霞の母
倒れはしなかったものの、突然突き飛ばされたので、よろけてしまった。
「やっぱり男がいたじゃない!!」
「お母さん落ち着いて」
なぜかわからないが、僕を見て霞母は大騒ぎしている。
「落ち着かないわよ!こんなの!誰なのよこれ?」
え?
僕のこと知らないの?
「お母さん!馨くんだよ!」
「え?馨...くん?」
「そうですよ!覚えてないんですか!」
「あらぁ...。大きくなったのねぇ」
「こら、お母さん。先に言うことがあるでしょ?」
「馨君だったとは...。本当にごめんなさい。あ、いつもはこんなギャアギャア騒いでないのよ」
「えぇわかっております」
僕は愛想笑いで返した。
目の前にいる男が馨だと知った瞬間。さっきまでの威勢は何処はやら。急におとなしくなった。
「親がらみで仲良いくせに、仲良い人の子供の顔を忘れちゃうなんて。私は深く失望したわ」
霞は落胆した。
「ちょっと言い訳させて」
霞は霞母を机に誘導して、椅子に座らせた。
「で?言い訳って?」
「馨母とはあってるけど、馨君とは会ってないじゃない。4、5年ぶりくらいじゃないの?こんな大きくなったらわからなくなるでしょう」
「まあ確かに」
僕は遠い高校を選んでいたため、一人暮らしをしていたことがあった。それから霞の母と会うことはなかった。そう考えると僕がわからなくて当然なのかもしれない。
「娘をたぶらかす男が出てきたと思ってつい...。本当にごめんなさい」
「馨くんをなんだと思ってるんでしょうか」
「こんなに家に入り浸る男の人は良くないでしょう。
馨くんだったから良かったけど」
入り浸るって人聞きが悪いな。
「馨はそんな入り浸ってないよ?」
「え?ここ最近結構な頻度で出入りしてるじゃない」
「なんでそう思うのさ?なに?見張ってんの?」
「そ、そ、そ、そ、そんなわけないじゃない」
目が泳ぎ出した。
まあ、そういうことだ。
「お母さん...」
突然霞がプルプルし出した。
バン!!
「洗いざらい全部話しなさい!」
机を叩いて立ち上がる霞の形相は鬼そのもの。
「はい」
お母さん萎んじゃった。
「実はね。私、だいぶ前からあなたのことをずっと見てたの。所謂ストーカーってやつよ」
「所謂じゃねぇよ。私のストーカーしてる分際でドヤ顔しないでもらえるかしら」
「やっぱり娘の一人暮らしは、どうしようもなく心配になっちゃって」
「もう本当親バカなんだから」
とんでもない母の親バカっぷりに霞は呆れた。
「ていうか普通に犯罪だから。もぉ〜本当に勘弁してよねぇ...。ハァ!」
突然息を吸う霞。何かに気がついた様子だ。
霞の脳内を読み取ってみよう。
『私のストーカーをしてるってことは、私の家の前に張り付いてるってことよね?』
そりゃそうだ。
『てことは、私が男装してるのも知ってるんじゃ...』
...。
「ハァ!!」
「どうしたの2人とも!急に空気吸い込んでどうしたの?」
もう一度霞の脳内を読み取ろう。
『私のバカ!なんで男装したまま帰ったのさ。そんなの見られてたら、そういえばあんた、なんで男の子みたいな格好してるの?って言われておしまいじゃない!あぁぁもう、このバカバカ!バカ霞!かすみのかはバカのかよ』
何言ってんだこいつ。
いや。それにしても霞の言う通り。流石に親にはバレたくないよな。
「隠す必要はないわよ。ありのままをさらけ出せばいいじゃない」
とか平気でぬかすやつおるけど、普通に嫌やからな。
姉はまだいいけど、親はやっぱ無理じゃ。
「あ、そういえばストーカーしてて思ったんだけど、あなたの家もう1人男の子出入りしるじゃない」
『は?』
僕と霞の『は?』が揃った。
「いや。は?はこっちのセリフなんですが。どう言うことですか?霞さん。欲求不満でまさかの浮気ですかぁ?」
母の何気ない発言で、この場が突拍子もなく修羅場となった。




