かなめのテレビショッピング
結局俺は評定の間から松平様に案内され、こっそりと<築山>様が居られる居間の隣の部屋に忍び込み、襖越しに耳を澄ませ二人で中の様子を窺う事にした。
それから待つ事20分くらいだろうか、廊下からあの<かなめ>の声が響いた。
<おはようでございますの、<築山>様、仰せの通り楓様をお連れ致しました>
<うむ、苦しゅうない、中に入ってたもれ…>
<では、失礼致しますの>
障子の開く音がし、畳を踏む二人の足音が隣の部屋に居る俺達にも聞こえてくる、そのメンバーの中に俺が入っていない事は幸か不幸か分からないが、これから先は楓さんのプレゼンテーションに懸かっている、ただ彼女が人をその気にさせる話術があるのかどうか、一番の不安はそれだ。
<ほう、そなたが大和飛燕流の伝承者、楓か?なるほどの、武人とは思えぬ美貌の持ち主じゃ…そんなそなたがわらわの悩みを解決してくれるのは真か?>
<は、はい…ありがとうございます…ま、まずは…その…何から…始めましょうか…え、あ…えぇと…>
不安が的中した!比類なき剣の達人である楓さんでも、商売人のスキルはゼロである!そんな今の彼女は先輩から度胸付けの為に飛び込み営業をさせられている新入社員と同じレベルなのだ。
これではどんないい商品でもお客様から疑いを掛けられてしまう!。
(どうする?早くプレゼンしないと相手が興覚めしてしまう、そうなれば次にその気にさせるのは至難の業だぞ…楓さん!)
<あ…あの…ま、まずですが……わ、私の……>
(マズイ…何でもいいから早く商品の説明を!)
<あらあら姉様、さすがの姉様も<築山>様のお美しさに息を呑まれているご様子、それもそのはずですわ♪これから更に<築山>様が<かなめ>達の手でお美しくなるお姿を想像するだけで、あぁ~もう心が高揚し声すら出ませんものね~❤>
<それは…真であろうな?<かなめ>…>
(こ、こいつ…)
<勿論でございますわ♪百聞は一見に如かずと申します!まずは見てくださいまし、この姉様の黒髪から放たれる後光のような光沢!それに絹のようなサラサラとした髪質!>
<うむ、なるほど、綺麗な髪じゃ…>
<それだけではございませんのよ!さ、一度<築山>様の手でその髪の感触を確かめてくださいまし♪もっと驚く事が待っておりますから♪はい、どうぞどうぞ!>
正直、さっきまでは何を言い出すか分からない<かなめ>はずっと黙ってて欲しいと願っていたのだが、やはり口から先に生まれて来たのは事実だと見せんばかりに、見事なほどのプレゼンを披露し始めたのだ。
<…ほう♪まっこと滑らかな髪質じゃ…何故このように髪が綺麗にまとまるのじゃ?>
<<築山>様!それがこの【ヘアシャンプー】なのでございます!髪を濡らし、この【ヘアシャンプー】で洗えば、ど~んなおなごの髪もこの様に滑らかになるのでございます!あ、ちなみに<かなめ>も昨夜それを使わせていただきましたの♪>
<なんと!正に絹のような手触りじゃ…どうりで<かなめ>の髪も綺麗なわけじゃ…>
もう何となくこの襖の向こう側の様子が目に浮かぶ…頼りの綱であった楓さんは、ただ何も言わずジッと座ってモデルになっているのだと…まぁ不本意だが、こうなれば<かなめ>に全てを託すしかない。
<そ~れ~だけではありませんの!是非、姉様の髪の香りを嗅いでみてくださいな♪>
<か、髪をか?ど、どれ……クン………クン………………!!………な、何という事じゃ!楓の髪から花のような麗しき香りがするではないか!>
<そうなのです!その正体が…こっれ!【リンス】でございます、【ヘアシャンプー】で髪を洗い、その次に【リンス】で潤いを与えながら同じく髪を洗うと、驚く事に心地よい香りまで付けてくれるのでございます♪あぁ、もう<かなめ>は…この【リンス】の…と・り・こ…でございますの❤>
<こ、この様な品々を…わらわに献上してくれるのか?>
<勿論でございますの♪でも、まだまだそれだけではございません!>
こうして<かなめ>はテレビショッピングさながらに、次々と勉強した商品を言葉巧みに実践し、いつの間にか<築山>様もそれらの商品の虜になっていたのだが、やはり一番のお気に入りになったのがあの【低周波治療器】だった。
<それから15分後>
「ま、松平様!…鼻血、鼻血!」
「え、あ、ご、ごめん…久しぶりに<築山>の色っぽい声を聞いたから…」
(さすが低周波治療器だな…にしても…<かなめ>にこんな才能があったとは…よし、やはり<かなめ>は令和の時代に連れて行き、俺の会社の倉庫で眠っている在庫をリアカーで売りに歩かせよう…)
<ふぅ~~…<かなめ>よ、この低周波治療器とやらは、わらわがこれまで献上された品々で一番嬉しい品である♪ただ、これは織田家の家臣からではなく、そなたの師匠である楓からの献上品と思わせてもらうぞ♪>
<いえ、違います…それはいつも奥方様を心配されている殿からであります、君主のご身分でありながら、危険を顧みず単身で美濃まで赴き、信長公に頭を下げ、南蛮との交易に通じている【巽淳一】を紹介してもらい、何とか自分の願いを聞き入れてもらう為に…うぅっ…殿は…切腹覚悟の白装束になり、あの【巽淳一】とお会いになったのです…>
<なんと、あの殿が!わ、わらわの為に?>
(いや、馬小屋の前で松風の水桶に座っていただけだが…)
悔しいが、商才もさることながら、あの弁舌はかなりのものだ…いずれ<かなめ>は会社の在庫処分を終わらせた後、政界に送り込んで今の日本を建て直してもらうのもいいかも知れない!議会中に居眠りをしている国会議員よりも遥かに国民の為に働きそうだ。
<はいですの、本当にお優しい殿でございます♪それに、奥方様!この<かなめ>が楓姉様のお傍に付いているという事は、あの【巽淳一】とも繋がりが続くという事♪それはこれからも奥方様に珍しい南蛮物が<かなめ>から届くのでございます!この様な好機、おなごなら決して見逃すことは出来ませぬわ!なのでどうか、この<かなめ>にお暇を与えていただけませんでしょうか?>
(一度政界に入ったこいつと、アメリカ合衆国の大統領を対決させたいな…)
<……あい分かった……もう<かなめ>の好きにすればよい、ふぅ~…月日の流れとは早いものですね…そちが自分で歩む道を決められる歳にまで成長したとは…わらわにとって嬉しくもあり悲しくもある…<かなめ>、しっかりと己の決めた道を進むのですよ…>
<ありがとうございます、奥方様…身寄りのないこの私を…ここまで育てていただき感謝してもしきれません…この…ご、御恩は生涯忘れません…か、<かなめ>にとって、奥方様は…母であり、優しい姉君でした…どうか…ぐすっ…これからも、お身体を大切に……ぐすっ、ぐすっ、う、うっ…うわぁぁ~~~ん!>
<ぐすっ、もう…何を泣いているのです…今日がそちの晴れやかな人生の門出なのに…ぐすっ…わ、わらわまで…釣られてしまうではありませんか…ぐすっ…元気での<かなめ>…>
最初はどうなる事かと不安ばかりだったが、こうして結果が大団円となり、俺もこれで気分よく美濃へと帰る事が出来る…ま、一人オマケが追加されたけど…今回はそのオマケに全部いい所を持っていかれたのは少し癪に障るが、冷静に考えてみると全部<かなめ>の思惑通りとなっていた事に俺は気が付いた!。
(まさか、この流れを<かなめ>は全部昨日から計算していたのではないだろうな?)
「ぐしゅっ、ぐしゅっ…良かったね、巽君…」
(げっ!涙と鼻血の混じった鼻水で、きったねぇ~タヌキ顔!)




