最終投:これぞ合気道無双!
「あっ! そのタトゥー! 今度こそ本物の【白羽の蛇】ね! ここで会ったが百年目! この新人美少女冒険者デリアちゃんが、天に代わってアンタたちを地獄の三丁目のゴミ捨て場にポイしてケルベロスの餌にしてやるから、覚悟なさい!」
「ハッ、なかなかおもしれー女連れてんじゃねぇかジェイク。お前も男になったか?」
「え? ……アンタ、やっぱり【白羽の蛇】の一員だったの?」
デリアちゃんが警戒しながら、俺から距離を取る。
「……いや、神に誓って俺は【白羽の蛇】じゃないよ。……この人たちは、その昔ゴウガイ流合気道っていう武術の道場で、同じ釜の飯を食った弟子だったんだ。この人たちは、途中で弟子を辞めて出て行ったんだけどね」
「そ、そうなんだ……」
「ハハッ、そうだよなぁ。圧倒的な強者である俺たちと、ただのザコなお前とじゃ、とても仲間にはなれねぇからなぁ」
「……どうしてですかブラッドリー先輩! なんで盗賊なんて、卑劣な真似を――!」
これじゃ天国のゴウガイ先生が、あまりにも報われない――!
「チッ、相変わらずウザってぇなぁテメェは。――いいか、所詮この世は弱肉強食なんだ。強い者は、弱い者からは何を奪っても許されるんだよ。この前もある集落を襲った時、『この子の命だけは!』って泣き叫ぶ母親の前で赤ん坊を胴体で真っ二つにしてやったんだが、あん時の母親の絶望にまみれた顔は、今思い出しただけでも爆笑モンだぜ! アハハハハハハ!!」
「「「ハハハハハハ!!」」」
「――!!」
かつての兄弟子たちはみんな腹を抱えながら、爆笑している。
こ、こいつら――!!
「ブラッドリー先輩――いや、ブラッドリー、ゴウガイ先生の顔に泥を塗ったお前たちを、俺は絶対に許さない。――俺の手で、地獄にブン投げてやるッ!」
俺は一歩前に出て、かつての兄弟子たちと相対する。
「ハハッ! ザコがイキってんじゃねえよッ! オイ、やっちまえ!!」
「へい!!」
「――!」
兄弟子の一人が剣を抜き、俺に斬り掛かってきた。
――遅い。
「セイッ」
「ごべらっ!?」
「「「――!!」」」
俺は兄弟子の腕を掴み、その力を利用して兄弟子を投げ飛ばした。
これぞゴウガイ流合気道【獅子脅】。
投げた相手を頭から地面に叩き落とし、頸椎を折る一撃必殺の技だ。
首が有り得ない方向に曲がった兄弟子は、ピクリとも動かなくなった。
よし、まずは一人。
「うほー! アンタやっぱ強いのね! よし決めた! 今からアンタとアタシは、同じ【白羽の蛇】討伐隊のパーティーよ!」
「え?」
デリアちゃん??
何勝手にパーティー組んでるの??
むしろ俺的には、一刻も早く君にはここから逃げてほしいんだけど……。
「……チッ、ザコが。一応お前も、【地の型】はそれなりに習得したみてぇだな。あのジジイはまだ生きてんのか?」
ブラッドリーが露骨にイライラしながら訊いてきた。
恩人であるゴウガイ先生をジジイ呼ばわりとは、つくづくこの男は――!
「……いや、つい先日、ご病気で亡くなられたよ」
「ハハッ! やっぱりな! 合気道は最強だとか嘯いてたが、所詮年寄りの戯言だったんじゃねぇか! ザマァねぇぜ!」
「なっ!?」
コイツ――!!
どこまでゴウガイ先生を貶めれば気が済むんだ!
「本当に戯言なのかは、俺が今から証明してやるよ。――掛かってこい」
「っ!? こ、このザコがあああああ!!!」
「ヒュウッ! カッケェわねアンタ! まるで小説の主人公みたいよ!」
そういう茶々は入れないでデリアちゃん!
途端に恥ずかしくなるから!
「……ハハッ、合気道なんて、近付かなけりゃ怖くもねえ! お前ら、アレを使え!」
「「「へい!」」」
「――!」
兄弟子たちが、懐から手のひらサイズの黒い塊を取り出した。
ま、まさかあれは――!
「あ、あれは、『銃』よ! 流石にあれには勝てないわ! 一旦退くわよアンタ!」
なるほど、やっぱりあれが噂の銃なんだね。
――でも、心配は無用だよデリアちゃん。
「撃てえええ!!!」
ブラッドリーの号令と同時に、パァンという乾いた破裂音がした。
うん、案の定問題はなさそうだ。
「セイッ」
「「「ぎゃああああああ!!!」」」
「ナ、ナニィイイイイ!?!?」
――ゴウガイ流合気道【袷化神】。
投射された物体を手のひらでいなし、相手に跳ね返す技だ。
銃に対してやったのは初めてだったけど、上手くいったな。
自分が撃った鉛玉をそのままの速さで眉間に喰らった兄弟子たちは、その場に崩れ落ちた。
これで残る【白羽の蛇】のメンバーは、ブラッドリーを含めあと二人だけだな。
「スゲエエエエエエ!!! 何よアンタ、あんなこともできるのね!?」
「うん、今のも合気道の技だよ」
「合気道マジパねぇじゃん! アタシも習おっかなー」
いや、そんな簡単に習得できるほど甘いものじゃないけどね?
「バ、バカな……。有り得ねぇ……。合気道には、そこまでの芸当はできなかったはずだろ……!」
「それはお前が途中で合気道を見限ったせいだブラッドリー。――合気道には無限の可能性がある。それなのにお前は心が弱いばかりに、その道から逃げてしまったんだ」
「ウ、ウルセェ、ウルセェエエエ!!! ちょっと強くなったくらいで、この俺に説教タレるとは、イイ度胸じゃねぇかッ!! ――これを見ても、まだイキってられんのかッ!?」
「――!」
ブラッドリーが両手を前方に突き出す。
あれは――!
「呪詛を焚べろ
憎悪を捧げろ
業火に祈れ
神を堕とせ
――獄炎魔法【天を焼く火球】」
「――!」
ブラッドリーの手から、俺の背丈ほどもある、燃え盛る火球が放たれた。
こいつ、この5年で魔法まで習得していたか……。
どうやら500万の賞金首は、伊達ではないらしい。
「ハハハハハハ!!! これで俺の勝ちだザコがあああああ!!! 所詮合気道じゃ、魔法には手も足も出せねえだろおおおお!!!」
「ぎょわああああ!!! どうしようどうしようどうしよう!!! ここから入れる保険ってある!?!?」
大丈夫だよデリアちゃん。
――これも、合気道の前では無力さ。
「セイッ」
俺は火球をブラッドリーに跳ね返した。
これぞゴウガイ流合気道【華向】。
相手の放った魔法を手のひらでいなし相手に跳ね返す、ゴウガイ流合気道の奥義の一つだ。
「ナニィイイイイイイイイイイイイ!?!?!? ――クッ!」
「え!? ア、アニキッ!!?」
「「――!!」」
ブラッドリーは火球が当たる直前、隣に立っていた最後の兄弟子を自分の前に引っ張り出し、盾にした。
こ、こいつ――!!
「ぎゃあああああああああああああああ」
そしてその兄弟子はブラッドリーの身代わりに、火球で焼かれてしまった――。
「そんな……、ア、ニキ……」
全身が消し炭になった兄弟子を、ブラッドリーはその場に投げ捨てた……。
「フウ、危ねぇ危ねぇ。まさか魔法まで跳ね返してくるたぁ、そんなんもう、合気道でもなんでもねーだろ」
「うるさい。お前が合気道を語るなブラッドリー。反吐が出る」
「チッ……」
「いよっしゃあああああ!!! これはもう勝ち確演出入ったわね! トドメを刺しておやり、坊や!」
何かキャラ変わってないデリアちゃん?
多分俺のほうが年上だし。
「さあ、覚悟しろブラッドリー」
「クッ……!」
「うおおおおおおおおお」
俺は渾身の力で、ブラッドリーに殴り掛かる。
――が。
「は? 何だそりゃ?」
「――!」
あっさりとブラッドリーに避けられてしまった。
……クソッ、やはりダメか。
「え? どゆこと? 勝ち確演出入ったんじゃないの?」
デリアちゃんがキョトンとしている。
「ハッハッハ!! そういうことかよ! さてはテメェ、【地の型】しか習得してねぇんだろ!?」
「……」
そう、ゴウガイ流合気道の【地の型】は、あくまで受けの型。
攻めの型である【天の型】については、一切教わっていなかったため、俺は自分から攻撃する手段を持っていないのだ……。
「そうかそうか、つまりお前は、こっちから攻撃しない限り人畜無害の、ただのザコってわけだ」
本来ならこれがバレる前に決着をつけたかったのだが……。
「なるほどな。そういうことなら、この場は一旦退却するか」
なっ!?
マジかこいつ!?
「ま、待て! 逃げるのかッ!」
「ハハッ、逃げるんじゃねぇ。戦略的撤退ってやつだ。盗賊として生きるには、時にはこういう選択も必要だからなぁ。あばよ」
ブラッドリーは俺に背を向け、山の奥のほうに逃げ去って行った。
クッ……!!
「情けねーなー、このホーケイ野郎がああああああ!!!」
「「――!?!?」」
デ、デリアちゃん???
「な、何だとおおおおおお!?!?」
ブラッドリーの足が止まり、顔を真っ赤にしながらこちらを振り返った。
おや……?
「ホーケイのソーロー野郎が、イキってんじゃねーよ!! どうせお前なんて好きな女の子に告白した時も、『ブラッドリーくんて何かいつもガッツいてて、余裕なくて怖いからヤダ』ってフラれてんだろーがー!!」
「な、なんでテメェ、それをををををををを!!!!!!」
まさかの全部図星!?!?
デリアちゃんて、ひょっとしてエスパーだったりする??
「こんの、クソガキがああああああ!!!! ブッ殺してやる!!!!」
ブラッドリーがデリアちゃんに向かって、両手を突き出す。
こ、これは――!
「呪詛を焚べろ
憎悪を捧げろ
業火に祈れ
神を堕とせ
――獄炎魔法【天を焼く火球】」
ブラッドリーの手から、またしても、燃え盛る火球が放たれた。
「さあ、これでいいでしょ!? あとは頼んだわよ!」
「あ!? し、しまった!」
お手柄だよデリアちゃん!
――俺はデリアちゃんの前に立ち、向かってきた火球を。
「セイッ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ」
【華向】でブラッドリーに跳ね返した。
ブラッドリーは自らの炎に焼かれ、文字通り身を焦がした。
「あが…………が…………」
人の形の消し炭となったブラッドリーはドサリと音を立てて倒れ、その拍子に胴体の辺りから真っ二つに割れてしまった。
うん、これぞ因果応報。
「イエーイ!! これにて賞金500万ゲットー! やるじゃないアナタ! それでこそアタシのパーティーメンバーよ!」
デリアちゃんが俺の肩を叩いてこようとした。
あ。
「ぷげら!?」
だがいつもの癖で、ついデリアちゃんを合気道で投げてしまった。
しまった!
「ご、ごめん! デリアちゃん!」
「もー!!! なんでアンタは何でもかんでも投げ飛ばすのよ!!」
だがデリアちゃんはすぐに起き上がり、プンプン怒っている。
おお、二回目にして、早くも受け身を取っていたらしい。
意外とデリアちゃん、合気道の才能あるかもね。
「まあいいわ。これから同じパーティーでやってくんだから、このくらいのミスは許してあげる。寛大なアタシの心に感謝しなさいよね」
「あ、はぁ」
デリアちゃんは俺に手を差し出してきた。
「あの、俺と君がパーティーを組むのは、もう決定事項なの?」
「そりゃそうよ! だってアナタ一人でまた今みたいな状況になったら、みすみす敵を取り逃がすでしょ?」
「あ」
た、確かに。
「アナタの合気道と私の悪口、この二つが合わさればまさに向かうところ敵なしよ! これぞ合気道無双!」
う、うーん、それは果たして合気道と呼べるのだろうか?
とはいえ、俺が何かしらの攻撃手段を得るまでは、デリアちゃんの存在がありがたいのは事実だ。
何よりデリアちゃんはこの間、俺に差し出した手を一切引っ込めなかった。
――その姿が、あの日のゴウガイ先生と重なったから。
「わかったよ。これからよろしくね、デリアちゃん。俺の名前はジェイクだよ」
「へへ、私のことはデリアでいいわ。よろしくね、ジェイク」
「うん、デリア」
俺はしっかりと、デリアの手を握った。
――が。
「うごぱっ!?」
「あ、ごめん」
またしても誤ってデリアを投げてしまった。
う、うーん、この癖は、何とかしないとな……。
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