第8話
本来であれば「王宮」という特殊な場所故に会話だけをとっても細心の注意を払うのが常だ。
それはシュトラールだけでなくエデルも当然知っている。
だからこそ、シュトラールがいる部屋は基本的にエデルや王妃。他に任意の人物しか立ち入る事が出来ない様に魔法陣が施されていた。
ただ、この魔法陣はかなり古い物で今となってはここ以外で残っていない。つまり、古すぎるが故に対抗魔法すら残っていないもはや骨董品レベルの魔法陣という事になる。
「なるほど。そういう事でしたか……」
この『イビル』にの前ではこうした「人払い」の様な魔法や魔法陣は何も意味がなかった。
彼は昔から持つ『紺の瞳』の性質からこうした闇魔法や魔法陣に対して強力な耐性を幼い頃から持っていたのだ。
「なんだ、それ……本当か?」
「はい。間違いないかと」
人払いをしておきながら会話を聞かれてしまうなど本来であれば仕事を解雇されてしまう程の失態……なのだが、そもそもこの魔法陣に対抗出来る人物がいる事を目の前にいる「主人以外」誰も知らない。
「チッ、あいつめ。この僕を『流行り病から守る為』などと言って閉じ込めたのは手柄を独り占めするためだったんだな!」
「……」
実際のところは「婚約破棄」の一件が発覚してからすぐにこの離宮に入れられたので「流行り病から守る為」というのは後付けの理由である事は明白である。
ただ、本当の理由は「独断で決めた婚約破棄した事に対する一種の反省を促す為」だろうとイビルは内心思っていた。
当然、自分が一番正しいと思っている「主人」を前にそんな事は口が裂けていも言えないが。
「それに、せっかくあのいけ好かない女と婚約破棄が出来たと言うのにハンナは会いにも来ない!」
確かに、何も貴族牢に入れられた訳ではないので来ようと思えば都市部から離れているとはいえ来る事は出来る。しかし、彼女はあの婚約破棄が行われて彼がここに来て以降来る気配はない。
そもそも彼女は男爵令嬢だ。公爵令嬢だった元の婚約者と同じ様に考えてはいけない。
それに「全く音沙汰がない」という訳ではない。文通はしている。
しかも今は流行り病が流行している最中で……だ。中には文通すらままならずに交流が出来ていないカップルもいると言う。
それに、彼を思うのであれば流行りに罹る可能性が懸念される。それはイビルの「主人」である『エミル』も自分で話していて分かっているはずなのだが……。
「……」
それでもヒートアップしている彼の話を遮ってはいけない。ましてや「正す」など以ての外だ。
イビルは別に自分の主人が自己本位だろうが正直どうでもいい。
そもそも自分の存在は隠されている。それはつまり「自分はこの世界に存在していない」と言っているのと同等だ。
これは……きっと長くなる。イビルは内心ため息をつきながら自身の主人をジッと見つめていた。




