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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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けじめ

『…………なに? さっきから、こっちじっと見て』

『……あ、いえ、その……』



 高校入学から、半年ほど経過したある日のこと。

 一年A組の教室にて、すぐ左へそんな問いを掛けるあたし。我ながら、何とも愛想のないであろう表情で。すると、問いを掛けた相手――新里にいざと朝陽あさひは甚く申し訳なさそうな様子で口を開き……うん、ほんと何やってるんだろうね、あたし。


 そして、これはこの日に限った話でなく、この半年の間にわりと頻繁にあったやり取りで……うん、ほんと何やってんだろ。彼の性格は十分に……それこそ、きっと誰よりも知ってるはずなのに。



 ……ただ、それはそれとして――


「……やっぱり可愛いなぁ、朝陽」


 帰り道、一人そんな呟きを零す。……いや、さっきあんな素気すげない応対をしておいてどの口がという感じだけど……でも、彼と再会して以来改めてずっと思っていたことで。


 ……いや、ほんと可愛い。それこそ、あの頃からそのまま成長したという表現がピッタリで。こう言っては何だけど……うん、基本ちょっと暗いから皆気付いてないだけで、素材は抜群に良い。あと、女装とかもきっと似合う。それはもう、相当似合う。なので、是非とも見てみたい……けど……まあ、流石にそんな機会はないか。


 ともあれ、そんな妄想に浸りつつ歩くこと数十分。ふと立ち止まり、深く呼吸を整える。そんなあたしがいるのは、外からでも感じる優しい和の雰囲気が心地の好いレトロな喫茶店。……よし、



 ――カランカラン。



『……あの、突然すみません。あたしは、斎宮さいみや夏乃かのといいます。その、是非ともこちらでアルバイトを――』



 こうして、めでたくあたしは朝陽の職場――琴乃葉月で働けることとなった。……うん、ほんと良かった。そもそも求人を出してないお店みたいだったから、わりと駄目元だったし。


 そして、そこからは日々が一転した。これまでの半年が嘘のように、二人で過ごす日々が続いた。あの頃のように……いや、あの頃以上に幸せな日々が。体育祭や修学旅行、文化祭――他にも、沢山の特別を分け合った。どれも本当に楽しくて、どれも本当に大切で。……それでも、一番好きなのはきっと、あの何でもない日々――あの教室で他愛もない話をしながら過ごす、あの何でもない日々だったり。


 そして、改めてだけど……ついに、この日が来た。あの日から、ずっと……ずっと抱いてきたこの願いが、ついに――





 さて、回想が長くなったけど――これで、あたしたちは晴れて恋人同士に……と言いたいところだけど、実はまだそうはいかなくて。と言うのも、あたしにはまだすべきことがあるから。それは――



『――ごめん、新里にいざと! ……その、少し……あと少しだけ待ってほしいの! 明日、必ず返事をするから!』



 彼の告白に、パシッと手を合わせ告げた言葉。返事こたえなんてとうに決まっているのに、我ながらどうかとは思うけれど……それでも、どうしてもつけなきゃならないけじめがあって。もう一人の大切な友人、日坂ひさか巧霧たくむに対しつけなきゃいけないけじめがあって。


 と言うのも――中学三年生の秋、あたしは巧霧から告白を受けた。あたしへの想いがこれ以上もなく伝わる、今までの誰よりも真摯な告白だった。彼とは仲が良かったし、もちろんその気持ちは嬉しかったけど……でも、申し訳けど承諾する気にはなれなかった。だって、あたしの心の奥底にいるのはいつも一人だけだから。


 ……なのに、あたしは応えた。きっと、恐怖があったから。もし、再び彼に会えなかったら……会えたとしても、もう既に恋人がいたら――きっと、そんな途方もない恐怖が心の奥底そこにずっとあったから。


 ……だから、応えた。それならいっそ、これほどまでに想ってくれる目の前の素敵な友人と付き合った方が良いんじゃないかと。きっと、今はまだそういう感情はない。それでも、付き合っている内に――同じ時間を重ねる内にきっと好きになれると思ったから。


 ……でも、駄目だった。結局は、ただいたずらに彼を傷つけただけ。だから、本当に今更だけど、せめてこれ以上は傷つけないようにと距離をおいた。……いや、これも所詮は言い訳……ただ、彼の真摯な想いに向き合う勇気がなかった。そして、直接伝える勇気すらもなく、別れ話の一つもせず勝手に距離をおいた――ただ、察してくれることに甘えた。……ほんと、最低だった。


 ……でも、だからと言って今、行動しない理由にはならない。時間も時間だし、わざわざ呼び出すのも申し訳ないし電話の方が良いかなと思ったけど……それでも、直接言うべきだと思った。急な連絡――それも、恐らくは用件を察しているだろうに彼はすぐさま承諾してくれた。……いや、察しているから、って言うべきかな。ほんと、馬鹿みたいに優しく……本当に、申し訳ない。そもそも、今日の告白ことに関係なくもっと早くつけなきゃいけなかったわけだし。


 でも……だからこそ、これ以上は延ばせない。もう、絶対に延ばしちゃいけない。……待ち合わせにはまだ早いけど、もう出ようかな。こっちの都合で急に呼び出しておいて待たせるわけにもいかないし。



 そして、決意新たに再び玄関を後に。視界には、先ほど以上にはらはらと舞い降りる不香ふきょうの花。少し滑りやすくなった道に気を付けつつ、待ち合わせの場所へと駆け足で向かう。……ごめんね、巧霧。これで、ちゃんと全てを――





 



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