あとがき
ここまで『君の隣を目指して』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
第200話まで書き終えた今、最初に思うのは、「長かった」よりも「ちゃんとここまで来られた」という気持ちです。
この物語は、大きな事件を次々に乗り越えていく話ではありませんでした。
誰かの声を聞くこと。
同じものを見ても、違う意味に見えること。
すぐに答えを出せない時間。
変えた方がいいのか、変えない方がいいのか迷う時間。
隣に行きたいのに、その一歩がなかなか踏み出せない気持ち。
そうした、小さく見えるものを積み重ねていく物語でした。
第二実習室への案内も、最初から大きな目的だったわけではありません。
一人の「分かりにくい」という声から始まり、文字を大きくするだけでは足りないと気づき、色や形、見る順番、利用者の感じ方、管理する人の立場まで、少しずつ考える範囲が広がっていきました。
良いと思った案が使えなかったこともあります。
利用者のために作ったものが、別の利用者には負担になることもありました。
正反対の意見が届くこともありました。
そのたびに十一組ラボは、「どちらが正しいか」を急いで決めるのではなく、「なぜそう感じたのか」を見ようとしました。
その姿勢は、いつの間にか案内だけではなく、彼ら自身の人間関係にもつながっていきました。
島中は、進むことだけが前進ではないと知りました。
田辺は、止めるだけではなく、進める人がいることの意味を認めました。
美優は、採用されなかった案にも役割が残ることを知りました。
蓮は、失敗を完全になくすことより、失敗しても戻れる仕組みを選びました。
茜は、違う意見を無理に一つへまとめなくてもいいと考えるようになりました。
紅秋は、完成するまで抱え込むのではなく、渡せるところまで来たら誰かへ託すことを選びました。
春樹は、「同じものが同じ意味に見えるとは限らない」ことを受け止めながら、自分の気持ちも少しずつ言葉にできるようになりました。
そして、なつきもまた、すべての声へそのまま答えることだけが優しさではないと知りました。
形にならなかった意見も。
採用されなかった案も。
答えを出せなかった迷いも。
なくなったわけではありません。
誰かの考え方に残ったり、次の形へつながったり、別の誰かの言葉として出てきたりします。
この作品で何度も描いてきた「残る」ということは、そういう意味でした。
そしてもう一つ。
この物語の中心には、ずっと「隣」がありました。
最初のなつきにとって、春樹の隣は「行きたい場所」でした。
もっと近づきたい。
もっと話したい。
自分もそこにいていいと思いたい。
そんな気持ちから始まりました。
けれど物語を進めるうちに、「隣」という言葉の意味も少しずつ変わっていきました。
同じ場所にいるだけではない。
いつも同じことを考えていることでもない。
相手が考えている時間を待つこと。
分からないと言えること。
自分には違って見えると伝えること。
変わった時に、また話そうとすること。
離れてしまったら、もう一度近づこうとすること。
そういうものも全部、「隣にいる」ということなのかもしれません。
だから、この作品は「君の隣に辿り着いて終わる話」ではなく、「君の隣を目指し続ける話」として終わりました。
今、なつきと春樹は隣にいます。
でも、それが完成ではありません。
この先もきっと、すれ違います。
不安になる日もあるでしょう。
別々のものを見る日もある。
それでも、そのたびに話して、聞いて、迷って、また近づいていく。
そんな二人でいてくれたらいいなと思っています。
十一組ラボも同じです。
第二実習室への案内についての活動は一区切りになりました。
でも、十一組ラボそのものが終わったわけではありません。
翌日になれば、きっと誰かがまた教室へ来ます。
島中が何かを言い始めて、田辺が突っ込みます。
美優が別の見方を出して、蓮が条件を確認します。
茜が違う意見を並べて、紅秋が急ぎすぎないよう全体を見ます。
春樹は少し考えてから話し、なつきもその輪の中にいます。
何も問題がない日なら、ただご飯を食べて笑っているかもしれません。
それでいいと思っています。
物語の中で彼らが作ったものの中で、もしかすると一番大きかったのは案内ではなく、「戻ってこられる場所」だったのかもしれません。
そして、この200話という長い物語を最後まで読んでくださった方にも、心から感謝しています。
彼らが迷い続ける時間。
すぐには進まない話し合い。
何度も試しては戻る過程。
恋愛が少しずつ動いていく距離。
そうしたものを最後まで見届けてくださったからこそ、この物語はここまで来ることができました。
終わりは、なくなることではありません。
ここまでだったと認めて、その先へ進むための一区切りです。
この物語を読み終えた後も、なつきたちはきっとどこかで笑い、迷い、話し合い、また誰かの隣を目指していると思います。
その姿を少しでも想像していただけたなら、これ以上嬉しいことはありません。
改めて。
最後まで『君の隣を目指して』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
そして、ここまで一緒に歩いてくださったあなたへ。
また、どこかの物語で。
おかえりと言える日まで。




