あるちょっと不思議な日常の話
この世でもっとも強い魔とは何か。
考えるまでもなく睡魔である。
とくに平日をやっとの思いで乗り越えてつかみ取った土曜、この日に惰眠を貪らずしていつ貪るというのか。
「聡太さーん、朝ですよー」
体をゆすられながら可愛らしい声が優しく響いている気がするが、きっと気のせいだろう。いや、間違いなく気のせいということにしておく。
俺は布団を頭まですっぽりとかぶり、自分だけの世界を構築、ここに新世界の神が誕生したのだ。
神は宣言する。我、再び深き眠りにつく、と。
「駄目ですよぉ!今日は二人で雲の上で二人で遊ぶって言ったじゃないですかぁ!遊びに行きましょうよぉ!」
…雲の上?………………あぁ、確かそんなことを昨日言ったような……でもすまん…あと5分だけ…寝かせてくれ…
「ぐぬぬ…聡太さんがその気なら…こっちも実力行使です!えーと……あ、あった!『静電菌』!これを布団の中に入れて…」
布団の中に可愛らしい手が侵入し、あちこちをぺたぺたと触れてくる。いったい何をしてい…
ビリッ!!
「ぇいってえええええ!?」
突然体中に凄まじい衝撃が奔り、思わず布団から跳ね起きる。思わず体を直視するが、外傷らしきものはどこにも無かった。
代わりに、
「おはようございます!聡太さん!」
猫耳猫尻尾を生やした少女が屈託のない笑みで出迎えてくれていた。その可愛らしい顔に俺は思わず手を伸ばし、
「ふぇぇ~…やふてふだひゃいよ~頬をひっはらはいでくだひゃい~!」
開いての痛覚がないぶん、頬を割と思いっきりぐにぐに引っ張り回した。
「こっちはお前の道具のおかげで脳天まで冴えわたってんだよ。少しは報復させろ」
「いやでふよぉ…ほうたふぁんが起きないから悪いんでふぅ!」
俺は惜しみながらも可愛らしい頬から手を放し、小さくため息をついて頷いた。
「分かったから、下で待っててくれ。すぐ行くから」
「そうやって二度寝する気ですね!」
「着替えるんだよ!はよいけ!」
無理やり部屋から少女を追い出し、着替えながらも俺はふと窓から空を仰ぐ。
「ったく、まさか本当に、雲に乗れる時がくるなんてな……」
人生は何が起こるかわかったもんじゃない。案外、空想でしかない世界は突然やってくるものなのかもしれない。
確かに言えることは……俺は今、夢を叶えるのに最高に忙しいということだ。
そう、全てはあの少女が机の引き出しからやってきた瞬間から、始まったんだ。




