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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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届かない想いでも

 そんな感慨の最中さなか、不意に届いたおばあちゃんの声。言葉の通り、甚く申し訳なさそうな声音こえなのだけど……えっと、なんで? こっちは感謝こそすれ、謝られる覚えなんて何も――


「……あの時、朝陽あさひくんに余計なことを言ってしまったからねえ。それで、海紗凪みさなに余計な負担を掛けてしまって……」

「……ああ、そのことね。でも、前にも言ったけどおばあちゃんは何も悪くないよ。そもそも、私のために言ってくれたんだし」

「……海紗凪」


 そんな困惑の最中さなか、力なく微笑みそう口にするおばあちゃん。あの時、と言うのは病院――入院中、お見舞いに来てくれていた先輩に話していたあの時のことで間違いないでしょう。海紗凪のこと、好きかい――そう問い掛けていた、あの時のことで。……別に、盗み聞きするつもりはなかったんだけどね。本当に、たまたま病室に戻った時に聴こえちゃっただけで。



「……だけど、あの時の表情かおは今でもはっきりと覚えていてねえ。あの時、見たこともないくらいの怒りを露にしていた、海紗凪の表情は」

「……そんなに、表情かおに出てた?」

「……うん、とっても」



 すると、ややあって少し目を伏せそう話すおばあちゃん。……そっか、そんなに出てたんだ。まあ、驚くことでもないけど。



『――申し訳ありません、おばあちゃん。ですが……僕には、好きな人がいるんです』



 おばあちゃんの問いに、いつものように筆記にてそう伝えたとのこと。……もちろん、分かっていた。そんなことは、とうに……それこそ、久方ぶりに彼を目にしたあの日から。


 ――だけど、問題はその後。その好きな人に気持ちを伝えるのか尋ねた際、彼は首を横に振り答えたとのこと――自分には、そんな資格などないと。きっと、その時の表情ものだったのだろう。扉の隙間から僅かに見えた、あの言いようもなく悲痛に満ちた表情は。


 ……もちろん、分かっている。これが、不当な感情おもいであることは。そもそも、真っ先に彼の恋路を邪魔した私が言えることじゃない。

 ――それでも、思ってしまった。なんで、何もしないのだろうと。資格がない――理解し難いその言葉にどんな事情があるのかも、事情それをあの人が知っているのかも分からない。……それでも、知っていたはず。自身に対する、この上もなく真摯な彼の想いは間違いなく知っていたはず。そして、あの人も間違いなく彼のことを――


 なのに……あんな表情かおをした彼に、なんで何もしないのだろう。あんなにも痛ましく悲しい表情かおをした彼に、なんで何も言わないのだろう。あの人が、彼に想いを伝えれば……一言、付き合ってほしいと言えばきっと救われるはずなのに。なのに……どうして、彼の方から打ち明けてくるのをただ待っているだけなのだろう。そんなの、彼があまりにも――



 ……でも、それならそれで良い。……ううん、どころかこの上もなく好都合。だって、それなら私が救えば良い――私が、彼を幸せにすれば良いだけなのだから。



 ――あれ以降、私は積極的にアプローチをかけた。尤も、それまでも基本陰キャラの私にしたら随分と積極的だったとは思いますが、それはともあれ……うん、何とも困ってましたよね、先輩。まあ、我ながら距離の詰め方が異常でしたしね。特に、物理的に。


 ですが……詰めれば詰めるほど、近づけば近づくほど思い知ることになりました。この人に、これ以上近づくことは叶わないと。この人の奥底なかに、誰がいるのか――それを、改めてまざまざと思い知ることになって。


 ――だから、悩みに悩んだ末ようやく決めた。もう、終わりにすると。今日のデートを以て、この想いをバッサリ断ち切ろうと。

 そして、きちんと告げた。今までの感謝と共に、揺るぎないこの意思をきちんと告げた。すると、果たして彼はこの上もなく真摯に向き合ってくれた。だから、もうこれで大丈夫。もう、だいじょう――



「……ぶ、なわけない……」

「……海紗凪」


 そう、ポツリと零す。自分でも嫌になるほど、酷く震えたか細い声で。……でも、私だって――



「……私だって、頑張った。どうにか振り向いてもらえるように、頑張った。私だって……私だって、あの人に負けないくらい、本当に……本当に、朝陽先輩が大好きで……」

「……うん、そうだね」

「……今だって、大好きで……本当は、やっぱり諦めるなんて出来なくて……だから、だから……」

「……うん、そうだね。だから……もう、我慢しなくて良いんだよ。海紗凪」

「……ゔ、ゔ……ゔぁあああああああああああああああああああああっ!!!!」



 刹那、絶叫さけびが響く。抑えていた感情ものを全て残さず吐き出すような、けたたましい私の慟哭さけび。すると、ほどなく私をぎゅっと抱き締め包んでくれるおばあちゃん。そんな優しい温もりの中で、涙が涸れるまで叫び続けた。





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