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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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動き出す怪物

 あの深編笠(ふかあみがさ)に隠れている【服部半蔵】の目はどこの向けられているのか分からない、(かえで)さんか?<かなめ>か?それとも、一番狩りやすい俺か…いずれにしても、(かえで)さんが斬られたり、彼女の防御を【服部半蔵】が越えた瞬間、確実に俺か<かなめ>のどちらかの命が先に消える…。


(マジで(かえで)さんが俺達のデッドラインか…でも、あの柴田様でさえ大和飛燕流(やまとひえんりゅう)の相手ではなかったんだ…今回だって大和飛燕流(やまとひえんりゅう)が勝つに決まっている!)


 それにしても、さっきから気になっている事がある…何故かこの街道には通行人が誰一人やって来ないのだ…恐らくはこの街道の入り口を【服部半蔵】の配下の者が封鎖し別の道に迂回させているのだろう…その程度なら難なくあの者達ならやってのけるはず。


「どうした(かえで)、後ろの者が気になって身動きが取れんか?…さもあらん、貴様が一瞬でも気を抜けば、(やつ)らのうちどちらかの首が飛ぶのだからな…だが…防御ばかりではいずれ隙が出来る…いいだろう…貴様がどれだけ腑抜けた剣士に落ちぶれたか見てやろう…さぁ、先手を貴様に譲ってやる、来い!(かえで)!」


 まさか大和飛燕流(やまとひえんりゅう)の超神速をあの【服部半蔵】が知らないはずはない、ワザと先手を取らせて隙を伺うつもりか…それとも弟子である(かえで)さんを見下しているのか、いや…そんな度量の狭い男ではないはず…となれば、いつでも大和飛燕流(やまとひえんりゅう)を封じる自信があるって事かも知れない…次第に俺の心臓の鼓動が早くなっていく。


「…くっ!…」


「ふ、これでも動けぬか…よかろう…貴様の実力を見切るまで、わしは後ろの(やつ)らには手を出さぬ、但し!確実に貴様が落ちぶれたと判断した時は、(やつ)らの命は貰う…」


「ふぅぅぅ~~~…絶対に二人を死なせはしません!大和飛燕流(やまとひえんりゅう)、【低飛燕(ていひえん)】」


(かえで)さんが低空で飛んだ!)


「ふ…足斬りか……」


 ♪カンッッ!


(う…嘘…だろ…)


 瞬きをするほどの高速で(かえで)さんは【服部半蔵】に飛び込み両足の(すね)に斬り込んだが、それよりも早く左手に持っていた(さや)を、自分の足元の前に支柱のように立て、いとも簡単にそれを防いだのだ!。


「くっ!【紫電燕(しでんえん)】!」


(連続攻撃!)


 弾かれた反動を利用し、今度は身体を時計回りに回転させ(かえで)さんは【服部半蔵】の右肩に斬りかかる!。


「ふん…甘い…」


 まるで軽く刀を肩に担ぐように【服部半蔵】は右手に持っていた刀を肩に乗せ、またしても(かえで)さんの技を交わしてしまった!。

 まさか連続の攻撃を二つとも交わされたことで、(かえで)さんの表情が次第に曇り始める…。


「師匠とはいえ…わ、私の剣戟が…二度も…交わされるなんて……」


(そ、それだけじゃない…あんな凄まじい(かえで)さんの剣戟を喰らっても…【服部半蔵】の身体はブレもせず、い…一歩も足を動かしてすらいない!あ、あんなの…怪物そのものじゃないか…)


「あ…あの姉様(あねさま)が……そ、そんな……」


 三人寄れば文殊の知恵、三人の力を合わせれば無敵だ!そんな言葉が通用しない相手が今、俺達の目の前に居た…あの鬼神のように強い(かえで)さんを赤子扱いにし、平然とその場に立っているその男に、俺も<かなめ>も死の影を覚悟した…。


「落ちぶれたな…橘楓(たちばなかえで)…あの程度の腕で(あるじ)と弟子を守ろうとは笑止千万…己の実力を過信した結果がこれか…先代も草葉の陰で泣いておろう……」


 信じられない光景だった…あの(かえで)さんが次の攻撃をためらっている…それほどあの連撃を交わされた事がショックだったのか、あるいは【服部半蔵】の隙を見極めようとしているのか、その答えは彼女の心を覗く以外すべはない。


「どうした?たった2撃で終わりか?…ならば、宣言通り<かなめ>の次に<巽淳一>も斬り捨ててくれる…だが、すぐには斬らぬ…貴様が心底己の無力さを悔やみながら二人の最後を見届けよ…」


「そ、そんな事!絶対にさせません!」


「ほう、ならば今からわしはあの二人に向かって【十歩(じゅっぽ)】歩きだす…一歩進みそこで止まり(じゅう)を数える…その数える(かん)に、貴様はわしに渾身の一撃を与えてみよ!但し、一歩に付き大和飛燕流(やまとひえんりゅう)の技を出すのは一度きり…心せよ…最後の十歩目をわしが踏み終えた時、あの二人は死ぬ…」


「な…し、師匠…そ、そんな…」


 剣の戦いであれほど弱気になった(かえで)さんを見たのは初めてだ…冷酷なサイボーグ剣士だった彼女の面影はもう完全に消えていた…確かに9回攻撃するチャンスはある…それが普通の剣客であればこんなにも彼女が戸惑う事はなかったはず…だが、今回は相手が悪すぎる。


「か、(かえで)さん!僕は君を信じているから!君ならきっと出来る!」


「そ、そうですわ!例えどんな結果になろうと<かなめ>は姉様(あねさま)のお(そば)を離れません!」


 俺達の声援を聞いても(かえで)さんは何も答えてくれなかった…ただ、軽くこちらを向いて悲し気に微笑んだだけであった…。


(ま、まさか…最悪の場合、俺達を助ける為に【服部半蔵】と刺し違える覚悟のつもりじゃないよな!)


「第6代大和飛燕流(やまとひえんりゅう)伝承者、橘楓(たちばなかえで)…これより恩師を倒さんが為、修羅の道を(あゆ)まん!」


(かえで)さん!」


 俺達の前に立つ(かえで)さんのポニーテールが綺麗な光沢を放ちながら風に揺れている…もう彼女は後ろを振り向くことは無いだろう…目の前の怪物を地面に叩き伏せるまで…。


「うぅっ、悔しい…悔しい!<かなめ>は姉様(あねさま)の露払いになると誓ったのに…か…<かなめ>は…何にも姉様(あねさま)のお役に…ぐすっ…立っていない…あ、姉様(あねさま)ーーー!」


「<かなめ>…僕だって…同じ気持ちだよ…男なのに…何も出来ない…本当に…情けないよ…」


「ほう…(かえで)…この期に及んでも(さや)から(やいば)を出さぬとは…まだ分からぬか?わしが言った【渾身の一撃】とは、すなわちわしを一撃で殺すしかあいつらは助からんという事だ!無用な情けは貴様の大切なものを失う結果となる…」


「…それでも、私は…(あるじ)との約束を守ります……」


「その言葉、(あと)で後悔する事になるぞ……では、始める…覚悟はいいな?<かなめ>……【十歩(じゅっぽ)】でそこへ行く…心静かに念仏でも唱えているがいい……」


「あ、姉様(あねさま)……」



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