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昭華の庭でゆるり  作者: 鑫鑫


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第97話 湯気揺昇《ゆげようしょう》

王城の中で、若い娘たちが自由に使える庭はただ一つ——儀庭。

儀庭の朝は、白い石畳の上に柔らかい光が流れ、東屋の影が静かに庭へ伸びていた。

今日催される茶会(茶の会)に向け、庭っ娘たちが東屋の下へぽつりぽつりと集まり始める。朝の澄んだ空気の中で、淹れ立てのお茶から白く細い湯気がゆらゆらと立ち上り、朝風に誘われて柔らかく揺らめいていた。


水盤に映る前髪を整えていた芳華は、茶碗から昇る湯気を見つめて目を丸くした。


芳華:「茶の湯気が、朝から勝手に揺れとるんよ~……」


瑠映は色壺を抱えた腕をちょんと揺らし、光の差し込む茶碗の色彩を見比べながら言った。


瑠映:「そうじゃね。湯気が揺れる日は色が薄うなるけぇ、茶碗の位置変えよか」


黒耀は抱えた巻物を引き寄せ、茶器の配置と落とす影の美しさをぴしりと確かめて冷ややかに言った。


黒耀:「茶の影が乱れます。位置はここです」


夜凛は舞衣の袖をそっと払い、空中に立ち上る白煙の舞うような軌跡を目で追いながら言った。


夜凛:「湯気が揺れると詩が勝手に増えるんよ~……」


琴雪は深読み書を開き、揺れる湯気の向こうに透ける紙面の余白を見つめて静かに目を輝かせた。


琴雪:「湯気が揺れると意味が三つ増えるんじゃ……茶会が深読み会になる……」


紅牙は静の気配をまとい、漂う湯気の気まぐれに場の緊張が和らぐのを感じ取って短く呟いた。


紅牙:「……静が薄うなる」


芳華は前髪を慌ただしく押さえ、先走る湯気の速さに困り顔になりながら声をあげた。


芳華:「え~どうしよ~、茶の湯気が先に行っとるよ~……」


東屋の下で、ゆらゆらと昇る湯気と深読みの気配に賑わいながらも、手元から漂う温かなお茶の香りと優しい余韻だけが朝のぽかぽかとした陽だまりの中に柔らかく残っていた。



【昭華の豆知識】


●『湯気揺昇(ゆげようしょう)』


昭華王朝の茶道および感性空間美学において、淹れ立てのお茶から立ち上る温かい湯気が、朝の繊細な空気の揺らぎ(気圧や風)によって複雑にゆらめき昇り、空間全体に幻惑的な気配をもたらす現象を指す言葉。当時の宮廷文化では、お茶を楽しむ行為とは「五感すべてで場と対話すること」とされていたため、立ち上る湯気の不規則な形状は、その場に集う人々の想像力や詩情を刺激する「風雅な余白」として尊ばれていた。


●“湯気は心の温もり”


昭華の美意識においては、「温かいお茶から立ち上る湯気の揺らぎとは、人の心が解きほぐされて溢れ出す温もりそのものである」と考えれていた。

作中において、たかが湯気の揺らめきひとつに「詩が増える」「意味が三つ増える」「先に行っとる」と大騒ぎしつつお茶を囲む庭っ娘たちの可憐な姿も、日々のささやかな温もりに心を寄せ合い、豊かな言葉と笑い声を分かち合っていた、雅で生き生きとした日常の名残なのである。


儀庭の朝は、今日もゆるりと始まる。

手酌のお茶を一口すすり、立ち上る湯気の温もりを心ゆくまで愛おしみながら——。

そして、ゆるりと騒がしくなる。

それが昭華王朝の、いつもの日常じゃった。

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