歳月は経て
――それから、およそ七年が経過して。
「…………ふぅ、ちょっと休憩」
柔らかな陽光が優しく差し込む、穏やかな午後の三時頃。
そう、ポツリと呟き背中を伸ばす。そんな僕がいるのは、自宅に構えた小さな工房――そこで、新しい琉球ガラスの作品と向き合っていて。……そっか、もうこんな時間か。ほんと、没頭してるとあっという間に時間が過ぎる。
さて、僕がいるのはチェコ――オレンジ色の街並みと川のコントラストが際立つ、中央ヨーロッパのに位置するこの国にて琉球ガラス職人として生計を立てているわけで。……うん、よもやあの予言が現実になるとは。あの修学旅行の夜、彼女が口にしたあの言葉が、よもや本当に……いや、もちろんまだまだ未熟な身ではあるんだけども。
「…………さて」
それから、数十分経て。
工房の片付けを終え、木造家屋の二階の部屋へ。そして、机の抽斗を開き取り出したのは数枚の便箋――そして、一枚の写真。そこに柔らかな笑顔で映る見目麗しい二人に、僕も思わず口元が綻ぶ。そして、暫しじっと眺めつつあの頃を思い起こす。――もう、七年も前のあの頃を。
あの日から、およそ一ヶ月――ついに、日坂くんは目覚めた。だけど、お医者さんの話によると脳には深刻な障害が残り、一人では日常生活はおろか暫くは歩くこともままならないとのこと。
それでも、僕ら――斎宮さんと僕にとってはこれ以上もない喜びだった。目覚めてくれたことが……その尊い生命をこの世に繋いでくれたことが、これ以上もなく嬉しかった。そして、数日後――日坂くんの状態を考慮しつつ、斎宮さんは彼に付き合ってほしいと告げた。
当初、日坂くんは断った。それは、斎宮さんを好きでなくなったからではなく――彼女が、事故の責任を感じて自分と付き合うなんて許せなかったから。それは何とも彼らしい優しさだし、もちろん僕らもそれは想定していた。
だから、二人で説得した。僕らが結ばれる未来は絶対に訪れないこと――そして、日坂くんと共にいることでしか、斎宮さんが幸せになる未来がないということ。だから、斎宮のことを想ってくれるなら、どうか自分の気持ちに正直に答えてほしい――そう、二人で懇願した。
それでも、斎宮さんのために嘘をつく可能性も危惧したけれど……幸い、そうはならず最終的に日坂くんは受け入れてくれた。斎宮さんのことを必ず幸せにする――そのような旨を、力強く宣言してくれた。自分自身、心身ともに相当な不安があるはずの状態なのに……うん、本当にありがとう、日坂くん。
そういうわけで、再び二人は交際。尤も、最初は互いに戸惑いが大きかったようで。でも、事情が事情なのでそれも無理からぬことだろう。
それでも、そんな状況は少しずつ良い方へと変わっていく。日坂くんの懸命なリハビリを、斎宮さんが真摯に支える――そんな日々が少しずつ、それでも着実に距離を縮めていった。僕なんかが知ったようなことは言えないけど……それでも、高校を卒業する頃には二人の雰囲気はもう恋人のそれで。そして、今は……うん、本当におめでとう、二人とも。そして……どうか、末永くお幸せに。




