DKBL003 一軍パリピ×夢追いモブ 「モノクロ世界にカラーインクが落ちてきた」
【攻め】一軍パリピ 赤城 テル
【受け】夢追いモブ 一色 ケイト
☆お前だけフルカラーに見える……
一軍男子だ、モテ男だ、そんなのはただの称号で。
オレの外側だけしか見ないヤツらばかり。
だから、オレも外側しか見ない。
結局、見える世界は白黒の、味気ないものだ。
テルは今日も出待ちの女子達と、それに群がる学校の男子どもと街を歩いていた。
毎日同じ街、行く店も同じ。飽き飽きしているが、他に選択肢もない。
次第にテルの視界は色を失っていった。日常への興味とともに。
どうでもいい会話。
どうでもいい空気。
いいかげんに愛想笑いも疲れてしまった。
だけど、これを失ったらオレに何が残る?
得体の知れない恐怖を感じて、思わず近くに視線を戻す。
そんなテルの目に飛び込んできたのは、総天然色の一区画だった。
ただのベーカリー。毎日通り過ぎていたが、どんな店かは覚えていない。
ショウウインドウ越しに中が見えた。そこに知っているような人物がいた。
「……」
ただのパン屋だ。
そう思ったけれど、彼だけが何故かフルカラーに見えて。
隣を歩く女子に腕を引かれたけれど、テルはベーカリーを通り過ぎても、その姿を目で追っていた。
◇ ◇ ◇
今日も平和な朝。
ケイトは、新しいノートの表紙を書いていた。レシピノートにしよう。
学校でしか出来ない作業に胸を躍らせる。
夢中でペンを走らせていると、ドカッと大きな音を立てて、誰かが前の席に座ってきた。
「……赤城、君?」
顔を上げてケイトは驚く。
目の前にいるのはクラスメイトの赤城テル。
誰よりもモテて、誰よりも人気がある、クラスの頂点にいる人物。
最下層モブの自分とは何もかもが違う。話した事さえなかった。
その一軍男子が、ケイトの目の前に座り、不躾にしげしげと顔を近づけてくる。
何かを確認しているような目線に、ケイトはにわかに緊張した。
「な、何……?」
何か嫌われるような事をした覚えはない。
だからとても不思議で不気味だった。顔が綺麗だから、余計にそう思う。
「やっぱ、昨日のパン屋、お前だよな」
「……っ!」
その一言で、ケイトの目の前は暗くなる。
早速バレた。初日だったのに。そんな感情がグルグルと渦巻いた。
「何してたん? バイト?」
「あ、あの……」
学校の規則でアルバイトは禁止されている。
しかし、それ以上に知られたくない事情がケイトにはあった。
「お、お願い……」
消え入りそうな声でケイトはようやく言う。
目の前のテルは、その小声を聞こうとさらに顔を近づけた。
「誰にも、言わないで……!」
手が震える。
油断したら泣き出してしまいそう。
ケイトはぐちゃぐちゃの感情を懸命に抑えて彼に懇願した。
「ふうん……」
テルにして見れば、小犬のように震えているケイトの心情はよくわからなかった。
確かにアルバイトは禁止だが、内緒でやっている者はたくさんいる。
笑って「黙っててよ」と言われれば、それで終わりにするつもりだった。
だが、目の前のよく知らないクラスメイト——一色ケイトは、深刻な顔をして、まるでいじめられたように暗い顔で絶望している。
何が彼をそんなに追い詰めているのか。
少しの悪戯心が湧いてきた。
それから、意外と可愛くて興味も出た。
「……いいよ」
テルにはニヤけながら答える。
「ほんと!?」
すると、ケイトは顔を上げて仏様に助けを求めるような顔つきだった。
あ、かわいい。
やっぱり、もうちょっといじりたい。
教室の景色もテルにとってはモノクローム。
だけど、ケイトの周りにだけ虹がかかったように見えた。
昨日、通りがかったベーカリーで感じたものと同じ。
「その代わり、パン食べ放題な!」
「……えっ?」
テルの放課後。
新しい用事が出来た。
◇ ◇ ◇
「パン屋さんになりたいて……小学生女児か」
放課後、連れ立って歩きながら笑ってしまった。
テルは出待ちの女子や学校の悪友達を全て振って、ケイトとベーカリーへ向かっている。
「そ、そんな事ないでしょ。子どもの頃にみる夢と一緒じゃないよ」
少し口を尖らせて言うケイト。
その仕草はやはり可愛らしくて、テルはますますいじりたくなる。
「で、都合よく叔父さんがパン屋をやってるから、修行をしてると」
「都合よく、って言うか、叔父さんがベーカリーやってるから、ぼくもそうなりたいって思ったんだ」
「なるほど、そーゆー順番ね」
他愛のない会話。だけど、なんだか楽しい。
ミーハーな女子と、おこぼれに預かりたい悪友達とする会話とは比べものにならない。
テルは不思議と胸が躍っていた。初めて「友達」とお喋りをしたような気がする。
「てか、親戚の家業手伝いならバイトじゃなくね? もっと堂々とすりゃいいのに」
テルがそう聞くと、ケイトはにわかに表情を曇らせた。
「……実は、親には内緒にしたくて」
「え、なんで?」
叔父の家に出入りするのに、親に秘密でなんて普通はいられない。
秘密にする意味もわからなかった。テルは深く考えもせずに聞き返す。
すると、ケイトは再び泣きそうな顔になって、絞り出すような声を出す。
「……叔父さんはお母さんの弟なんだけど、二人、仲がすっごく悪くて」
「お、おう……」
子どもに影響するほどの不仲とはどんなものなんだろうか。
親戚と呼べる存在がいないテルにはよくわからなかった。
「もう、ほんとに仲が悪くて。むしろ憎しみ合ってて」
「そ、そうか……」
これ以上は聞いてはいけない気がする。プライベート過ぎる話題だ。
この先を説明させたら、ケイトは泣き出してしまうかもしれない。そんな顔をしていた。
「だから、ぼくが叔父さんちに行ってる事は誰にもバレちゃいけないんだ」
「ふうん」
「ましてやぼくが叔父さんちの跡を継いでパン屋になりたいなんて……絶対に言えない」
「……絶対言えないこと、なんですんの?」
頑なに肩を震わせるケイトの決意はなんだか悲壮で。
そこまでの事をどうしてわざわざ選ぶのか。テルには不思議だった。
だからついなんとなく聞いてしまった。聞いてから少し後悔する。
ケイト自身を否定する言葉だったかもしれない。だが、ケイトはこちらを見上げて目を丸くしていた。
「それでもパン屋さんになりたいからだよ」
真っ直ぐな瞳だった。
彼には確固たる決意と夢がある。テルには全く持ち得ないもの。
眩しい。そう思った。
少し悔しくて意地悪を言ってみる。
「百歩譲って、パン屋には叔父さん抜きでなればいいんでない?」
すると、ケイトはますます目を丸くした。
そんなのはあり得ない、とでも言うように。
「ぼくは、叔父さんの作るパンが好きなんだ!」
あまりにも真っ直ぐで。誰にも侵せない領域をケイトは持っている。
そこまでの在り方が羨ましい。
「……お前、頑固なんだな」
「そうかな?」
そして、やはり眩しい。
彼が、彼だけがフルカラーに見えた理由がわかった気がした。
◇ ◇ ◇
テルがケイトの叔父のベーカリーに入り浸るようになって一週間が過ぎた。
二人は放課後連れ立ってベーカリーへ行く。
ケイトは店員としてレジ係を、テルはそれをイートインコーナーで眺めている。
とても美味しいパンを食べながら。
ケイトが頑固になるだけあって、パンは絶品だった。
これは確かに修行したくなる。
だが、ケイトは今のところただのレジ係。パンの修行はいつするのだろう。
「赤城君、聞いて聞いて!」
ある日の昼休み、珍しくケイトが声をかけてきた。
教室内では属するグループが違い過ぎて、二人が話す機会はほぼない。
「お、なんだなんだ」
いつもは遠慮して遠巻きに見ているのに、ケイトがこちらにやってきた。
テルは嬉しくなってケイトの肩を抱き、駄弁りグループから脱する。
彼らはその様子に唖然としているけれど、知った事ではない。
「なんかあったんか?」
明らかに嬉しそうなケイトの顔。
悪友達に見せるには勿体無い。
テルはケイトを隠すように教室の隅に連れて行き、続きを尋ねた。
「あのね、あのね、耳貸して」
「ええー?」
高校生にもなって内緒話だなんて。よっぽど嬉しい事があったに違いない。
テルは言われるままに、右耳をケイトに近づける。
吐息がかかって、少し胸がときめいた。
そんなテルの気持ちに気づかないケイトは、はしゃぎたいのを抑えながら報告する。
「今日から、パン作りの基礎を叔父さんが教えてくれるって!」
「おっ、マジか!」
待望の修行の始まりだ。テルにもワクワクが伝染する。
「ぼくがパン作れたら、赤城君食べてね!」
喜びに溢れて笑う顔。
総天然色のインクが、モノクロだった胸に滲んでいく。
やばい、好きかも。
恋心が、滲んで広がりそうな感覚だった。
ーーーーー テルとケイトってどんな二人? ーーーーー




