4話 「さらばゴンゾウ! 魔王軍四天王との死闘!」
■前回までのあらすじ■
魔王軍との激しい戦いにより、大勢いた仲間がたった4人にまで減ってしまった勇者一行。
彼らは魔王城へとたどり着きました。
大きくてでっかいお城。
材質は石ではなく、黒い金属のようなもので作られています。
つや消しの黒は日の光を反射して、不気味な雰囲気を醸しだしています。
心なしか、魔王城全体から、モヤモヤとしたオーラのようなものが立ち上っています。
本日は晴天ですからね。
中もきっと暑いでしょう。
「ここが魔王城」
マジョリーシカがぽつりとつぶやきました。
「早かったですね、ここまで、本当に、早かった……」
結局ここに来るまで、戦闘らしきものはありませんでした。
魔王城に近くなると魔王軍の駐屯地のようなものを何度か見かけたり、偵察隊と思わしき者達に遭遇したりもしましたが、戦闘にはなりませんでした。
誰もが「ククク」と不気味な笑いを残して去っていくのです。
飯時だろうと、カードゲームの途中だろうと、排泄中だろうと……。
それは不可解を通り越して不気味で、まさに魔王軍の名に恥じぬ雰囲気を纏っていました。
「とにかく、入りましょう。魔王は目前です」
絶対に何かしらの罠が待ち受けている……。
と思いつつも人間の心理というのはおかしなもの、ここまでスムーズにこれてしまうと、逆に最初の罠のある所までは行ってみるか、って気になるものです。
「ウホ」
ジェラールを先頭に、一行は魔王城へと足を踏み入れます。
無骨な外見とは裏腹に、中は木材で、丁寧な作りになっていました。
歩いているとふわりとひのきの香りがして、なんとも心を穏やかにさせます。
また、城全体の風通しが意外と良いのか、外見から想像していたよりもずっと涼しいです。
「……趣味がいいな」
ゴンゾウは通路にある壺や絵画を見て、そう言いました。
とにかく高いものが良い、という価値観を持つゴンゾウとは相容れませんが、この城の持ち主は何に金を使うべきかわかっている人間のようです。
「む」
通路を抜けると、広場がありました。
彼らが召喚された場所より、さらに広い場所です。
長机が隅のほうに片付けられているところを見ると、食堂でしょうか。
その中央には、四人の男女がいました。
地味な色合いの四人です。
彼らはジェラールたちを見ると、各々、自由にポーズを取ります。
「魔王軍四天王の一人、黄のテッペーキ!」
「同じく紫のクモリーナ!」
「茶のデルモッチ……」
「そして私が四天王のリーダー……宗伝唐茶のチェブラーシカ!」
バーンという効果音。
それは二階のテラスにいた魔王軍音楽隊のシンバルによるものでした。
そう、食堂の二階にはテラスがあり、そこに大量の兵士たちの姿があったのです。
囲まれていたのです。
やっぱり罠だったのです。
「なんてこと……私ともあろうものがこんな簡単に罠に掛かるなんて!」
マジョリーシカはそう言いますが、彼女は罠にかかりやすいタイプの子です。
むしろ自分から危うい状況に飛び込んでいくタイプです。
対局よりも目先の利益を追い求めるのは、宮廷魔術師の性なのです。
「ククク……これは罠ではない」
「我ら四天王は部下を大切にする上司……」
「部下が勝てそうにない相手が出てきたら撤退を促し、上司が戦う」
「それが我ら魔王軍の鉄の掟」
そうなのです。
魔王軍は実力に応じて敵を選びます。
まず勝てそうにない相手に無駄な突撃を命令したりはしません。
ホワイト企業なのです。
かといって格上に戦って勝って何もないわけではありません。昇進のチャンスと同時にボーナスがもらえます。
だから部下も一生懸命、人間の国を侵略するのです。
「勇者よ、貴様等は一兵卒の手に余る」
「我ら四天王が直々に相手をしてやろう」
「フッ、知らないうちに随分と数を減らしているようだが4対4、互角の戦いになろう」
「ククク、だがその前にお前たちの力を試させてもらおうか」
リーダーのチェブラーシカが懐から半透明のアレを取り出しました。
これを使って相手を見ると、相手の力量がわかる奴です。
四天王仕様の高級品なので、一兵卒のアレより10倍も高性能です。
具体的には一兵卒のは2ケタまで、四天王のは3ケタまで計測できます。
「ククク、700、800、900……どんどん上昇してい……ぐおあっ!?」
ジェラールを計測していたチェブラーシカのアレが爆発しました。
四天王の持つアレでも、ゴリラの戦闘力は計れなかったのです。
計り知れないゴリラの戦闘力……所詮、人間の物差しでゴリラを測ることなど出来ない、ということでしょう。
「なっ!」
「チェブラーシカがやられた!」
顔面に大やけどを負って悶絶するチェブラーシカ。
彼の美しいわけではないけど、どことなく人好きのする顔は、もう二度と元には戻らないでしょう。
「おのれぇ……絶対に許さん!」
取り柄はないけど面倒見が良く、コミュニケーションの不得意な四天王の面々をよく飲み会とかに誘ってくれるチェブラーシカ。
彼がやられたことで、残った四天王の怒りのボルテージはマックス寸前です。
でもマックスにはなりません。
なぜなら彼らは四天王。
魔王軍の中で最もクレバーでクールなヤツラです。
いかなる時も必要以上に取り乱さないからこそ、彼らは四天王なのです。
「ククク、チェブラーシカがやられたか……」
「我らと戦うだけの力は持っているようだな……」
「いいだろう、相手になってやろうではないか」
そう言いつつも、彼らは尻込みしています。
なにせ戦力を測るアレは、四天王を基準にして作られています。
それが壊れるとなると、ジェラール一人に全滅させられる可能性も出てきます。可能性どころか濃厚です。
とは言え、自分たちの後ろに控えるのは魔王様……。
さすがに魔王様に任せるのは、四天王の名折れとなります。
では、このまま戦うのでしょうか。
いいえ、魔族はとてつもなく頭のいい種族なので、そんな愚は犯しません。
「料理で勝負だ!」
勝てそうな勝負に持っていく、それが魔族の知恵です。
■ ■ ■ ■ ■
料理対決が始まりました。
先鋒戦はマジョリーシカvs紫のクモリーナ。
審査員は世界の名だたる美食を食べ歩いてきたゴンゾウと、顔に火傷を負って可哀想だからせめて美味しいものでも食べてほしいと配慮されたチェブラーシカです。
「言っておくが、儂はグルメだ! 前の世界では最高級のキャビアとフォアグラを毎日のように食っておった! 並の料理では満足せんぞ!」
美食家のゴンゾウに対し、マジョリーシカは庶民です。
宮廷魔術師に過大な夢を持っているマジョリーシカですが、宮廷魔術師の娘としてごくごく平凡な一生を送ってきました。
キャビアもフォアグラも食べたことがありません。
両親が仕事で家を留守にしていることが多かったため、自炊自体は出来ますが、料理対決で勝てるほどの腕でないのは確かです。
先ほど、調理器具と食材が運ばれ、バトルフィールドが形成されましたが、食材にしろ、調理器具にしろ、その半分ぐらいは用途のわからないもので占められています。
わからないことだらけです。
でもマジョリーシカの他にいるのはジェラールとアマゾン、ゴリラと部族です。
さすがに彼らに任せるわけにはいきません。
「言っておくが、生半可な料理をもってきおったら、儂は食わんからな!」
マジョリーシカにプレッシャーが掛かります。
ゴンゾウはどっちの味方なのでしょうか。
敵からお金をもらっていないと信じたいです。
「フフフ、私はこれでも料理は得意でねぇ、悪いけど、勝たせてもらうよ」
紫のクモリーナ。
名の通り紫色の髪を持ち、蜘蛛のような六本の腕を持つ中年女性です。
料理が得意というその言葉にウソ偽りは無く、四天王になる前は魔界の三ツ星料理人でした。
かつては普通のレストランに務める料理人でしたが、お忍びで城下町に現れた魔王に腕を見込まれてスカウト。
その後、トントン拍子に出世して、現在は四天王の一角を担っています。
四天王になった事で結婚も出来て、今は二児の母です。
皆も目指そう四天王。
「料理は今でも家でやっているのさ、高級料理だね! まかしときな!」
クモリーナはゴンゾウのリクエストを聞いて、テキパキと料理を始めます。
マジョリーシカが見たこともないような高級食材を使って。
「くっ……!」
マジョリーシカは悩みます。
彼女と同じ高級食材を使って料理するか、それとも自分の使い慣れた食材を使って料理するか……。
やがて、マジョリーシカは使い慣れた食材を手にしました。
仕方ありません。
高級食材を味見してみたところ、よくわからない味がしてしまったのです。
これでは料理には使えません。
(ビーフストロガノフ……それに例のものを入れる……!)
マジョリーシカは、将来彼氏を落とすために覚えておいた必殺料理をここで使うことにしました。
ビーフストロガノフに、宮廷魔術師に代々伝わる惚れ薬を混ぜるのです。
薄汚い中年のゴンゾウに好かれてしまうのは気持ち悪いですが、仕方がありません。
この勝負に勝たなければ、マジョリーシカに未来は無いのです。
なあに、家に戻れば中和剤があります。それまでの辛抱です。
それに、もしかしたらチェブラーシカの方にも効いて、四天王が仲間になるかもしれません。
「フフフ、これをこうして、はい完成!」
と、マジョリーシカが順調にビーフストロガノフを作っている所、クモリーナが料理を完成させました。
腕が六本あるので、とてつもなく早いのです。
通常の三倍のスピードです。
「デラックスワギューのステーキと白トリュフのパイ、キャビア添えだよ!」
「ほう、見てくれは悪く無いな……」
ゴンゾウの前に出てきたパイ、それは一見すると普通のパイですが、ある細工がしてありました。
金箔です。パイには金箔がまぶしてあったのです。
ゴンゾウは金塊をおかずにご飯を3杯はイケる男です。
この金箔のあしらいは彼にとってかなり好印象でしょう。
「うむ。わかっておる。やはり金箔を使った料理はいい。見ているだけで心が洗われるようじゃわい」
むしろガッチリキャッチしたといっても過言ではないでしょう。
もしこれで、パイの下から金の延べ棒が出てきたりしたら、ゴンゾウは確実にクモリーナに10点満点を入れることでしょう。
さすが魔界三ツ星、客の事をよく見ています。
「もぐもぐ……ふむ、肉は霜降りというわけではないが、しっかりと柔らかく、白トリュフがその味を引き立てておる、そして付け合せのキャビアのなんとうまいことよ……」
当然、味の方も良いようで、ゴンゾウはどんどんパイを口に入れていきます。
食べ方は決してキレイではありません。むしろ意地汚く見えます。
クッチャクッチャと音を立てる様は、実に下品です。
しかし、味は本当に良いようです。
ゴンゾウのフォークが止まりません。
「そしてなんだ、このパイを食べた時に舌にピリリとくるのは、隠し味に何が入って……………オゲふぁっ!?」
ゴンゾウが唐突にゲロを吐き出しました。
フォークがカランと床に落ちて転がり、ゴンゾウはパイの上にベチャリとつっぷしました。
口だけではありません、鼻からも汚い汁が吹き出ています。
ゴンゾウの元々汚い顔とあいまって、モザイクをかけたい状態です。
「ご、ゴンゾウさぁん!」
その様子を見ていたマジョリーシカは、思わずゴンゾウに駆け寄りました。
しかし、その時にはすでに遅く、ゴンゾウは目を血走らせ、体を小刻みに痙攣させていました。
「……ど、毒……がはっ!」
ゴンゾウは最後にそう言い残し、気絶しました。
「そんな……」
「フフフ……この紫のクモリーナは状態異常の使い手。その私の作った料理を簡単に口にするなんて……お・ば・か・さ・ん」
そう、毒です。
クモリーナはパイに毒を盛っていたのです。
死ぬほどのものではありませんが、ゴンゾウさんはもうこの後の戦いに参加することはできないでしょう。
「馬鹿な……あのゴンゾウさんが、こうもあっけなく……」
マジョリーシカはショックを隠せません。
あのゴンゾウが、やられてしまいました。
例え核戦争が起きても自分だけを生き残ると自前のシェルターまで作っていたゴンゾウが、命乞いをする隙さえ与えてもらえなかったのです。
これまでの相手とはまったく違う容赦の無さ……これが魔王軍四天王なのです!
「オーホホホ! 安心なさい、その毒は所詮はしびれ毒、一晩も立てば自然と体から抜け出るわ!」
致死性ではないとはいえ、神聖な料理勝負に毒を盛るなんて、料理人の風上にも置けません。
しかしこれは、戦争。
人間と魔族の生存を掛けた戦争なのです。
ぬるい事は言ってられません。
「まずは、一人! 勇者一行といっても、大したことはないわね! ねぇ皆!?」
クモリーナが宣言し、賞賛を浴びようと背後を振り返ります。
「……あれ?」
しかし、そこに他二人の四天王の姿がありません。
クモリーナがきょろきょろと探すと……あ、いました。
テッペーキとデルモッチは、チェブラーシカの所にいました。
「え?」
チェブラーシカは、テーブルに突っ伏していました。
動きません。
よくみると、キレイな宗伝唐茶色だった顔は紫に染まり、口と鼻がゲロで汚れています。
「クモリーナ……お前……」
「やり過ぎだろ……」
チェブラーシカは死んでいました。
毒です。
卑劣なクモリーナの毒にやられたのです。
状態異常に耐性を持つクモリーナや、普段から健康に悪いものを食べ慣れているゴンゾウならまだしも、チェブラーシカは日頃から健康に気を使い、無菌のような生活を送ってきました。
魔王城を温かみのある木材で建築し、アロマの香りを漂わせ、品のいい調度品を飾って生きてきたのです。
そんな優しくか弱いチェブラーシカです、毒に耐性などありません。
クモリーナの毒を食べれば、ひとたまりもなかったのです。
「あ、あ、そんな、嘘……」
「ブー」「ブー」
観客席からもブーイングの嵐です。
普通の料理勝負でも勝てたのに、ズルをするからこうなるのです。
「毒を盛るなんて……卑怯な! 料理人の風上にもおけないわ!」
マジョリーシカは媚薬を懐に隠しながら、堂々とそう言い放ちました。
自分はまだ食べさせていないので、ノーカンです。
「そ、それは……でも、だって、これは魔王軍と人間族の戦いで……」
クモリーナは観客のブーイング、マジョリーシカの批判、他四天王二人の白い目を受けて、涙目になりました。
彼女なりに良かれと思ってやったことなのです。
毒だってかなり調整して、死なないように作ったのです。
彼女なりにラインは考えてあったのです。
でも、この戦いに負ければ、自分たちは滅ぶのです。
万が一にも、魔王の所に行かせるわけにはいかないのです。
ていうか、まさかチェブラーシカがこんなに虚弱な体質だとは思ってもいなかったのです。
「うわーん!」
クモリーナは、泣きながら会場を出て行きました。
マジョリーシカの勝利です。
「ゴンゾウさん……」
しかし、ゴンゾウというかけがえのない仲間を失ってしまいました。
でも、ゴンゾウの犠牲のおかげで、四天王の一人を倒すことが出来ました。
それもリーダーの宗伝唐茶のチェブラーシカです。
ゴンゾウはかなりの金星を上げたと言えるでしょう。
「ゴンゾウさん……あなたのこと、決して忘れません……絶対、絶対に魔王を倒してみせますから……!」
マジョリーシカはそう言って、ゴンゾウが身につけていた指輪とかを頂いておきました。
そういう女なのです。
剥ぎ取り作業が完了した所で、係員の人がゴンゾウの遺体を引き取っていきました。
恐らく、魔王城の医務室あたりに運ばれるのでしょう。
死ぬほどの毒ではないらしいですし。
「さて……」
と、後ろを振り向くと、調理場に二人の男が立っていました。
「私は魔王軍四天王の一人、黄のテッペーキ!」
「同じく茶のデルモッチ……」
なぜ二人が調理場に?
と訝しむマジョリーシカに、テッペーキが言い放ちます。
「ククク、見たところ、貴様等の残りのメンバーは料理があまり得意ではないようだ」
「フフフ、だがそれは我らも同じこと、ゆえにタッグマッチで勝負を決しようではないか」
料理の出来ない4人が料理対決。
泥仕合の予感に、観客からはそこはかとない不安の声が上がっています。
「くっ……」
しかし、マジョリーシカはすでに先鋒で出てしまいました。
卑劣な罠によって死んだゴンゾウだったらまだイケたかもしれませんが、残りはジェラールとアマゾン、ゴリラと部族です。
アマゾンの力量はわかりませんが、ゴリラに料理はまず無理でしょう。
でも、それなら、まだタッグマッチの方が勝率が良さそうです。
「仕方ありません」
ここは、アマゾンのボボンゴル料理に期待するしかありません。
巨大な芋虫を生で、とかそういう系統の料理が想像できます。
残りの人員を考えるに恐らく、審査員はマジョリーシカ一人になるでしょう。
でも、逆に言えば一人です。
アマゾンの料理に高得点を上げて、四天王の料理に0点を上げればいいのです。
嘘をつくことは、マジョリーシカの得意技です。
マジョリーシカに、顔色ひとつ変えずにアマゾンのゲテモノ料理を完食する覚悟が決まりました。
「さぁ、はやく料理対決を始めましょう!」
「クク、そう焦るな!」
「審査員がお前だけでは不公平だ。こちらも審査員を出すぞ」
ああ、なんということでしょう、マジョリーシカの策が見破られました。
これはピンチです。
これではマジョリーシカがいくら贔屓の点数をつけたとしても、よくて五分、確実な勝利はもぎ取れません。
大ピンチです。
「待てい!」
「俺たちを忘れちゃいないか!」
と、マジョリーシカが絶望を見出した所で、魔王城に声が響き渡りました。
「誰だ!」
入り口の扉をバンと開けて中に入ってくる、二つの影……それは。
「私の名はモウメーダメ。ホアノコ王国の勇者!」
「ボクの名はホリーシト。ボーケナス王国の勇者!」
そう、モウメーダメとホリーシト。
ガッデムとゲンローインとボケロージンを国に送り届けた二人が、戻ってきたのです。
「二人とも、どうやってここに!」
「道中に何の妨害もなかったから、スムーズにここまで来れたぜ!」
「ボクらが来たからには、もう大丈夫です」
勇者二人が、調理場へと進み出ます。
「ここは、私たちに任せてほしい」
「……わかりました、任せます!」
ゴリラと部族より、彼らの方がいい料理を作ることは間違いないでしょう。
ジェラールとアマゾンは審査員席へと移ります。
「くくく、となると審査員の数も合わせねばならんな……!」
テッペーキが指をパチンと鳴らすと、兵士が二人ほど試合場に降りてきました。
「くっ……!」
マジョリーシカはそれに歯噛みします。
こちらの審査員は3人、向こうも3人。
しかしこちらはゴリラと部族です。
普通の料理では、口に合わない可能性も出てきます。
まあ、普通に考えて前の試合でクモリーナが反則をしたので、四天王がズルいことをするはずもないのですが。
しかしマジョリーシカは今までズルばかりしてきた子。
ズルをしないと不安でたまらないのです。
「さぁ、調理開始だ」
「我ら四天王の心のこもった温かい料理……特と味わうがいい!」
テッペーキとデルモッチの二人が料理を始めます。
地味な二人は独身、男やもめの生活なので、料理は日頃からよく行っています。
テキパキと用意を始めているあたり、すでに何を作るかは決めているのでしょう。
材料にバナナがあるあたりに、ジェラール対策が伺えます。
「フフフ……聞いたかホリーシト、この私に料理で勝てるつもりでいるらしい」
「魔族とは賢いと聞いていましたが、それほどでもないようですね」
不敵な笑みを浮かべる二人の勇者。
彼らは素早い手つきで準備を開始します。
その素早さは、クモリーナと同等、いやそれ以上です。
普段から料理をやっているだけでは身につかない、プロの気配を感じます。
「アタタタタタタタタ!」
ホリーシトが聖剣を振るうと、キャベツが、にんじんが、玉ねぎが、一瞬にしてバラバラになっていきます。
しかも、なんということでしょうか、食材の悪くなった部分が光を放ちはじめました。
光が収まると、なんとそこにはもぎたてだと言わんばかりの新鮮な野菜が!
これこそがホリーシトが聖剣の勇者と呼ばれる所以、聖剣の力が食材をもぎたてフレッシュな状態に戻しているのです。
いえ、それだけじゃありません、魔界で取れたそれほど質のよくない食材が、最高級食材へと姿を変えていきます。
スイカがマスクメロンへ、ガチョウ肉がフォアグラへ、数の子がキャビアへと変わっていきます。
ゴンゾウさんが生きていたら、とても喜んだでしょう。
「そして、彼の切った食材を私が調理する!」
モウメーダメが高級食材を煮たり焼いたりと、バンバン調理していきます。
その手つきはもはや神業の領域です。
料理のプロなら、誰もが彼の腕に魅了され、目が離せなくなるでしょう。
もし彼が魔界に住んでいたのなら、三ツ星どころか五ツ星ぐらいは取れていたでしょう。
「フォアグラがあんなに……まるで魔法みたいだ……」
兵士の一人が、ポツリとそう呟きました。
しかし、それはモウメーダメにとって聞き慣れた言葉でした。
モウメーダメが料理を開始すると、誰もがそう呟くのです。
何をやっているのかはわからない、でも凄いのはわかる……まるで魔法のようだ、と。
ゆえにモウメーダメは故郷にて『味の魔術師』と呼ばれていました。
食材のホリーシトと、調理のモウメーダメ。
実は二人は元の世界において、数々の料理大会に出場し、優勝をかっさらってきた料理大会荒らしだったのです。
だからこの世界に勇者として呼ばれた時は、そりゃもうビックリしました。
そしてその実力は対戦相手の戦意も削ぐ。
プロなら、モウメーダメの技術を見ただけで、帽子を脱いだでしょう。
「ふん、派手なだけのパフォーマンスで我らに勝てるかな?」
「我らの真心は、生半可な料理をはるかに凌駕するぞ!」
しかし、彼らは四天王。
最後の四天王です。ここで引き下がるわけにはいきません。
多分ムリだろうなと心の底では思っていますが、精一杯強がりながら一生懸命料理します。
頑張れテッペーキ。
頑張れデルモッチ。
「フッ、完成だ!」
「こ、こっちも完成だ!」
2チームの料理がほぼ同時に完成しました。
四天王チームの料理は、まあ、なんていうか、普通の朝食という感じです。
トーストが2枚、バターとイチゴジャム、何の変哲もないサラダ、めだまやき1個、牛乳、りんご、そしてバナナ。
マジョリーシカ、勝利を確信しつつ、それを口に入れます。
「もぐもぐごくん…………まっ! こんなもんですかね。まずくはないですよ。頑張りましたね。うちの料理人として雇うには、ちょっと足りないですけどね!」
あらあら、マジョリーシカったら、もう勝ったと思っているのか余裕の笑みで偉そうです。
彼女の出した点数は3点です。
本当は0点を出したい所ですが、不正を疑われても困るため、ギリギリの点数です。
魔王軍の面々も、美味しいとは言いつつも、点数は振るわず平均して6~7点といった所です。
まあ、自分に作れるものを出されても、高得点は難しいでしょうね。
アマゾンは3点です。部族である彼に肉を出さなかった結果がこの点数です。せめて目玉焼きがベーコンエッグだったら話は変わっていたでしょうに。
ちなみにジェラールは8点の札をあげました。バナナが美味しかったからです。
計32点。
あまり高い点数とは言えませんが、料理内容からするとかなりの健闘といっていいでしょう。
「さて、では私達の料理だ」
勇者チームの料理は、もはや凄いとしか形容出来ません。
高級食材をふんだんに使っていて、かといって不健康かというとそうでもなく、恐らく食べると全ての状態異常が治るでしょう。状態異常だけではありません、HPとMPが全回復し、死んでいても蘇るでしょう。
味の方も見た目どおりならば、口から虹色の光を吐き出し、天空にオーロラを作り出すでしょう。
「うぅぅぅぅまあああああいいぃぃぃぃぞぉぉぉ!」
ほら、一口食べたマジョリーシカの口から虹色の光が放たれました。
そして虹色は窓の外へと出て行くと、魔界の薄暗い不気味な空に、キレイなオーロラを作り出しました。
文句なしの10点満点です。
そして、アマゾンも10点を出しました。
「な、なんという……なんという美味さだ……!」
「カラっと香ばしく、サクッとした歯ごたえで、存在感を主張しつつも舌に溶ける!」
「まったく癖のない味なのに、舌には独特な風味が残る……完璧な味……!」
兵士たちも悔しそうな顔をしつつ10点をあげました。
これで50点。
すでに勇者たちの勝利は決まりました。
「これは……完敗だ……」
「さすがは勇者……我ら四天王の敵う相手では…………なか……った……」
テッペーキとデルモッチも料理を食べ、虹色の光を口から放ちつつ、負けを認めました。
最初からプロに勝てるものではなかったのです。
「ククク……」
「フフフ……ん?」
心地よく笑う勇者たちの目に、審査員席の端に上がる札が入りました。
0点。
そう、0点の札が上げられています。
ホリーシトとモウメーダメがここ十数年見ることのなかった数字、0点が!
「ジェラール!」
そう、ジェラールです。
ジェラールがムスッとした顔で0点の札を上げているのです。
「……なぜだ! 俺たちの料理にケチつけようってのか!?」
そう言われても仕方がありません、なにせジェラールは一口も食べていないのですから。
「理由を言え」
「事と次第によっちゃ、いくらお前でもタダじゃ済まさねえ!」
料理にただならぬプライドを持つ二人は、ジェラールに詰め寄ります。
ジェラールはその凛々しく深い瞳を彼らに向け、一言、言いました。
「ウホ」
「真心が足りない」
真心!
そう、ジェラールはこの料理に真心が足りないことを見ぬいたのです。
数多の大会に優勝し、慢心に次ぐ慢心を繰り返した挙句、傲慢に満ちた味がすると切って捨てたのです。
単に食べるものがなくて0点をつけただけかもしれない、そんな思いが周囲の人々の胸にもありました。
でも、これはボボンゴル族のシャーマンの翻訳なのです。
ボボンゴル族は嘘をつかないのです。
なら、やはりジェラールは真心が無いと断じたということなのです。
「真心だと……」
「そんなもんで納得できるか!」
勇者たちは怒り心頭です。
例え自分たちが慢心と傲慢に満ちあふれていたとしても、味は変わらないはずです。
調子には乗れども、手は一切抜いていないのです。
「撤回しろ!」
「せめて食ってから判断しろ!」
「ウホ」
「食う……? 見ろ、お前たちの料理を」
そう言われて、二人は料理を見ます。
完璧な料理です。
ここ10年の中でも会心の出来といっても過言ではないでしょう。
「ウホウホ」
「この料理に、私の食べられるものがどこにある?
お前たちならば、私の食べられるものでも、彼らに圧勝することは可能だったはず。
彼らの技術は確かに拙い……だが、この場にいる全員が食べられるようにと、最大限の配慮が為されていた。
私は料理は味だけでなく、それ以上のものに評価の基準を起きたい。
大人げなく弱者をいたぶる者の料理より、拙くも温かみのある料理をな……」
「あ……」
「ああ……」
勇者たちの膝が崩れ落ちました。
彼らは、勝ちにこだわるあまり、本当に大切なことを忘れてしまっていたようです。
具体的には幼少期、母親に好物をねだった時とか、始めて料理をして褒められた時とか、そういうのです。
「ウホッ!」
「勝利が確定しつつも、なお満点を目指す。その姿勢はいい。
だが強者である自覚があるなら、弱者を小馬鹿にする態度は控えるがいい」
「はい……」
「わかりました……」
モウメーダメとホリーシトの二人は、うなだれたまま、ジェラールの言葉に頷きました。
これからは心をいれかえ、立派な料理人として活躍していくでしょう。
「……さて。これで四天王は全滅……あとは、魔王だけですね」
マジョリーシカはそう言うと、魔王城の奥へと目を向けました。
四天王が守っていた立派な扉……魔王城の最奥です。
恐らく、そこには魔王が待ち受けているのでしょう。
「行きましょう、世界に平和をもたらすために!」
倒すべきは魔王のみ。
勇者たちの冒険も、最終局面です。




