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神殺しの2トントラック〜社畜ドライバーの異世界爆走記〜  作者: ぱすた屋さん


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第9話:【トラブル】貴族からの指名依頼。運ぶのは「腐敗寸前の特効薬」



「その荷物、俺が運んでやる。納期は半日だ」


 静まり返った冒険者ギルドに、駆さんの平坦な声が響き渡った。


「ゆ、半日だと!?」


 床に膝をついていた使者の男が、弾かれたように顔を上げる。


「馬鹿なことを言うな! 王都からオルテシア伯爵領まで、どんなに急いでも250キロはあるんだぞ! 馬を何匹も乗り潰して、ようやく5日で着く距離だ!」


「……馬力エンジンの性能が違う。俺のトラックなら5時間で着く」


 駆さんは一切の感情を交えずに答えた。

 周囲の冒険者たちも「いやいや、いくらあの鉄の魔獣でも……」「道中には険しい山越えもあるんだぞ」とざわめき始める。


 その時だった。

 私の頭の中で、『報酬はいくらでも払う』という使者の言葉が、何度も何度もエコーしてリフレインした。


 いくらでも。

 いくらでも。

 つまり、私の500万ゴールドの借金すら、一発で返せるかもしれないほどの金額……!


「か、駆さん! ちょっと待ってください!」


 私は駆さんを押しのけ、使者の男の前にスライディング土下座の勢いで滑り込んだ。


「本当ですね!? 報酬は『いくらでも払う』って、本当に言いましたね!?」


「え? あ、ああ……お嬢様の命が助かるなら、伯爵様は金に糸目をつけないお方だ。だが、本当に夕方までに……」


「やります! やらせてください!!」


 私は行商人時代に培った、最も胡散臭い『商人の笑顔』を顔に貼り付けた。


「私たち『轟運輸』の恐るべき機動力は、そこにいるギルバート様や受付嬢さんが保証します! スライムの粘液を完璧な状態で、たった一晩で運んだ実績がありますから!」


「なっ……あのスライムの粘液を、一晩で!?」


 使者の男が驚愕の表情でギルバートさんを見ると、ギルバートさんは深く頷いた。


「うむ。彼らの運送技術は魔法を超える。信じて任せてみる価値はあるぞ」


 その言葉に、使者の男の目に希望の光が宿った。


「ほ、本当か……! なら頼む! 報酬は金貨200枚……いや、300枚出そう! どうか、お嬢様を助けてくれ!!」


「き、きんか、さんびゃくぅぅぅっ!?」


 私は泡を吹いて倒れそうになった。

 金貨300枚。

 一生遊んで暮らせる。借金を返してもお釣りがくる。毎食カップヌードルが食べられる!


「契約成立です! サインはこちらへ! 違約金なしの一発勝負で承ります!!」


 私はものすごいスピードで契約書(木の板)を奪い取り、勝手にサインを書き込んで使者の男に押し付けた。


「おい、ミオ。勝手に営業をかけるな。俺は基本料金と深夜割増くらいしか……」


「駆さん! これは私たちの会社の存続に関わる超特大ビッグビジネスですよ! やりましょう! 絶対にやりましょう!」


「……まあいい。荷物があるなら運ぶのが運送屋だ。それで、その特効薬はどこにある」




     * * *




 使者の男が大切そうに抱えていたのは、分厚い金属製のトランクだった。


「これが特効薬の『世界樹の朝露』だ」


 トランクが開かれると、中には青白く発光する美しい液体が入ったガラス瓶が収められていた。

 しかし、その光は今にも消えそうなほど弱々しく明滅している。


「この薬は、光の魔力が失われるとただの水になってしまう。そして、熱と振動に極端に弱い。少しでも揺らせば魔力が抜け、温度が上がれば腐敗してしまうんだ」


 使者の男は絶望的な顔でガラス瓶を見つめた。


「王都の魔法使いたちが『冷却の魔石』と『衝撃吸収の結界』をかけてくれたが……もう限界だ。魔石の力はあと数時間で尽きる。これが切れたら、薬は終わりだ」


「……なるほど。確かにデリケートな荷物だな」


 駆さんはガラス瓶をヒョイと持ち上げた。


「ああっ! 乱暴に扱わないでくれ! 振動で光が……!」


「ミオ、荷台を開けろ。冷蔵庫の温度は2度に設定しろ」


「はいっ!」


 私はトラックの後ろに回り、ダッシュで荷台のドアを開けた。

 駆さんはトランクごと特効薬を冷蔵倉庫スペースに運び込むと、備え付けの緩衝材プチプチでぐるぐると巻きにし、ロープでガチガチに固定した。


「よし。これで完璧だ」


「な、なんだこの部屋は……!? まるで氷の精霊の住処のような冷気……!」


 使者の男が荷台の中を覗き込んで驚愕している。


「……保冷完了。さらに、俺のトラックは電子制御式エアサスペンションを搭載している。振動は荷台には一切伝わらない。腐敗も衝撃も、これで解決だ」


 駆さんはバタン! とドアを閉め、運転席へと向かった。


「出発する。ミオ、ナビを頼む。オルテシア伯爵領までの最短ルートだ」


「はいっ!」


 私は助手席に飛び乗り、シートベルトを締めた。

 頭の中はもう、金貨300枚のことでいっぱいだ。


「ここからだと、ヴァリス山脈を越える『王の剣道』を通るのが唯一のルートです! 山越えになりますけど、道幅も広くて舗装されてますから、トラックでも余裕ですよ!」


「了解した。シートベルトよし、ミラーよし、特効薬よし」


 駆さんはシフトレバーを入れ、アクセルを踏み込んだ。


 ヴルルルルルンッ!


「すぐ届ける。納期は絶対だ」


 トラックは砂埃を巻き上げながら、オークヘイブンの街を飛び出した。




     * * *




 それから1時間後。


 トラックは順調に街道をひた走り、ヴァリス山脈の麓へと差し掛かっていた。

 窓の外には、見上げるほど巨大な山々が連なっている。


「ふふふ……金貨300枚……金貨300枚……」


 私は助手席でニヤニヤと笑いながら、手元のメモ帳に皮算用を書き込んでいた。


「借金500万を返して……残りの金で王都に一軒家を買って……お店を開いて……」


「……ミオ。皮算用は納品が終わってからにしろ。前方に障害物だ」


「えっ?」


 駆さんの声に顔を上げると、フロントガラスの向こう側に、信じられない光景が広がっていた。


「な……なんですか、これ」


 ヴァリス山脈へと続く太い街道。

 その道が、見渡す限りの『馬車の大渋滞』で完全に塞がれていたのだ。


 行商人、冒険者、旅人。

 数え切れないほどの馬車が立ち往生し、人々が混乱して右往左往している。


「渋滞か。事故でも起きたか?」


 駆さんはトラックを停止させ、サイドブレーキを引いた。


「ちょっと見てきます!」


 私はトラックを降りて、近くで頭を抱えていた行商人のおじさんに声をかけた。


「あの! 何があったんですか!? なんでこんなに混んでるんですか?」


「ああ、お嬢ちゃんも足止めかい。大変なことになっちまったよ」


 おじさんは絶望的な顔で山の上を指差した。


「さっき、山の頂上付近で野生の『岩石竜ロックドラゴン』が暴れてな。そのせいで、超特大の土砂崩れが起きたんだ!」


「ど、土砂崩れ!?」


「ああ。山を越える『王の剣道』が、数百メートルにわたって完全に崩落しちまった。復旧には魔法使いを総動員しても、一ヶ月はかかるって話だぜ」


「い、一ヶ月……!?」


 私は目の前が真っ暗になった。


「じゃあ、オルテシア伯爵領へは……」


「行けないよ。完全に道が塞がれちまったんだ。迂回するなら、山脈をぐるっと回って2週間はかかるな。みんな諦めて引き返すところさ」


 私は膝から崩れ落ちそうになりながら、トラックの運転席に戻った。


「……どうした。顔面が蒼白だぞ」


 駆さんが窓から顔を出して聞いてくる。


「お、おしまいです……駆さん……」


 私は涙目で訴えた。


「土砂崩れで、街道が完全に崩落したそうです。復旧に一ヶ月。迂回ルートだと2週間……」


「……なんだと?」


「どうやっても、夕方までに特効薬を届けるなんて不可能です! お嬢様は助からないし、金貨300枚もパーですぅぅぅぅっ!」


 私は両手で顔を覆い、ワンワンと泣き始めた。

 あんなに皮算用していたのに。私の輝かしい未来が、土砂崩れと共に崩れ去ってしまった。

 貴族の依頼を失敗したら、違約金どころか首が飛ぶかもしれない。


「……泣くな。うるさい」


 駆さんは一切の動揺を見せず、ダッシュボードの地図(私が描いた雑な手書きマップ)をじっと見つめた。


「道が塞がっているなら、仕方ない」


「で、ですよね……諦めて引き返して、使者の人に謝りましょう……」


「いや。迂回はしない。納期に遅れるからな」


「えっ?」


 駆さんは、おもむろにハンドルの横にある謎のスイッチをカチッと押し込んだ。


『4WDモード、起動。センターデフロック、オン』


 トラックの車体から、ゴキッ! と何か重々しい機械音が鳴り響く。


「か、駆さん? 何のスイッチを入れたんですか?」


「……正規ルート(街道)が土砂崩れで通れない。なら、答えは一つだ」


 駆さんは死んだ魚の目で、まっすぐに『山そのもの』を見上げた。

 街道が崩落している、その横。

 木々が生い茂り、岩がゴツゴツと突き出した、道など一切存在しない『断崖絶壁』の急斜面。


「道なき道を、直進して山を越える(ヒルクライムする)」


「…………はい?」


 私の頭が、その言葉の意味を理解するのを拒絶した。


「直進……? 山を越える……? この鉄の魔獣で?」


「そうだ。オフロード走行の準備をしろ。舌を噛むぞ」


 駆さんは一切の冗談抜きで、ハンドルを思い切り右に切った。

 タイヤの向きが、街道から外れ、見上げるような急斜面の方を向く。


「ま、待って! 待って待って待って!」


 私はパニックになり、運転席の窓枠に必死にしがみついた。


「むりむりむり! どう見ても崖ですよ!? 角度がおかしいですよ!? 馬だって登れないのに、こんな重たい鉄の塊が登れるわけないじゃないですかぁぁぁぁっ!」


「……俺のトラックのトルクと、スタッドレスタイヤのグリップ力を舐めるな。それと、四輪駆動はダテじゃない」


 駆さんは私の悲鳴を完全に無視し、右足をアクセルペダルに乗せた。


「轟運輸、直行便。山越えルート、出発」


 ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!


「ぎゃあああああああああああああああああっ!!!!」


 ディーゼルエンジンのけたたましい咆哮と共に、2トンの鉄の塊が、物理法則を完全に無視して、道なき断崖絶壁へと猛然と突撃を開始したのだった。


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