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昭華の庭でゆるり  作者: 鑫鑫


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第26話 足音読《そくおんどく》

王城の中で、若い娘たちが自由に使える庭はただ一つ——儀庭。

儀庭の朝は、白石の上に澄んだ光が落ち、風が細く庭をすべっていった。東屋の柱の影が心地よく伸びるなか、六文化の娘たちは白い石畳の上に思い思いの姿勢で集まり始めている。修行の合間に交わされる「足音」の話題は、庭っ娘たちの間でよく笑いを生むのだった。朝の清々しい空気の中で、芳華は前髪を整えながら、昨日の廊下での出来事を思い出して笑った。


芳華:「昨日、後ろからバタバタってぶち急がしい足音が聞こえたけぇ、瑠映かと思ったら……」


瑠映は色壺を抱えた腕を揺らし、自分の足音のテンポを思い出しながら言った。


瑠映:「うちはいつも色をこぼさんように『そーっ、そーっ』て歩くけぇ、そんなに急がしくないよねぇ」


夜凛は舞衣の袖を軽く払って、自分のステップのような歩き方を披露しながら言った。


夜凛:「夜凛の足音はいつも『トントン、ひらり』って、舞うみたいなリズムじゃけぇね。」


琴雪は深読み書を開き、足音から感情を読み解く深読みの技術を自慢げに言った。


琴雪:「足音の『歩幅の余白』を聴けば、その人が今何を考えて歩きよるか、だいたい深読みできるんよ。」


黒耀は巻物を整え、一番分かりやすい足音の主を指さして言った。


黒耀:「でも、一番遠くからでも響いてくる足音の主は、すぐに分かるよね。」


紅牙は自分の足音が一切しない(静の修行のため)ことに胸を張りつつ、遠くから聞こえる「ある足音」の気配を感じて静かに言った。


紅牙:「……あの『のっしのっし』という、重たくて迷いのない自然な足音は……」


芳華が自分の足元を見て、ぽかんと首をかしげた。


芳華:「……あ、うちじゃ。うち、白石の上歩くとき、いっつもバナナの皮でも踏まんように『のっしのっし』歩きよるわ……」


儀庭の光はゆるりと安定し、のっしのっしという足音の余韻だけが、優しく響いていた。

芳華の愛おしいマイペースさから始まった大騒ぎの余韻が、朝のぽかぽかとした陽だまりの中に柔らかく溶けていく。



【昭華の豆知識】


●『足音読(そくおんどく)


昭華王朝の宮廷観察学および対話礼法において、足音の響きや歩調テンポから、その者の身分や秘めたる感情の動きを読み解く「深読み」の技術を指す言葉。特に格式高い宮廷内においては、足音を完全に消して密やかに移動する「消音の礼(歩法の美徳)」が至上の嗜みとされていたため、大きな足音を周囲に響かせる者は「内なる精神が散らかっている状態」としてみなされていた。


●“足音の余白”


昭華の空間思想においては、足音と足音の間に生じる「静寂の時間(歩幅の余白)」の均整が重視されていた。

この余白の幅が一定で均等な者は、心が極めて安定し悟りの境地にあるとされ、逆に余白が不規則に乱れている者は「焦り」や「迷い」を抱えていると解釈されていた。

作中において、芳華の「のっしのっし」という重たくもどこか愛らしい足音に五感を心地よく圧倒され、微笑み交わす大騒ぎも、彼女の飾らない自然体の精神がそのまま音となって儀庭を包み込んでいた、雅で生き生きとした日常の名残なのである。


儀庭の朝は、今日もゆるりと始まり、そしてゆるりと騒がしくなる。

それこそが昭華王朝の、いつもの日常であった。

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