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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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伝えたい想い

「――今日もお疲れさま、朝陽あさひくん。もう上がって大丈夫だよ」

「はい、お疲れさまです蒼奈あおなさん。このサンドイッチを作り終えたら上がらせて頂きます」



 12月下旬の、ある夕方のこと。

 勤務の終わり頃、いつもながらの和やかな笑顔でそう口にする蒼奈さん。そんな彼女に、僕も笑顔で頷き答える。……ふぅ、今日も楽しかった。


 その後、ややあって改めて挨拶を述べお店を後に。外はもう、すっかり《《そういう雰囲気》》に満ちていて。そんな優しく暖かな光景に微笑ましさを覚えつつ、少し駆け足で向かった先は――


「――お疲れ、新里にいざと


 そう、柔らかな声が鼓膜を揺らす。聞くだけでほっと安堵を覚える、大好きな声。去年の今と同じく、雑貨屋さんの白い壁にそっと凭れる鮮麗な少女へと僕は徐に口を開き――



「……はい、お待たせしました……斎宮さいみやさん」





「いやー今日も楽しかったね新里!」

「はい、斎宮さん!」



 それから、数時間経て。

 少し肌寒い空の下、缶コーヒー片手にそんなやり取りを交わす僕ら。ついさっきまで明るかったはずの空はもう、すっかり夜の帷が下りていて。……うん、本当に楽しかった。もちろん去年もすごく楽しかったけど、今年はそれ以上に……そして、願わくば来年も――


 さて、僕らがいるのは住宅街にひっそりと佇む小さな公園――あの日、郁島いくしま先輩への告白をお手伝いすると約束したあの公園で。



「……それにしても、こうしてると思い出すなぁ。新里に……えっと、恋愛相談? みたいなことした、あの日のこと。……あはは、今思うとほんと馬鹿みたい」

【……斎宮さん……はい、僕も今、ちょうど思い出していました】



 その後、ほどなくベンチに腰掛け和やかに会話を交わす僕ら。話を合わせたわけじゃなく、本当に僕も今ちょうど思い出していたことで。尤も、馬鹿だなんて微塵も思わないけど……でも、そこは触れないことに。彼女自身、ちょっと言ってみただけで否定の言葉がほしいわけじゃなさそうだから。


 ……うん、なんだかもう懐かしい。あの日、相談を受けて……それから、あの教室で二人で過ごすようになって……うん、そう思えばある意味、僕らを繋げてくれたのは――



「……あのさ、新里。その、郁島会長なんだけど……実は、あたしの兄なんだ」


「…………へっ?」



 心中にて偉大な先輩へ感謝を込めていると、不意に届いた斎宮さんの衝撃の言葉。……えっと、どゆこと? だって、斎宮さんは先輩に告白を――


「……えっと、急に意味分かんないよね。でも、本当にあたしの兄で……それで、告白っていうのは嘘で……その、ほんとにごめん!」

「あっ、いえそんな!」


 そんな困惑の最中さなか、パンと両手を合わせ謝意を告げる斎宮さん。だけど、僕としては怒ってるわけもないし責めるつもりも毛頭ない。ただ、どうしてそんな嘘をと疑問に思ってるだけで……いや、何でも良いか。きっと、彼女なりの理由があったんだろうし……それに――


【……そう、だったのですね。すごく驚きですけど……でも、同時に納得もしていて。実は、何処となく誰かに似ているなぁとは思っていたのですが……それは、貴女だったのですね、斎宮さん】

「……新里」


 そう、筆記にて伝える。思えば、ずっと頭の隅に残ってはいた。郁島先輩が、何処となく誰かに似ているなぁと。……そっか、斎宮さんと……うん、何だかいっそう好きになったかも、先輩のこと。まあ、我ながら単純だとは思うけども。



「……ふぅ、やっと言えた。今まで騙してたくせに我ながらどうかと思うけど……うん、なんかすっきりした」

【ふふっ、それは良かったです】



 その後、ほどなくそう口にする斎宮さん。その表情を見るに、言葉の通り申し訳なさはありつつも荷が下りたような笑顔で……うん、良かった。


 その後、少し他愛もない会話に花を咲かせる僕ら。ただ……花を咲かせると言ったものの、平時とは異なり何処かぎこちない。それは、きっと二人とも気が付いているから――きっと、今がその時なのだと。


「……よし」


 そう呟き、徐にベンチから立ち上がる。そして、数歩進み身体ごと振り返る。そこには、同じく立ち上がり僕をじっと見つめる斎宮さん。


「「……あ」」


 ふと、声が重なる。そんな僕らの視界には、はらはらと舞い降りる真っ白な不香の花。そして、ほどなく二人クスッと笑い合う。それは、さながら一年前のあの日のような――


 ……鼓動が、ドクンと跳ねる。……正直、怖い。返事を聞くのが、怖い。もしかすると、もう友達でもいられなくなるかもしれない。


 ――ふっと、脳裏に浮かぶ。涙をこらえ悲しく笑う、一人の少女の表情かおが。

 ……ほんと、嘘つきだな僕は。誰も傷つけたくないなんて綺麗事を言っておいて、結局は……ほんと、嘘つきでどうしようもない。……いや、それ以前の問題か。結局、僕は何一つ果たしてない。彼女との約束も、彼に告げた言葉も……そして――


 ……でも、それが僕。結局、自分が一番――そんな身勝手で醜い人間、それが僕。……だけど、もう抑えられない。この感情おもいは、もう――


 ――そっと、深く呼吸を整える。そして、ゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。



「……ずっと、ずっと好きでした。宜しければ、僕とつき合って頂けませんか……斎宮さん」


 


 

 


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