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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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服部半蔵…再び

 翌朝、新しく加わった【変態娘】こと<かなめ>と共に、俺達は美濃へと帰還する準備を終え、今は岡崎城の城門前に居た、お風呂セットに低周波治療器、それにサービスで鎮痛剤も献上し、その褒美として小判50両を松平様より頂いた、せいぜい俺の時代では計3万5千円程度の品物なので、かなりの利益になったのは言うまでもない♪。


「本当に今回は巽君のお陰で助かったよ、またいつでも岡崎に遊びに来てよね、信長公によろしく♪」


「はい、ありがとうございます!」


 恐れ多くも未来の【徳川家康】と、松平家の重臣の皆様に城門まで見送ってもらえた事だけでも光栄なのだが、それよりも松平様の横で<築山(ちくやま)>様が立っておられることに俺達は心を熱くした、どうか俺が歴史で学んだ松平様と<築山(ちくやま)>様の未来が変わる事を俺は秘かに願った。


「おほん!橘楓(たちばなかえで)よ!いつか拙者と剣を交える日を楽しみにしておるぞ!伝説の大和飛燕流(やまとひえんりゅう)に土を付けるは、天下無双の武人である本多忠勝だと心得ておくがいい!」


「はい、それまで本多様も息災で…」


「たく<かなめ>が羨ましい…この榊原康政(さかきばらやすまさ)も美濃へ同行し、あの御仁(ごじん)と酒を酌み交わし、今の世を語り合いたかったが…この殿様(とのさま)狸のお世話があるでな…」


(そうだった、この人も毒舌だった…)


「ひどい、康政(やすまさ)…」


 いつしか城門の向こうでは、あの(かえで)さんと<かなめ>の試合を観戦した大勢のギャラリー達も俺達の出立を見送ってくれていた、一人一人俺達に笑顔が向けられている、これもきっと人々に対する松平様の人徳の表れなのだと俺は感じた。


(破廉恥男の疑いも晴れたし、この見送りは嬉しいな…)


巽殿(たつみどの)楓殿(かえでどの)、この<かなめ>は口が悪くガサツな所も多いが、酒井は娘のようにこれまで見守っておりました、どうかよろしくお頼み申す…」


「<かなめ>…あまり(かえで)さんを困らすような事をしてはなりませんよ、身体を大切にの…あ、それと!あのわらわとの約束はちゃんと守ってくださいよ!」


「はいですの♪クン、クン…あぁ~今日も奥方(おくがた)様からいい香りがしていますの❤」


 ♪ガンッッ!!


「…イタイ…」


(出たっ、(かえで)チョップ!)


「で、弟子が大変失礼なことを…申し訳ございません…」


「ふふ♪よろしくてよ、あれでこそ<かなめ>ですから…」


 俺がこの時代にタイムスリップして、これほど多くの人から温かく見送られたのは初めてだった、この先…徳川家康には波乱万丈な人生が待っている…あの人達の中には(いくさ)の犠牲になる人も居るだろう…そう思うと…俺は胸が痛かった。


(この光景を…俺は一生覚えておこう…例えあの中の人が(いくさ)の犠牲になったとしても…俺の心の中で生きて欲しいから…)


 こうして俺達は岡崎城を(あと)にしたのだが、どうしても俺は一つだけ引っかかっている事があった…それは、あの見送りメンバーの中に(かえで)さんの忍びの師である【服部半蔵】の姿が無かったからである、いや…あの試合が終わった(あと)ですら彼は姿を見せなかったのが妙に気になっていた。


(自分でわざわざ巧妙なセッティングをした試合だったのに、最後まで責任を持たないとはどういうことだ?それとも…まだ何か企んでいるのか?)


「あの、(かえで)さん、すでに(かえで)さんも気が付いているとは思いますが…あの見送りの人の中に服部様は居なかったですね…」


「……忍びはやたら人前には出ぬものでございます………それに………」


 ちょうど岡崎城から半里ほど進んだ川沿いの街道で、いきなり(かえで)さんの足が止まった…。


「どうかなされましたの?姉様(あねさま)?」


 次第に(かえで)さんの表情が険しくなっていくのを俺と<かなめ>は感じ取った、そんな(かえで)さんの視線は脇道にそびえ立つ大きな松の木に向けられている。


「どうやら(あるじ)が気になっていた御仁(ごじん)が来ておられるようです…」


<ふっ、よくわしの気配を感じたな(かえで)…誉めてやろう…>


 松の木の陰から現れたのは虚無僧(こむそう)衣装で、頭には深編笠(ふかあみがさ)を被った姿の【服部半蔵】だった、その姿を見た<かなめ>はいきなり怯え始めた。


「は、は、服部様……ぁ……あ……」


(ほぼ怖いもの知らずの<かなめ>がこれほど怯えるなんて…やはり【服部半蔵】の名は伊達じゃないって事か…)


「<かなめ>…よくもわしの(めい)に背き勝手な行動をしたな……」


「…ひ…あ……ぁ…」


 それはサバンナで空腹のライオンと出くわしたような恐ろしい威圧だった…下手に動けば命はない…鈍感な俺でさえ、全身が震え始めてしまうほどである!すでにあの<かなめ>ですら、へなへなと腰を抜かし地面にへたり込んでしまったのだ!そんな彼女の姿は、もう自分の命は風前の灯火だと悟ったかのように見えた…。


「<かなめ>さん!」


 さすが大和飛燕流(やまとひえんりゅう)の伝承者である(かえで)さんだ、あの【服部半蔵】の威圧を受け流し俺と<かなめ>の盾になるよう前に出た。

 そんな(かえで)さんの気迫は(あるじ)と弟子を守る為、自分の師匠に対し(やいば)(さや)に納めた状態の愛刀で交戦の構えに入ったのだ。


「抜刀もせず主人と弟子を守る為に命を賭けるか…殊勝な心であるが、その松平家の恩人である【巽淳一】はともかく、弟子の<かなめ>を守る価値はあるのか?あれほどお膳立てをしてやったにも関わらず【陰流】の名に泥を塗った弱き者だぞ…」


「師匠!<かなめ>さんは決して弱き者ではございません!【陰流目録(かげりゅうもくろく)】の名に恥じない立派な剣士でございます!いずれ<かなめ>さんは「【陰流】にこの人有り!」と称される剣士になります!いえ、私が師匠としてそうさせてみせます!なので、今の言葉を取り消してください!」


「ぐすっ…姉様(あねさま)…」


 悔しい、こんなにも自分が情けなく感じたのは、会社を倒産の危機にまで追い込んでしまった時以来だ、いや…今はそれ以上に何も出来ない自分が悔しくてたまらない!。

 俺はもう(かえで)さんには命を削る戦いをして欲しくないのに、早くこの二人を止めたいのに、恐怖で身体が動かない…俺の隣で泣いている<かなめ>も唇から血を流し悔しそうだ…。


「ほう、弟子を持つと大層な言葉を出すではないか…ならば、わしに師匠としての覚悟を見せてみよ…今からわしの獲物は…<かなめ>じゃ!」


(えっ!)


「よいか、貴様が<かなめ>を守れなかった場合、あやつの人生はここで終わる…そのつもりでわしから<かなめ>を守ってみよ!」


「し、師匠…」





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