第八話 〜なさんな
王城の中で、若い娘たちが自由に使える庭はただ一つ——儀庭。
庭っ娘たちの拠点となるこの庭では、
いつでも必ずゆるふわな騒ぎが起こる。
昼の儀庭は、白い石畳がぽかぽかと温かそうに太陽の光を浴び、短い影が地面に跳ねていた。
東屋の前では、瑠映が階段の話をしながら、
色壺を抱えた腕をちょんと揺らしていた。
瑠映:「昨日、うちの階段で三段くらい踏み外したんよ~……」
芳華:「なんでそんなことになるん?」
瑠映:「考えごとしながら歩いとったんよ~……」
黒耀は巻物を胸の高さで広げ、
自分の影が乱れないように位置を整えてから言った。
黒耀:「詩巻を読みながら歩くのは危険です!」
夜凛は舞衣の袖を右から払い、
白い石畳の上にそっと風を送る。
夜凛:「舞で足元を整えちゃげるけぇ! ほら、風で——」
芳華:「整えなさんな~! 階段は飛んでいかんよ~!」
琴雪は深読み書を胸の高さで開き、
息を整えてから静かに言った。
琴雪:「これは“歩の乱れ”じゃ。
足の迷いは心の迷いであり——」
紅牙は他者の影を踏まないように一歩進み、
短く場を締めた。
紅牙:「……違う。座れ。」
瑠映:「座ったら進めんのんよ~!」
儀庭の昼下がりは、今日もゆるりと騒がしい。
【昭華の豆知識】
●『歩の乱れ』
昭華王朝において、歩きながら考えごとをして足元を狂わせることを指す言葉。当時の礼法では「歩行の所作」も重要な文化の一部とされており、足元の乱れはそのまま「心の乱れ」として厳しく扱われていた。
●"歩は心の影"
深読み家の思想において、歩き方はその者の精神的な影を映し出すとされていた。今回の瑠映の「三段踏み外し」も、文化的な観点からは「心がふわふわと浮ついていた証拠」と解釈される。
儀庭の昼は、今日もゆるりと始まり、ゆるりと騒がしくなる。
それこそが昭華王朝の、愛おしい日常であった。




