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昭華の庭でゆるり  作者: 鑫鑫


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第98話 花笑色跳《かしょうしきちょう》

王城の中で、若い娘たちが自由に使える庭はただ一つ——儀庭。

儀庭の昼過ぎは、白石の上に黄金色の光が降り注ぎ、東屋の影が深くしなやかに庭へ伸びていた。


今日催される華会(花の会)に向け、庭っ娘たちが東屋の前にぽつりぽつりと集まり始める。昼下がりのあたたかな陽光を受け、生けられた花々が眩いばかりの色彩を放っていた。色壺を抱えた腕を軽く揺らし、光を反射して輝く花びらを見つめた瑠映は、まぶしそうに目を細めて言った。


瑠映:「花の色が朝光で跳ねすぎじゃったわ……」


夜凛は舞衣の袖をそっと整え、咲きこぼれる絢爛な花々を見つめながら言った。


夜凛:「そうじゃね。色が跳ねる日は言葉が追いつかんのよ~……」


琴雪は深読み書を開き、花弁から白石へ落とされた影の複雑な揺らぎを指でなぞりながら静かに目を輝かせた。


琴雪:「花の影が揺れとる……意味が三つ増えるんじゃ……」


黒耀は抱えた巻物をぴしりと整え、影の傾きと立ち位置を冷静に確かめながら言った。


黒耀:「花の影が乱れると礼が崩れます。位置を変えましょう」


紅牙は静の気配をまとい、昼下がりの深い静寂と重厚な華やかさを感じ取って短く呟いた。


紅牙:「……静が沈んどる」


芳華は前髪をあわただしく整え、いまにも咲きこぼれそうな花の生命力に圧倒されて声をあげた。


芳華:「え~どうしよ~、花が勝手に笑っとるよ~……」


瑠映は抱えていた色壺の蓋に手をやり、くすりと笑いながら壺をぎゅっと抱え直した。


瑠映:「花が笑う日は色が増えるけぇ、壺を閉めとこ。」


東屋の下で、昼の光に眩しく笑う花々と深読みの賑わいに包まれながら、白石の上には華やかな色彩の余韻だけが柔らかく残っていた。



【昭華の豆知識】


●『花笑色跳(かしょうしきちょう)』


昭華王朝の華道および感性美学において、昼過ぎの強烈で温かな陽光を浴びた花々が、その色彩を最大限に飽和させて一気に咲き誇り、まるで花自身が声を立てて笑っているかのように見える情景を指す言葉。当時の宮廷文化では、植物が放つ圧倒的な生命力や色彩の躍動は「自然の歓喜(天の微笑み)」とされ、見る者の五感を心地よく惑わす風雅な現象として大いに愛でられていた。


●“花は心の咲き誇り”


昭華の美意識においては、「爛漫と咲き誇り笑う花々の姿とは、そこに立ち会う人々の内なる心が解き放たれて咲き誇った瞬間である」と考えられていた。

作中において、あまりにも鮮やかな花々に「言葉が追いつかん」「花が笑っとる」と無邪気に感動し合い、色が増えすぎないように壺を閉める庭っ娘たちの可憐な姿も、自然の瑞々しい美しさを全身で愛おしみ、仲間と共に楽しんでいた、雅で生き生きとした日常の名残なのである。


儀庭の昼下がりは、今日もゆるりと始まる。

手酌のお茶を一口すすり、陽光に眩しく輝く花々の微笑みを心ゆくまで慈しみながら——。

そして、ゆるりと騒がしくなる。

それが昭華王朝の、いつもの日常じゃった。

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