第8話
まさか「悪役令嬢」とまで言わるとは思っていなかったが、一応はリリーの思惑通り。しかし、問題は他にもある。
そんな胸の内を誰にも言う事なく秘め、リリーは第一王子からの「お茶会の誘い」と言う名の呼び出しに応じていた。
「最近……君の周りは随分と騒がしい様だね」
「申し訳ございません。殿下にまで伝わってしまっているとは」
なんて、全く思っていない事を口にしつつ受け答えが出来ているのは王妃教育の賜物かも知れない。
多分、王子の耳には「生徒会に新しく庶務が入り、その人物はエミル殿下と親しい」という事と「それと同時にその人物に対してリリー嬢が何か良くない事をしているとの噂が立っている」といった様な内容が入っているのだろう。
そもそも彼女を生徒会の庶務にしたタイミングも周囲からしてみれば「え、なんで今?」と思われるタイミングだ。
ただ、そうした事により学園の人たちには「ハンナ嬢が殿下と仲良くしているが為にリリーから目を付けられた」という印象をより強く与えられたからこれはこれで良かったとは思う。
「いや、いいんだ。それより、その噂のせいで君の評価が下がってしまっているのがどうにも……ね。それで提案なんだけど、王宮直属の隠密部隊の『影』を付けるって言うのはどうかな?」
王家としてもリリーに対する良くない噂をこのまま放置しておくわけにはいかないのだろう。だから第一王子のこの提案が出てくる事は想定済みだった。
「お心遣い感謝致します。ですが、自分の事は自分でどうにか出来ますのでどうかご安心を」
凛と背筋を伸ばし、付け入る隙を与えない様にリリーはそう答えた。
ここで隠密の精鋭である『影』がリリーに付いてしまってはイジメの主犯がリリーではない事がバレてしまう。それだけは絶対に避けたかった。
「そっか。分かった」
「……」
ただ、ここで意外だったのは王子がここで引いた事だ。普通であればもう少し押してくるとリリーは想定していたのだが……。
ここで「まさか、バレている?」とリリーは一瞬身構えたが、それ以上王子が何か言って来る事はなく、お茶会は終了した。
「……」
とにかく目下の課題は……先程までリリーの目の前で優雅にお茶を飲んでいた第一王子だ。
彼がリリーたちの婚約に大きく関わっているのは分かっている。
せめてハンナ嬢がリリーの代わりでも十分果たせると思わせられるような実績。または功績を上げるのが一番良い。
たとえ「学園内でリリーが殿下の婚約者に相応しくない」という声が上がっても、他の人が当てられては意味がない。
しかし、ハンナ嬢は男爵家の令嬢だ。そうなると、ここは目に見えて優秀な人物である事を示さなければならない。
ただ、それらをするにはあまりにも時間が無い。
そうした中でリリーが考え出した答えの1つが「定期テストで自分よりも良い成績を修める事」だった。
魔法学園の試験の難易度は後半になるにつれて最初の頃に学んだ基礎も含まれてどんどんと難しくなる。
それは下手をすると王宮魔導士の採用試験よりも難しいと言われている程だ。
そこでリリーよりも良い成績を残せれば、少なくとも魔術師においての知識などは彼女の方が上だと証明できるのではないか……と考えたのである。
そして、名目上は「生徒会の仕事の補助」という事でハンナ嬢をスカウトしたのだが、実際。確かに生徒会の仕事の補助もしてもらっていたが、それ以上に成績の向上とマナーやダンスの学び直しの為でもあった。
彼女も貴族令嬢としてマナーの心得はあったものの、リリーの代わりになるにはまだまだ至らないところも多く、それに加えての分かりやすい実績の為、リリーは彼女を厳しく教えた。
その為、時としてそれが「涙」として現れる事もあり、それがより一層イジメを決定づける証拠になった。
しかし、その厳しく教えた事が功を奏したのか……最後の学期の定期テストで彼女はリリーを抑えてずっと一位の成績を修める事が出来、そして最後のテストの成績は歴代最高の点数だった。




