第6話 プリンと友達
「おいしかったですね」
「さすが、公爵家の料理人ですわ」
ご飯を食べ終わった同席の二人が、満足そうに料理を褒めている。
私? ウマかったけどお米食べたい。もしお米が置いてあったら、さぞ美味しい料理になったんだろうなと思えるからこそ、悔しいのだ。
もっと、お米の美味しさがいろんな人に伝わって欲しいなー、なんて思考に、アレットちゃんの声が割り込んでくる。
「ねえ、ルシアちゃんって何が好きなんですか?」
「あ、わたくしも気になりますわ。せっかくこういう場所なので仲良くなりたいですわ」
「え? 私?」
「ええ、趣味とか、好きな食べ物とか、何か」
どうやら黙っていたから、自己主張しないタイプだと思われたみたいだ。
きっと気を遣える娘なのだろう。
「趣味は本を読むことで、食べ物はお米が好きかな」
「読書は私も好きです。心が落ち着きますよね」
「わたくし本はあまり読んだことがありませんでしたわ。せっかくなので、今度読んでみますわ」
「カルファー探索記がおすすめだよ」
「ああ! 私も好きなんですよ。ルシアちゃんはああいうのが好きなんですか」
「物語は結構すきだね。カルファーは、ダンジョンってどんなところなんだろうって想像しながら読んでる」
「ダンジョン探索者のお話なのですね」
「はい。リアルに探索者の生活が描かれていて、とても勉強になります」
カルファー探索記は主人公のカルファーという男が、ダンジョンで冒険する話だ。といってもノンフィクションの伝記だけど。ファンタジー世界だから、ノンフィクションでもファンタジーだ。当たり前か。
ダンジョン探索者はその名の通り、ダンジョンを探索する職業だ。
最初はダンジョンの勉強のために読んでたけど、今では普通に娯楽として楽しんでる。
「ミリーゼちゃんは何か趣味はありますか?」
「わたくしは、星を観るのが好きですわ」
「星空は……あまりちゃんと観たことは無いですね」
「星はいいですわ。見えていても、見えなくても、いつでも空にある。眺めているとすぐに時間が過ぎていくのだけが困りますわ」
星を眺める……子どもの趣味としては珍しそうだけど、世界に自分一人みたいな、あの感覚は私も結構好きだ。
「あとは、縫い物も好きですわね、コースターを作ったらお父様が大喜びしてましたわ」
「あぁ……私は根気がないから縫い物は無理だなぁ」
「私も細かい作業は苦手ですね……」
「ふふっ、アレットさんは何がお好きですの?」
「私ですか? 私はそうですね、絵を描くのは好きです」
アレットちゃんは絵を描くのが好きらしい。アレットちゃんの中だと、絵は細かい作業じゃ無いのかな?
この世界は紙が安いから本も読めるし絵も描ける。ダンジョンで採れる素材のおかげらしい。
「あ、デザートが食べれるみたいだよ」
「あら、おいしそうですわね」
「……」
「?」
アレットちゃんが黙って料理とデザートが交換されてるのを凝視している。
あ、ちっちゃくガッツポーズした。
「行きましょう。早く」
「そ、そうですわね」
早く取りに行きたいと言うオーラが溢れてるアレットちゃんに、ミリーゼちゃんが気圧されてる。あの獲物を前にした肉食獣みたいな目を向けられたら仕方ないと思う。
三人で席を立ちデザートを取りにいく。
「どれがいいかな〜」
「わたくしはタルトが好きですわ。ルシアさんもどうですか?」
「じゃあ私も食べようかな」
「……」
私が悩む横でミリーゼちゃんはニコニコとフルーツタルトを取り、その横でアレットちゃんが無言でプリンをお皿いっぱいに載せている。ちょっと怖い。
私はシュークリームとフルーツタルトを選んだ。
「このタルトおいしい!」
「ええ、フルーツの酸味で甘さを上手く調整してますわ」
「ね! 生地のサクサクもたまらん……!」
「甘さは丁度いいなめらかだしカラメルの量もいいですねただ少し牛乳っぽいもう少し卵が濃厚な方が好み。八七点です」
私とミリーゼちゃんが笑い合う横で、ぶつぶつと早口で品評してる人がいる。
なんとなく触れない方がいい気がするので視界に入れないようにしてミリーゼちゃんと、タルトについて語らっていた。
アレットちゃんはほっとこう。ガチのオタクとの解釈違いは恐ろしいからね。
見えてる地雷は避けよう。
「アレットさんもタルト食べませんか? プリンと一口交換したいですわ」
「なぁぁっっっ!」
「はい、いいですよ。ただし、その前に貴女が私のプリンを食べるに値する女性かを確かめなくてはいけないですね。まずは――」
アレットちゃんがおかしな口調で語り始め、ミリーゼちゃんは困惑し、私が慌てる。
女三人寄れば姦しいの言葉の通り、騒がしくなっていく。
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「ご迷惑をおかけしました……」
「頭をあげてください。そういうこともありますわ」
「うんうん、誰でも暴走することはあるよ」
結局あれからアレットちゃんのお父さんが止めに来たことで、アレットちゃんは落ち着いて、今は恥ずかしさと申し訳なさで消えたいって顔をしてる。
落ち着いた印象だったからあんなに風になるとは思わなかった……。
プリンの魔力怖い。
「……でも、これは喧嘩ですわね」
「え、いや、喧嘩じゃない気がしますけど……?」
「いえ、これは喧嘩ですわ。そして仲直りした、つまりもう友達ってことですわ!」
突然何を言い出すかと思えば、これはつまり仲直り大作戦ってやつだね!
実際喧嘩ではなかったけど、この際ミリーゼちゃんに便乗しよう。
「いや、それは……」
「うん、そうだね! もう私とアレットちゃんとミリーゼちゃんは友達! だからもう気にしないでいいって」
「あ……うん、ありがとうね」
ミリーゼちゃん気が利くねぇ。貴族って空気読み大事そう。
これでよかったんだよね、と確認する意図でミリーゼちゃんにアイコンタクトを送ると、「ん? なんですの?」って返された。
そういうことじゃなかったんかーい!! ただ友達が欲しかっただけなのかな。
まあ、地雷踏んだのもミリーゼちゃんだからなぁ。
それはそれでかわいいってことで。
そんなことがありながら時間が流れ……。
「もうそろそろ終わりっぽいね」
「楽しかったです」
「また会いたいですわ」
「また会おうよ」
お別れの時間。意外となんとかなったな。
いや、暴走させちゃったし失敗かな……。
でも、また会って話したいな。二人とも結構面白い子だし。むしろ私が一番つまんない子かも。
「それじゃあ、またね」
「うん、また11月に会いましょう」
「約束ですわ!!」
「あははっ、なんか大袈裟だね」
「いいじゃないですか、良い雰囲気で別れましょうよ」
「うん、じゃあね」
二人に手を振りながら、会場の入り口で待ってるお父さん達のところへ歩く。
なんか、行きたくないって言ってたのが嘘みたいだ。ほんとに、来てよかったな。
にこにこの私を見て、お父さんが笑顔で聞いてくる。
「楽しかったか?」
「うん!」
楽しかった。それだけは間違いない。
「それはよかったわ。ブラッドったら、ずっとうまくやれてるか心配していて、落ち着かなかったから」
「シュナ!? それを言ったら俺の威厳が……!!」
「あら、そんなものがまだあると思ってたの?」
慌てるお父さんを見て二人で笑う。
だが残念。あの筋肉閉塞窒息寸前事件で、威厳など消え去ったのだ。




