51 もうひとつ、おわり
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意識が覚醒し、自然と瞼が持ち上がる。
目に入るのは白い天井。瞼以外は重たくて、感覚も鈍い。それでもやがて、点滴につながれていることや、時計が秒針を刻む音などがわかるようになる。
そうしてヨハンは、自分が生きていることに気づいた。
少しばかりの安堵と後悔、うまくいかなかったことへの絶望感がないまぜになって、覚醒したばかりの頭を混乱させる。
おそらくその混乱は、ごく短い時間のことだった。
ふと、右手に自分のものではない温かみを覚えて、重い頭をゆっくりと動かす。
ベッドの脇に、長い間会っていなかった幼馴染の一人がいる。ヨハンの手を握ったまま、頭をベッドに置いて寝息を立てている。頬に残る涙の後を見つけて、この友人が目覚めたときの言い訳を思わず考えてしまった。
「メイリー」
呼ぶ声は、自分で驚くほどに掠れていた。
握られた手を抜き取って、眠る幼馴染の頭をなでる。間もなく目を覚ましたメイリーフは、安堵し、目を潤ませ、やがてヨハンの手を再び握った。しかし頭をベッドに乗せたまま、涙を見せたくないのかそっぽを向いてしまう。
「ねえヨハン。ここから出たいなら、うちが連れてったげる。あの天文台はもう使えないけど、星はどこでだって見えるよ」
涙で濡れた声は、驚くほどヨハンの心に染みた。
「イジェもね、星は綺麗だよ。ヅェレン高地は昔、国際天文観測基地だったんだ。知ってるでしょ?」
「ああ」
「だから、死なないでよ」
ぎゅっと握られた右手。それに込められた想いを、ヨハンは理解する。
「お前、あれは即効性って言ったくせに。どういう薬だったんだ?」
「意識はすぐ無くなったでしょ?処置しなければ死んでたよ。うちにすぐ連絡がつく状況でよかったね!うちの目の届くところでは死なせないから!」
「ははっ・・・――ニアスにばれたろ?怒られなかったか?」
「マジ面倒だった!薬の出どころがうちってこともそうだけど、無所属の面々みんな持ってるのが気に食わないみたい。うちらには必要なお守りなのにな」
「・・・そうだな」
「さすがに取り上げられちゃった。セイファも取られたってさ。ここを抜け出したら、また入手しないと」
「ああ・・・、俺にも頼む」
「任せてよ」
――その決意は、誰かには間違っていると映るかもしれない。馬鹿みたいだと、思われるかもしれない。けれどどんなにいらない理由を並べられても、ヨハンは必要だと結論する。外で生きることを決めた他の幼馴染たちもそうだ。
こどもの時に取り上げられた思い出の片鱗を守り続けるために。同時に、自身が世界を壊さないために。
自動ドアがごく静かな駆動音で開いた。その向こうには、息を切らしたイーニアスがいる。ヨハンが「よう」と挨拶すると、ぼろぼろと泣き出し、メイリーフを押しのけるようにして、ベッドに縋り付いてきた。
「・・・・・・ニアス」
イーニアスは何も言わない。彼はレナと同じくらい感情表現が下手だったことをヨハンは思い出す。言葉では何も表せず、泣くか、喚くか、何かを創ることで発散させる人種なのだ。
「おいニアス!うちの足踏みやがって!」
メイリーフの文句も聞こえないらしく、イーニアスはまだ泣いている。
ヨハンはメイリーフと目を合わせ、やれやれと笑いあった。




