最終話 「最終決戦! 衝撃の真実とマジョリーシカの決断!」
■前回までのあらすじ■
四天王との激戦に勝利したものの、とうとう三人まで数を減らしてしまった勇者たち。
しかし、残る敵は魔王のみ。
魔王さえ倒せば、平和が訪れるのです。
「とうとう、ここまでやってきましたね」
魔王城の最深部、そこは荘厳な空間でした。
細工の施された柱、職人が丁寧に織り上げたカーテン、スベスベの絨毯、きらびやかなシャンデリア。
調度品はどれも目を見張るようなギラギラしたものばかりで、ゴンゾウが見たら喜んだでしょう。
マジョリーシカですら、魔王を倒したら一つ持って帰ろうと決意したぐらいです。
その上、部屋ではドライアイスが炊かれ、演出もバッチリです。
「残るは魔王だけ、気合を入れていきましょう」
「ウホホ」
「何やら嫌な気配がする、ここからは今まで以上に気をつけていきましょう」
マジョリーシカはジェラールの言葉に深く頷き、歩を進めました。
ドライアイスの煙の中をゆっくりと歩いて行くと、部屋の奥にあるものを見つけました。
帳です。
帝がおいそれと顔を見せないために使われていたような奴です。
そんなのが、7段ぐらいある階段の上に設置されていました。
そして、どうやら帳の裏には何かがいるようで、シルエットが浮かび上がっています。
光源の位置によるのかもしれませんが、かなり大きいです。ゴリラぐらいありそうです。
「……あれが魔王でしょうか」
マジョリーシカ、慎重にゆっくりと歩を進め、階段の前までやってきます。
すると、ボッと音がして、部屋の中にあった燭台に火が灯ります。
そして、全ての燭台に明かりがつくと、音楽が流れはじめました。
太鼓と笛による壮大な音楽です。
その音楽に合わせるように、帳がゆっくりと、ゆっくりと上がっていきます。
魔王軍演出部隊による、憎い演出です。
「ああっ! そんな、そんな馬鹿な……!」
帳の向こうから現れた者。
それを見て、マジョリーシカは膝を付きました。
太い腕。
凛々しい顔。
深い瞳。
全身を黒い毛で覆われ、両の拳は地面についています。
「ジェラールが二人!」
ジェラールです。
帳の向こうから現れたのは、ジェラールだったのです。
「いえ、違います。彼はジェラールではありません」
でも、ボボンゴル族のシャーマンであるアマゾンは気付きました。
「良く似ていますが、違うゴリラです」
動物の声をそれとなくわかるアマゾンだからこそ気づけたことです。
あるいはゴリラ研究家や、飼育員の花子さんとかでも気づけたかもしれませんが、この場で気づけたのはアマゾンだけです。
ボボンゴル族の秘術の凄まじさが窺えます。
「……」
謎のゴリラは動きません。
ただ、理知的な瞳をマジョリーシカたちに向けたまま、無言で立っています。
彼が魔王なのか、あるいは別の何かなのか。
と、そこでアマゾンが一歩前へと進み出ました。
「私が彼と話をしてみます。
私はボボンゴル族のシャーマン、人呼んで『アマゾン』……。
私は勇者ではありませんが、動物の声がなんとなく大体のニュアンスでわかります。
彼が何者か、確かめることぐらいは出来るでしょう」
彼はそう言って、階段を登り始めました。
でも、確かに彼ならば、ゴリラとも会話できるかもしれません。
「……」
アマゾンが階段を登り切り、謎のゴリラと対面します。
緊張の瞬間。
「あー、私はボボン――」
一撃でした。
アマゾンはゴリラに殴り飛ばされ、水平に吹っ飛んで入り口の門にたたきつけられました。
即死……。
そんな単語がマジョリーシカの脳裏によぎりました。
通常の人間なら、即死する他ないでしょう。
「ガフッ……」
しかし、アマゾンは生きていました。
なぜなら彼はボボンゴル族のシャーマン。
インパクトの瞬間に大きく後ろに跳躍することで、勢いを殺したのです。
ボボンゴル族なら誰でも出来る技術です。
「アマゾンさん!」
「わ、私はもうダメです……もうすぐ、死ぬでしょう……」
でも、さすが魔王の一撃といった所でしょう、アマゾンの命は風前の灯火でした。
50メートルぐらい真横に吹っ飛ばさ、そのまま扉にたたきつけられたのです、死んでないほうがおかしいぐらいなのです。
彼がボボンゴル族であったとしても、もはや長くは無いでしょう。
マジョリーシカが駆け寄り、アマゾンを助け起こします。
「マジョリーシカさん、最後に、あなたに言っておくことがあります……」
アマゾンは最後の力を振り絞り、マジョリーシカに真実を伝えます。
魔王との接触で、何かがわかったのでしょう。
彼はここで死ぬかもしれません。
しかし、彼の努力は無駄にならないのです。
今までの仲間たちがそうであったように。
全ては魔王を倒すための礎なのです。
「実は私はボボンゴル族のシャーマン、人呼んで『アマゾン』ではありません」
「え?」
「本当の私はババンガル族のバーバリアン、人呼んで『サバンナ』なのです」
「な、なんですって!?」
なんということでしょうか。
マジョリーシカは、時が止まったかと思いました。
彼はボボンゴル族のシャーマンではなかったのです。
それは、今までの旅を根底から覆すほどの衝撃を持っていました。
「じゃあ、今までのジェラールのセリフは!?」
「ババンガル族は乾燥地帯に住む狩猟民族……。私が本当に出来る事といえば、風を読み、5キロ先にいるガゼルに吹き矢を当て、体重300kgの巨大なライオンを素手で縊り殺すことぐらい」
「ゴリラのセリフは!?」
マジョリーシカの必死な声は届きません。
もはやサバンナの目はかすみ、迎えにきた精霊たちがみえ始めていました。
貧乏少年が犬と一緒にルー○ンスの絵の前で見た天使の、部族バージョンです。
「嘘をついたことで、精霊のバチが当たったのでしょう」
いいえ、当たったのはゴリラの拳です。
「ふふ、さようならマジョリーシカ。最後に、あなたと旅が出来て……よかっ……た……」
「セリフは!?」
サバンナは死にました。
マジョリーシカは、もうどうしていいのかわかりません。
彼がジェラールの言葉がわからなかったとすると、今までの旅はなんだったのでしょうか。
マジョリーシカたちは、誰を頼りにここまできたというのでしょうか。
王様は、勇者ガッデムは、勇者ホリーシトとモウメーダメは、一体誰の言葉で改心したというのでしょうか。
「ハッ!」
マジョリーシカはそこでハッとなりました。
アマゾンです。
そう、ジェラールの言葉は、全てアマゾンのセリフでした。
彼は嘘をついていたと言いながらも、魔王を倒すために全力を尽くしてくれていたのです。
その言葉に、誰もが心をうたれ、改心しました。
彼がいなければ、マジョリーシカはこの場にたどり着いてすらいなかったでしょう。
アマゾンは、この世界のために嘘をついてくれたのです。
彼の本名はサバンナでしょうが、マジョリーシカの中ではずっとアマゾンのままなのです。
魂の名前はアマゾンなのです。
「あなたの嘘、無駄にはしません」
マジョリーシカはそう決意し、立ち上がりました。
そこには、もうお金と地位と名誉にこだわる意地汚い少女はいません。
勇者一行の名にふさわしい、正義に満ち溢れた魔術師がそこにいました。
彼女もまた、勇者の一人なのです。
「私が必ず、この世界を平和へと導いてみせます!」
マジョリーシカは、全身にたぎるやる気に突き動かされるように、振り返りました。
「ジェラールさん、倒しましょう、魔王を!」
「ウホ?」
「ウホーホ……!」
と、ジェラールが魔王と仲睦まじそうに寄り添っていました。
どうやら、マジョリーシカがアマゾンに構っている間にジェラールが魔王に求愛し、魔王がそれを受け入れたようです。
マジョリーシカはそれを見て、急速に元に戻りました。
「……あ、降伏します。命ばかりは助けてください」
こうして、勇者たちの戦いは終わりを告げました。
■ ■ ■ ■ ■
それから1000年の時が流れました。
あの壮絶な戦いの末、人間は滅び、世界は魔王によって支配されました。
初代魔王の時代です。
しかし、初代魔王の時代はそう長くは続きません。
というのも、初代魔王は世界征服が完了した日、魔王の座から降りました。
そして、戦争の途中に出会った超絶イケメン王子様と結婚してしまったのです。
二代目に就任したのは、魔王の恋人相手の付き人です。
彼女は初代魔王の時代に目覚ましい活躍をした内の一人です。
配下のゴンゾウを手足のように操り、金銭的な面で魔王軍に大きく貢献したのです。
その働きぶりは凄まじく、新参者であるにも関わらず、すぐに魔王四天王の一人になりました。
魔王として選ばれた時も、誰も反対意見が出ませんでした。
他の四天王も、彼女以外にいないと太鼓判を押したのです。
『二代目魔王マジョリーシカ』。
人は彼女をそう呼びます。
彼女は魔王就任の際、こう言いました。
「人間は嘘と欺瞞に満ちていました。我ら魔族は彼らの二の舞いにならないよう、力を合わせてしっかりと生きていきましょう」
彼女のその言葉は、魔族たちの心に染み渡りました。
魔王はその後何度も世代を交代しましたが、彼女の言葉だけは魔王の玉座の後ろに飾られ、歴代の魔王はその言葉を励みに世界を統治しました。
そして、そんな魔王の治世は1000年経った今もまだ、続いています。
そう、世界は平和になったのです。
めでたし、めでたし。




