【43】「倫理観」をAIは書けない
こうして小説的なものを書いていて、ひとつ気づいたことがあります。
それは『書いている本人が思ってもみなかったことは書けない』ということです。
作者がAIだと、倫理観を持って書いておらず、すべては「設定」と「条件」によって書かれています。
作者が知らないことは書けないのは当然ですが、それ以上に『思ってもみなかったことは書けない』というのが実はとても恐ろしいことだと意識するようになりました。
中でも一番恐ろしいのは『倫理観』です。
『倫理感』ではなく『倫理観』のほうの話をしようと思っています。
その社会や集団の中において、「好ましい」「こうあるべき」とされる行動規範や道徳的価値観を基準にして『善悪が判断される』こと──
まずは作者は作品の中においての『倫理観』を設定しなくてはなりません。
というと、え?そうなの?となるかもしれませんが、おそらくどの作者も「意図せずともやっている」ものだと思います。
「異世界恋愛」ジャンルであれば、
1)身分制度がある
2)男尊女卑が普通に存在している
3)家父長制度がある
この辺りは作者が意図していなくても、それを前提に書いている場合が多い気がします。
これらは読み手側にも浸透していてその前提で読まれていることが多く、これに沿わない設定は明記しないと混乱します。
(その物語の中では第一子であれば女子でも継承することができるなど)
物語の中の『倫理観』の司令塔は主人公です。
大きな権利を持っていれば同じ大きさで義務を負っている、これが物語の中の『倫理観』であれば、婚約者がいるのに別の女性を侍らせ婚約者を勝手にすげ替えようとしている王子に対して「物語の中の倫理観に接触するので主人公がそれにどう対峙するか」を作者は提示しなくてはなりません。
なんだか当たり前のことを書いているように思われるかもしませんが、実はここで世にも恐ろしい「作者自身の倫理観」が垣間見えてしまうのです。
婚約者に冷遇されているのに、ただ耐える、父親にも話さないとなると、主人公も横暴な婚約者とは違う観点で「身勝手」となってしまうおそれがあります。
家父長制度や身分制度がある中ですから、黙って耐えることは美徳ではなく家や父親や制度に対する「反抗」になりかねません。
主人公がいつもそうした制度に反骨精神を持っていると書いてあれば良いのですが、常に従順に生きていたように書かれているのに婚約者の横暴にただ黙って耐えているのは「物語の中の倫理観」への矛盾になってしまいます。
AIで作成されたと思われる話は、この矛盾を孕みながらそれを是正する気がないまま進みます。
私自身で言いますと、上記の2)と3)に関しては「それを受け入れない」現代日本の価値観を持っています。
だから気をつけないと、男尊女卑があることや家父長制度に疑問を持っていないはずの主人公に「状況に耐える」という矛盾行動をさせてしまいがちになります。
なので、「主人公にはそれができる状態ではなかった」ことをクドクド書かなくていけなくなります。
父親から冷遇されているなどがそれにあたります。
まあ、婚約破棄王子が、権利だけを享受し義務を負おうとしない属性持ちとして書いてしまうと、方向性の違う「矛盾」を主人公とその婚約者にそれぞれ持たせることになるので、そこからスッキリざまぁに持って行くのは案外難しいです。
方向性が違えばバンドだって解散しますから、物語も序盤である意味「解散」してしまいがちになります。
そうならないための「説明」が必要なのです。
でも「説明」を説明的に書いてあるものほどつまらないものはありません。
いかに地の文の中に、さりげないのにしっかりとそこを書くか……。
面白い小説はその匙加減が本当に素晴らしいのです。
それが成功していれば、読み手はどこにも引っかかることなく物語の流れに乗ってどんどん読み進めることができます。
冒頭に「作者が思ってもみなかったことは書けない」と書きましたが、実は「思っていてもうまく書けない」も同時に存在します。
自分が読みたいと思っている面白い話を書きたいのに、思っていてもうまく書けないという現実とグダグダと戦っています。
AIで作られた話には作者の倫理観が最初から存在しないということになるので、矛盾があろうがどうであろうがかまわず物語は進んでいきます。
それを面白いと思わない感性を持って、書いています。




