№08- 楽しかったアメリの店
― №08 ―
部屋の中の独特のにおいに顔をしかめていたら、それをライトで照らされた。
笑いをかみ殺すウィルが手にしたペンライトをぐるぐるまわす。
「やっぱり明るい場所でみると、ひどい顔だよ。非番明けにこんなアザなんて、警察官だったら上司に呼び出しだね」
「・・やっぱ、目立つかな?・・・」
ザックはまだ少し痛みの残る、頬の上を隠す。
「まあ、それなりにね。でも、腕の包帯のほうが目立つから、いいんじゃないの?」
なにがいいのかわからないが、ウィルが白い布のまかれた腕をわざと叩く。ところが思った反応が返らずに、不服そうに聞いた。
「あれ?こっちは痛くないの?」
「・・・おおげさなんだよ。すぐに治るからいいって言ったのに・・・」
そこで、ああ、と納得した声を出された。
「レイがいたんだ?あいつ、心配性だからなあ」
ザックがその腕をさすり、簡単に説明する。
「『アメリの店』に、ジャンとケンとおれとレイで行って、ケンがアメリと」
「やりはじめたわけだ。―― 腕相撲」
しっかりとあとをひきとったウィルに、知ってんの?と聞く。
「恒例行事だよ。『腕相撲』するふりでケンがアメリをからかって、場外乱闘になだれこむんだ」
「あーだからレイがケンを注意してたのかあ・・。だいたい、なんでケンは、あんな店で腕相撲するかなあ。普通アメリをみたらそんなこと考えないぜ」
「あいつはアメリに遊んでほしいだけだよ。ほかを巻き込みながらね。彼・・彼女はこの辺の腕相撲大会の優勝常連者だから、挑まれた勝負は、それはもうオトコらしく、受けるわけさ。おちょくられるのをわかっていながら」
『アメリの店』の店主の『アメリ』は、女装趣味のごっつい男だった。
ステージに立つのは、たしかにかわいくてセクシーな(たぶん)女たちだったけど。




