第2話 転生と家族
おはよう。新しい世界。
目をあけると、ボヤける視界の中に女の子の顔が映り込む。
「ん? ……おきたの!?」
「ぅぅぅ……」
うん、と言おうとしたのに呻くことしかできない。
頭もボンヤリしてるし、体も重い。
それも無理は無い、どうやらこの体は丸三日寝込んでいたらしいのだ。
「まってて、お母さんよんでくるから!!」
女の子は叫んだあと、飛び出して行った。部屋の外から叫び声が聞こえてくる。
私は現状を確認しようと重い頭を動かして、周りを確認する。
まず足元を見ると、大きな窓があって、可愛いレースのカーテンが掛けてある。
そこから右に視線をうつすと、木でできたドアがある、さっき女の子が出て行ったドアだ。そのほかにもまあまあ大きいクローゼットや絵本が置かれた本棚や一人用の机もある。
小物なども女の子が欲しがるような物で、ベットも私が寝ている一つだけ。
おそらくここは私の部屋なのだろう。
子供に個室を与えられるということは、神様に聞いていた通りかなり裕福な家なのだろう。
「ルシア!! 起きたの!?」
「起きたのね! よかったわルシア!!」
「ほんとだ! 起きてる!」
そんなことを考えていたら、女の子が母と姉、兄を連れて戻って来た。
みんながホッとした表情をしているのを見て胸が痛くなる。
ごめんね、私はみんなが知ってるルシアちゃんじゃないんだ。
そんなふうに思っても口にはできない。神様との約束もあるし、言っても悲しませるだけだ。
この体の元々の持ち主であるルシアちゃんは、重い病を患っていて、神様曰く「魂
が蝕まれているから、外から治す事はできない。治す方法は自力で乗り越えるか、魂を入れ替えるしかなかった」そうだ。
五歳のルシアちゃんは自力で耐えられるだけの体力が無かった。だから私がルシアちゃんの体を貰ったという訳だ。
転生させるために殺した訳では無いから負い目に感じる必要は無いと言っていたが、正直これからずっとルシアちゃんとして家族を騙すのは気乗りしない。
「痛いところは無い?」
「うん、大丈夫」
心配してくれるお母さんらしき人に笑いかける。
大丈夫、胸が痛むのは精神的な問題。体はダルさも取れてきて、健康体だ。
「よかった……!」
「ルシア! あそぼ!」
「だめよ、ミナ。ルシアは病み上がりなんだから」
最初からいた女の子――ミナが笑顔で誘って来るが、お母さんが慌てて止める。
お母さんからすれば、ずっと寝ていた末っ子が目を覚ましてようやく安心できた所なのに、はしゃいでまた倒れたら大変だということだろう。
「ミナ、わたし達と遊びましょ」
「そうだぞ、ルシアが元気になったら、面白い遊びを教えてやるんだ」
「うん! わかった!」
ミナの――私のでもある――姉と兄がミナと一緒に笑い合う。
……異世界の子供は何をして遊ぶんだろう?
私は、前世では外に出るとトラブルに遭うから、家で読書やゲームをしていることが多かった。
「じゃあねルシアちゃん、ゆっくり休んで元気になってね」
「またね! ルシア」
姉とミナが手を振りながら出ていき、それに兄も続く。
私もベットの中から「じゃあね」と手を振り返し、ニッコリと微笑む。
そうしてお母さんと二人になった。
お母さんは四児の母とは思えないほど若々しい。
姉と兄は十歳くらいに見えたから、お母さんは三十歳くらいだろうか。綺麗な金髪に優しげな青い瞳。この人の子供なら、私もきっと美人になるはず。
「お父さんには連絡したけど、帰ってくるのは一時間後くらいかしら」
どうやらお父さんはお仕事中らしい。
神様によると私が転生したこの家はファーナル家と言うらしい、由緒正しき伯爵家だ。
つまり私は伯爵令嬢ということになる。大出世だ、やったね。
まあ、伯爵令嬢なら大事に育てられるだろうし、その分命の危険が高いダンジョンに行かせてくれない、なんて事もあるだろう。その時は頑張って説得するとして。
「お母さん、お水飲みたい」
「ああ、そうね。持ってくるわ」
喉がからっからだ。お母さんは待ってて、と言い残して部屋を出ていく。
そして私は一人の間にやりたいことがあった。
それはズバリ。
「ステータス」
私が唱えると、文字が浮かび上がる。
いずれ声も出さず、考えもせずに見れるようになるらしいが、今はまだこの体に馴染むので精一杯だ。
新たなる自分の能力にドキドキする。
そして肝心のステータスがこちら。
ルシア・フォン・ファーナル
アビリティ:《幸運》〈火の加護〉
《幸運》っ!!! なんて素敵な二文字だろうか。
私が欲してやまなかった物がここにある。
ついでの〈火の加護〉これはおそらく火属性の魔法が強くなるとかだと思う。
火傷しづらくなるとかだったら泣く。
このアビリティってのは、簡単に言えば特殊能力。生まれた時から持ってるものらしい。これから増えることもあるみたいだけど、最初のアビリティで増えるアビリティの方向性が決まってしまうそうな。
この《》で表記されてるのは特殊なアビリティで、普通の子どもは一個だけだと神様は言っていた。
つまり、私がこれから獲得するアビリティは〈火の加護〉に近い、魔法系のものになるはずだ。
まあ、魔法使いになれるのはすごくワクワクする。
なにより、モンスターと近距離で戦わないで済みそうなのが嬉しい。返り血とか嫌だしね!
とか考えてたらお母さんが帰ってきた。
「はい、お水」
「ありがとー」
あー生き返るぅ。渇いた喉に水を流し込むのって幸せだよね。
グビグビと一気に飲み切ってお母さんにコップを返すと、不思議そうな顔でまじまじと見つめられる。
「な、なに?」
「いえ、ずいぶん勢いよく飲むのね……」
「!」
やば! 貴族のお嬢様はもっとお上品に飲むのか!
なにぶん日本の一般家庭出身なもんで。
「あ、あはは。すごい喉渇いてて」
「まあ、三日間寝たきりだったものね」
なんとか誤魔化せた……かな?
次からはゆっくり飲もう。
「ほかに何かして欲しいことはある?」
「うーんと……」
なんだろう、異世界の娯楽がわからない。
そもそも五歳の女の子が好きなことで私が楽しめるの物があるか……あ!
「絵本!」
「ええ? もう家にあるのは全部読んであげたでしょう。どれがいいの?」
「なんでもいいよ」
戸惑ったように聞いてくるお母さんに適当に答える。
どうせどれも私は読んだことないし。しかし全部読んだとは凄いなルシアちゃん。
この部屋にあるのだけでも百冊近くありそうだ。
まあこの場合凄いのは読み聞かせたお母さんかもしれないけど。
「なら、ルシアが一番好きなやつにしましょうか」
そう言って持ってきたのは一人騎士と、ドラゴンらしき怪物が戦っている絵が表紙の絵本だ。
ベットの脇にあった椅子に座り、お母さんは読み始めた。
むかしむかしあるところに、男の騎士と女の騎士がいました。
ふたりはいつも一緒で、騎士として異界の怪物と戦っていました。
男の騎士にはライバルがいて、いつもふたりはいがみ合っていました。
ですがある日、異界の怪物と戦っていた男の騎士は怪我を負ってしまいました。
そんな男の騎士を逃すために女の騎士は命がけで戦いました。
そのおかげで、男の騎士は無事に帰ってきましたが、女の騎士は亡くなってしまいました。
とても悲しんだ男の騎士はライバルに後を託して、仇を討つために怪物と一騎討ちをしました。
男の騎士は命と引き換えに怪物を倒し、異界は壊れてかけらになりました。
そして異界のかけらは散って行き、ダンジョンとなったのでした。
おしまい。
まとめるとこんな感じ。
最初に思ったこと言うね……重くない??
なんでこれが絵本になってるの?
誰も幸せになってないじゃん! バッドエンドじゃん!?
私、絵本って子供が読むようにできてると思ってたけど違うの?
それとも、この世界の子供はこういうのが好きなの?
せめてダンジョンになったのを伏せてれば、まだ理解できたのに……。
そういえば、あっちの童話もハッピーエンドばっかじゃないというか、舌切り雀とか、ハーメルンの笛吹き男とか、戒めみたいなニュアンスの作品も多い気がする。
だとしたらこの絵本が伝えたいことは、仲間は大事にしろとか、好きな人には想いを伝えろっていうことなのかな。
ルシアちゃんはどうしてこれが好きだったんだろ。




