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七回殺された君  作者: 臥亜


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第一章 七回目の死

七回目だ。


俺は、それを知っている。


目の前で、紗奈が笑っている。


何も知らない顔で。


夜の歩道。

街灯がひとつ、途切れかけて点滅している。


その下で、紗奈がこちらを振り返った。


「ねぇ悠真」


その声も、もう六回聞いた。


同じ高さで。

同じ間で。

同じ表情で。


違うのは――結末だけだ。


「なんか今日、変じゃない?」


紗奈が首を傾げる。


長い髪が揺れる。


その仕草すら、もう見慣れている。


俺は笑う。


なるべく、いつも通りに。


「別に」


喉が少しだけ乾いていた。


あと三十秒で、最初の“失敗”が来る。


俺はそれを知っている。


足音。


背後から。


速い。


迷いがない。


振り向かなくても分かる。


一回目の犯人。


通り魔。


紗奈がまだ気づいていない、この瞬間。


ここが分岐点だ。


「悠真?」


手を取る。


少し強引に。


「帰ろう」


「え?」


「今日は遠回りする」


紗奈が不思議そうに笑う。


その笑顔に、胸が軋む。


――六回、失った。


六回、この手から零れた。


六回、死体を抱いた。


だから今度は。


今度こそは。


背後で風を切る音。


ナイフ。


振り下ろされる。


俺は紗奈を引いた。


刃が空を裂く。


男の体勢が崩れる。


舌打ち。


そのまま走り去る。


静寂。


紗奈が俺を見る。


「……今の、何?」


「通り魔」


短く答える。


まだ終わっていない。


これは一回目じゃない。


七回目だ。


「なんで分かったの?」


その質問に、答えはない。


いや、ある。


でも言えない。


言った瞬間、全部が壊れる気がした。


「偶然だよ」


嘘だ。


全部知っている。


全部見てきた。


全部、間に合わなかった。


紗奈は少しだけ俺を見つめて。


そして、ふっと笑った。


「そっか」


その一言に、なぜか違和感が残る。


胸の奥がざわつく。


何かが、引っかかる。


でも。


まだ分からない。


この時の俺は。


――本当に知らなかった。


今日の“死”は、


通り魔じゃない。


「紗奈」


後ろから声がした。


振り向く。


そこにいたのは、男。


見覚えがある。


四回目の犯人。


紗奈の兄。


「……お兄ちゃん?」


紗奈の声が揺れる。


男はゆっくり近づいてくる。


目が、おかしい。


焦点が合っていない。


「やっと見つけた」


低い声。


ポケットからナイフを取り出す。


さっきとは違う。


確実な殺意。


逃げ場はない。


俺は紗奈の前に出る。


「やめろ」


声が震える。


兄は笑った。


「お前もか」


「……何がだよ」


「壊されたのは」


一歩、近づく。


「お前も同じだろ」


意味が分からない。


いや。


分かりたくない。


「紗奈」


兄が名前を呼ぶ。


その声に、憎しみが滲む。


「お前は人を壊す」


空気が凍る。


紗奈は黙っている。


否定しない。


何も言わない。


「違うよな?」


俺は振り返る。


紗奈を見る。


いつもの顔。


いつもの笑顔。


でも。


ほんの少しだけ。


何かが違う。


「……紗奈?」


その瞬間。


兄が動いた。


ナイフが振り下ろされる。


止められない。


間に合わない。


血が飛ぶ。


赤が、広がる。


紗奈の体が崩れる。


地面に倒れる。


「……っ」


呼吸ができない。


頭が真っ白になる。


まただ。


また、守れなかった。


俺は膝をつく。


紗奈を抱き上げる。


軽い。


あまりにも軽い。


紗奈は俺を見る。


焦点の合わない目で。


それでも。


笑った。


「……ねぇ、悠真」


かすれた声。


「……七回目だね」


時間が止まる。


思考が追いつかない。


「……え?」


紗奈は、ゆっくり瞬きをする。


そして。


小さく笑った。


「私ね」


血を吐きながら。


それでも。


はっきりと。


「全部、覚えてるよ」


世界が崩れる。


その瞬間。


視界が暗転した。


気づくと。


俺は、立っていた。


見覚えのある場所。


見覚えのある時間。


三日前。


すべてが始まる前。


最初の地点。


俺は息を呑む。


理解する。


また、戻った。


いや。


違う。


今の言葉。


あれは。


どういう意味だ。


「……やり直し、か」


小さく呟く。


その時。


背後から声がした。


「悠真?」


振り向く。


紗奈がいる。


まだ、死んでいない。


何も知らない顔で。


――いや。


本当に、そうなのか?


紗奈が笑う。


「どうしたの?」


その笑顔に。


初めて。


恐怖を感じた。


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