟のことに目を丸くし、「な、なるほど」と返すことしかできなかった。
その後改めて詳しくお互いの自己紹介をし、しばらく話していると笠原さんから2人でゆっくり話す時間もいるだろう、と提案され2人で部屋の外の庭を歩くことになった。
気まずい沈黙の中、ゆっくりと庭を歩く。どう話しかけたらいいのか分からず、頭の中でぐるぐると考えてみるが何も出てこない。沈黙が続く私たちとは対照的にパクパクと口を動かす目の前の池の鯉はまるで私たちの会話を急かしているようで、とにかくなにか話さなければ、と話題を出してみる
「あ、あの、葛城さんは普段軍ではどんなことをされているんですか?」
「どんなこと、と言われましてもたいして変わったことはしていません」
案の定そっけないな返事が返ってきたのでこちらから他の質問をしてみる
「やっぱり訓練は厳しいんですか?なかなか寝られないとか」
「厳しいと言われればそうかもしれませんが毎日していれば慣れますよ。睡眠に関しては人によりますが、何か気になりますか?」
なんとか会話が続いていることに安堵し、心の中でほっと一息をつく。
「いえ、ただ笠原さんがお店に来られる時、いつも眠たそうにされているので軍の方は大変なのかなと」
私が笠原さんの名前を出すと葛城さんはああ、といったような表情をした
「あの人の場合はいつもあんな感じですが、確かに階級が上に上がればそれだけ業務も増えて忙しくなる、というのはありえるでしょうね」
「そうなんですね…」
「部下としてはせめて仕事中だけでもちゃんと動いて欲しいところです」
挨拶の時も思ったが、葛城さんは思ったことをはっきりと言う性格らしく、仮にも上司である笠原さんへの遠慮が全く感じられない。そして相変わらず受け答えは淡々としている。しかし顔をよく見ると眉間に皺を寄せていたり呆れたような表情をしていたりと、その様子がなんだか面白く思わず笑ってしまった。
「笑い事では無いのですが」
「すみません、つい…。ただ仲がよろしいんだなと思いまして」
私の発言を聞き、葛城さんの眉間の皺がより深くなる
「仲が良い?ありえませんよ、そんなこと」
「でも付き合いは長いんでしょう?」
「そうですがただの上司と部下です。仲が良いどころかいつもこちらが振り回されて困っているくらいですよ」
まるで水と油、という感じだろうか。確かに笠原さんの朗らかで自由な性格とこの几帳面な性格が合うかと言われるとそうではないかもしれない。しかし付き合いが長かったりこのお見合いの話を受けたりしていることから本気で嫌っているというわけではなさそうだ。
そんなふうに考えているとふと疑問が思い浮かんだ。
「どうして、葛城さんはこのお見合いをしようと思ったんですか?」




