第11話
しかし、そんな事をすればここまでやってきた事が水の泡になる。
「ハンナの心遣いに感謝するのだな!」
「!」
勝ち誇った様に言う殿下に対し、リリーはものすごく驚いた。
確かに、ハンナ嬢から「仮に思惑通りにいったとして、その後はどうされるおつもりなのですか?」と聞かれた事があり、その際に「出来れば自由。国外追放になりたいわね。でも、きっとそれは無理でしょうけど」と苦笑い気味にその場は答えたが……まさか覚えていたとは。
「……」
きっと、これが彼女なりの出来る精いっぱい。
しかも、この事を第一王子が知らないというところについてもいつも自分に指図ばかりしてくる兄に対する意趣返しとして、殿下はこのハンナ嬢の提案に乗ったというところなのだろうか。
それならば、リリーは誠心誠意これに応えるべきだ。
それに、この場を持ってリリーは公爵家の人間。いや、貴族でなくなるのだから最後こそ淑女らしく終えるそれがリリーらしいとも言える。
「承知致しました。荷物をまとめ次第本日中にでも私はこの国を去ります」
「ふん! 分かればいいのだ。サッサと出て行け!」
リリーとしては内心「言われずとも」とにこやかに言ってやりたいところだが、それを言うと殿下の機嫌が悪くなってハンナ嬢に迷惑がかかるかも知れないのでさすがにしない。
とりあえず、この場に留まる理由もなくなったので速やかに帰宅しようと出口に向う途中で何やら足音が近づいている事に気が付いた。
「リリー様!」
「……ハンナさん」
ここでリリーに話しかけては怪しまれてしまう可能性もあるのだが、どうやらどうしても言いたい事があるらしい。
「――ありがとうございました」
耳元で囁かれた言葉をリリーは「今までの感謝」と捉えていたが、リリーたちの事情を全く知らない第三者が聞いていたら「今までご苦労様」という意味で取れるかも知れない。
多分、こうしたところもハンナ嬢なりの気遣い……。
本当はもっと色々と言いたい事があった様にも見えたが、殿下たちの目だけでなく様々な参加者がいる前ではここまでが精いっぱいだったのだろう。
そして、ワザと耳元で話しかけているのを見た殿下が何やら楽しそうにしているところを見る限り、多分「最後に勝利宣言でもしている」とでも思っているのだろうか。
全く。何とも性格の悪い……。しかし、これからはハンナ嬢がその殿下とこの王宮に仕える。
でも、リリーは何も心配はしていない。これだけ頭の回転が早いのだからきっとリリーよりも上手く立ち回われるだろうと思っているからだ。
それに、リリーはこれから家に帰って準備をしなければならない。いや、もしかしたらもう既に準備はされているかも知れない。
「――それでは、失礼致します」
出口に着くと、リリーは今一度ゆっくりと振り返り、その場で軽く一礼して会場を後にしたのだった――。




