表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの2トントラック〜社畜ドライバーの異世界爆走記〜  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/34

第31話:【降臨】「慰謝料と燃料代を請求する」ブチギレた女神、ついに下界へ



 土煙が晴れつつあるメルカディア郊外の荒野。

 巨大なクレーターの底には、かつて世界を滅ぼしかけた『厄災の邪竜』が、全身の骨を砕かれてピクピクと痙攣していた。


「あ、あわわ……本当に、ドラゴンを空から叩き落としちゃった……」


 私は助手席からフラフラと降り立ち、信じられない光景を前にへたり込んだ。

 剣も魔法も使わず、ただ「上からトラックで踏み潰した」だけである。神話の英雄が聞いたら、ショックで寝込むレベルの物理的な討伐だった。


「……ミオ。ナビなら、さっさと事後処理の手伝いをしろ。見積書を作成する」


 一方の駆さんは、完全に死んだ魚の目でバインダーを開き、ボールペンをカチカチと鳴らしながら邪竜の鼻先へと歩いていった。


「み、見積書? ドラゴンにですか?」


「当たり前だ。このトカゲのせいで、俺は貴重な『神聖粘性液ヘブンズ・オイル』を大量に消費したんだぞ」


 駆さんは邪竜の巨大な目玉を真っ直ぐに見据え、淡々と計算を始めた。


「フライト・ユニットの燃費はリッター100メートル。上空でのチェイスと降下を含め、およそ5キロの飛行。……オイル代だけで、金貨換算で数百枚は下らないな。それに加えて、ボディに付着した火山灰の特殊洗浄代(手洗い洗車・ワックスがけ含む)だ」


『グ、グォォォ……き、貴様ぁ……ただの人間ごときが、この我に向かって、何を……』


 邪竜が口から白煙を吐きながら、怨嗟の声を漏らす。


「……言葉が通じるなら話は早い。合計で金貨800枚だ。現金か、それともその鱗や牙を素材として引き取らせてもらおうか? 運送業にとって、回収不能な経費(赤字)は絶対に許されない」


 駆さんがレンチを片手に、邪竜の牙をコンコンと叩いた。

 その「ただの社畜」から放たれる、底知れぬ狂気と取り立ての執念に、厄災の邪竜はついに恐怖の涙を流した。


『ヒッ……ば、化け物め……! 神よ、アリアリア様! 話が違いますぞ! こんなデタラメな鉄の箱、我の手に負えるわけが……ガクッ』


 邪竜は最後にそう言い残すと、完全に白目を剥いて気絶し、その巨体が光の粒子となって崩れ去っていった。

 そして、跡地には、邪竜の魔力が結晶化した、大人の頭ほどもある巨大な赤黒い宝石ドラゴンコアがゴロンと転がった。


「……ふむ。魔物の核か。これなら市場で金貨1000枚以上の値はつくだろう。燃料代と洗車代としては十分だ」


 駆さんはドラゴンコアをひょいと拾い上げ、バインダーに『領収済み』のチェックを入れた。


「か、駆さん……あなたって人は、厄災の邪竜からもきっちり経費をむしり取るんですね……」


「……プロの運送屋だからな。利益率の確保は基本中の基本だ」


 駆さんがトラックの荷台に宝石を放り込もうとした、その時だった。


 パキィィィィィィンッ……!!


 突然、空そのものに巨大なヒビが入るような、甲高い音が世界に響き渡った。


「えっ……?」


 私が空を見上げると。

 先ほどまで邪竜が呼んでいた暗雲が、まるでモーゼの十戒のように真っ二つに割れ、そこから目が眩むような『黄金の光』が荒野に向かって一直線に降り注いできたのだ。


「な、なんですかあの光!?」


『アァァァァァァァ〜〜〜♪』


 どこからともなく、天使たちの歌う荘厳なコーラスが響き渡る。

 黄金の光の柱は、私たちとトラックの目の前の大地に降り注ぎ、周囲の空気が圧倒的な『神気』によって震え始めた。


 そして、その光の中から、一人の女性が姿を現した。


 純白のドレスに身を包み、背中には神々しい光の輪を背負った、絶世の美女。

 しかし、その美しい顔面には、青筋が何本も浮かび上がり、怒りで般若のような形相になっていた。


「……よくも、よくも私の可愛い邪竜ちゃんを、あんな無様な姿にしてくれたわねぇぇぇっ!!」


 女性の怒鳴り声が、荒野全体にビリビリと響き渡る。


「ひぃぃぃぃっ! な、なんですかあの人! すごいプレッシャーですぅぅぅ!」


 私はあまりの恐ろしさに、トラックのタイヤの後ろに隠れてガタガタと震え出した。


 間違いない。

 あの光、あのコーラス、そしてあの常軌を逸した神聖なオーラ。

 あれは、人間が束になっても敵わない、この異世界を統べる神そのものだ。


「……ついに、神様が直接怒りに来たんだ……! おしまいです、駆さん! 今度こそ、跡形もなく消し飛ばされちゃいますぅぅぅ!」


 私が絶望の涙を流していると。


「……おい」


 駆さんが、死んだ魚の目で、降臨したばかりの女神へとゆっくりと歩み寄っていった。


「か、駆さん!? 駄目です、近づいちゃ!」


 女神は、歩み寄ってくる駆さんを見て、ニヤァと残忍な笑みを浮かべた。


「ふふふっ、ついに自分がどれだけ大罪を犯したか気づいたようね、轟駆! 勇者を轢き、帝国を壊滅させ、私の邪竜まで! もう許さないわよ! ここで私が直接、あなたを次元の彼方へ消し去って――」


「……遅い」


 駆さんの低く、感情のない声が、女神の言葉を遮った。


「……はい?」


「……配車担当クソめがみ。お前、俺が下界に派遣されてから、今日で何日目だと思っている」


 駆さんは、バインダーの中から、分厚い紙の束を取り出し、女神の目の前にバサァッ! と突きつけた。


「な……なによこれ!?」


「……『未払い残業代および、休日出勤割増賃金の請求書』だ」


 駆さんはボールペンの尻をカチッと鳴らした。


「この異世界への出張、本来の業務契約にない深夜の長距離運転、度重なる命の危機(労災案件)、および車検非対応の違法パーツ(フライト・ユニットなど)を勝手に取り付けられたことに対する精神的苦痛への慰謝料。……すべてこの紙にまとめてある」


「は、はぁぁぁっ!?」


 女神アリアリアは、突きつけられた請求書と、駆さんのあまりにも平坦な態度に、完全にパニックに陥った。


「な、なに言ってるのよ! 私は神よ!? あなたの命を握っている創造主よ!? なんで私が、下等な人間の作った紙切れ(請求書)を受け取らなきゃいけないのよぉぉぉっ!」


「……神だろうが社長だろうが関係ない。労働基準法を無視するブラック企業には、それ相応の落とし前をつけてもらう。……それが、俺のやり方だ」


 駆さんは死んだ魚の目に、かつてないほどの怒りと『社畜の執念』を燃え上がらせていた。


「支払いは一括で頼むぞ、アリアリア。……もしバックれると言うなら」


 駆さんは背後の純白の2トントラックを親指で指差した。


「天界の労働基準監督署(お前の顔面)に、もう一度、この2トントラックを全力で突っ込ませる(直訴する)ことになるが、構わないな?」


「ひぃっ!?」


 女神アリアリアは、前回天界で轢き逃げされた時のトラウマが蘇ったのか、思わず一歩後ずさった。


 異世界を統べる最高神と、ブラック企業で鍛え上げられた最強の社畜ドライバー。

 世界の存亡……いや、未払い残業代の支払いを賭けた、真の『最終決戦(労働争議)』が、今まさに幕を開けようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ