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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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追憶

 ――あれは、中学二年生の秋の頃。



【……あの、すみません。突然なのですが、その……こちら、宜しいでしょうか?】


「…………へっ?」


 ある放課後のこと。

 校内の中庭にて一人ベンチに腰掛けていると、不意に届いたのは消え入りそうなほどに微かな声。驚き顔を上げると、そこには上記の文章ぶんが記されたメモを控え目に差し出す男子生徒の姿。……お洒落、とはお世辞にも言えないですが、あどけなく端整な――


【……あっ、すみません! その、僕は三年A組の新里にいざと朝陽あさひと申します】

「……あっ、えっと……はい」


 すると、少しあたふたしつつペンを走らせ示す男子生徒。どうやら、自己紹介をしていなかったことに慌てたみたいですが、それはともあれ……うん、先輩だったんですね。てっきり、同学年……もしくは、後輩かと。



 ――ともあれ、これがちょっぴり不思議で底抜けにお人好しの男子生徒、新里朝陽先輩との出逢いでした。




「……新里先輩、ですね。えっと、私は二ね……いえ、三年D組の織部おりべ海紗凪みさなと申します」


 ともあれ、未だ戸惑いつつこちらも自己紹介をすることに。ですが、前述の通り私は二年生。なのに、何ゆえ学年を偽ったのかというと……まあ、ちょっとした悪戯心といいますか。尤も、つい今しがた会ったばかりの人にそんなことを思うのかは自分でも分から――


【……三年生、だったのですね。その、てっきり一年生かと……】

「…………」


 瞬間、頭にピキリと音がする。……えっと、そんなに幼く見えます? 私。それも、自分も幼く見える人に。


 すると、恐らくは表情や雰囲気から私の感情を察したのか、慌てた様子で再びペンを走らせる新里先輩。そして――


【……その、申し訳ありません! ですが、その……一年生と言っても、良い意味なので!】

「良い意味ってそんな万能な言葉じゃないですからね!?」




【……なるほど、二年生なのですね織部さん。尤も、初めからそうかなとは思っていましたが】

「……うん、よくもまあそんな戯言ことを平然と言えますよね。ひょっとして、実は記憶が残念なかたですか?」


 その後、ベンチにて数分ほど他愛もないやり取りを交わす私達。繰り返しになりますが、今しがた会ったばかりの相手とこうして並んで会話をするなど陰キャラかつコミュ障の私にとって異常なことこの上ない状況なのですが……どうしてか、彼に対しては自然と言葉が口をついて。いったい、どうしてな――



【……あの、織部さん。その、あくまで僕の憶測でしかないのですが……なにか、お話ししたいことがあるのではないでしょうか?】


「…………へっ?」



 そんな疑問の最中さなか、ふとそんな言葉が届く。……話したいこと? いや、特になにも……と言うより、どうして彼がそんなことを――



【……困惑、しますよね。突然、こんなことを言われてしまっても。ですが……勝手ながら、僕は貴女がなにか苦悩を抱えていて、そしてそれを誰にも話せずにいるのではないかと推測しています。……なので、と言うのもおかしいかもしれませんが……もし良ければ、話していただけませんか? ひょっとすると、気心の知れた方々よりも僕のような見知らぬ陰キャラの方が話しやすいこともあるかと思いますし】

「…………」


 すると、ややあって少し長めの文章ぶんを見せ伝える新里先輩。……いや、見知らぬ陰キャラって。


 ただ、それはそうと……その理由は不明ながら、それでも分かることがあるとすれば……彼が、本当に私のことを心配してくれているということ。先ほど会ったばかりの、全く以て見ず知らずのはずの私を。……実は、過去に会っ……うん、たぶんないかな。これでも、記憶力は良い方だと自認していますし。……まあ、それはともあれ――



「……それでは、折角なので。ですが……別段、楽しい話はありませんよ?」


 そう、仄かに微笑み告げる。もちろん、理由はまるで分からない。分からない、のですが……まあ、そう仰るなら折角ですし。すると、そんな私に彼も優しく微笑み頷いた。





「……そう、だったのですね……」



 それから、しばらくして。

 私の話を聞き終えた後、ややあってポツリと呟く新里先輩。……まあ、これと言ってたいそうなお話はしていないのですけどね。学校でのちょっとした不調和だったり、両親とのちょっとした確執だったり。なので、お話しした後で言うのもなんですが、わざわざ聞いて頂くほどのことでも――


「…………へっ?」


 卒爾、思考が止まる。と言うのも――少し俯いた私の頭に、そっと柔らかな感触が降りてきたから。茫然と顔を上げると、そこには――



【……お気持ちが分かる、なんて安直に言ってはいけないと思っています。織部さんの苦悩は、織部さんだけのものですから。それでも……ずっと、ずっと辛かったんですよね、織部さん】

「……っ!! ……そんな、こと……」

【……それでも、貴女はここにいる。こうして、僕とお話ししてくれている……それは、本当にすごいことなんです。僕は、そんな貴女を心から尊敬します……織部さん】



 そう、優しく頭を撫で告げる新里先輩。その手は、その表情はさながら陽だまりのような――冷えた私をそのまま、ありのままに優しく包んでくれるような暖かさに満ちていて。……だから――



「……はい……ありがとう、ございます……」



 そう、ポツリと告げる。すると、そんな私を優しく見つめ頷く新里先輩。そんな彼を見つめながら、ふと胸中に未だ覚えのない感情おもいが――


 ……きっと、自覚なんてない。……私だから……でもなく――きっと、誰に対してもそう。……それでも……私は、紛れもなく貴方に救われたんですよ、朝陽先輩?







 

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