EP:\0001\プロローグ.txt
前作から1年ほどのご無沙汰です。
満を持しての新連載、よろしくお願いします。
まずはチュートリアル的なプロローグ。
コンティネント大陸の東方に位置するハーフェン地方。ここは突如発生した魔力災害により、人が住めなくなってしまった場所の一つだ。
人々から瘴魔と呼ばれたそれは、星の環境や生態系に影響を及ぼした。未曾有の暴風雨で建物は倒壊し、穀倉地帯や草原だった場所は干ばつで荒野化。植物が異常成長した結果、飲み込まれてしまった街もある。海は荒れ雷が降り注ぎ、刻々と変化する海流が船の航行を阻む。
あまりに濃密な魔力は物理法則を捻じ曲げ、様々な異変を生み出してしまう。水生生物ですら命を落とす、浮力を失った海域。次元の断層が発生し、巻き込まれたら二度と戻ってこられない、気流うずまく空域。増加を続ける汚染エリアと、異質な魔力が引き起こす健康被害に人々は耐えられず、徐々にその生息域を減らしていった。
種族の垣根を超えた協力体制が敷かれ、数多くの調査隊が派遣されたものの、原因の究明には至らず時間だけが過ぎていく。人類滅亡も秒読み段階かと思われたその時、数合わせの寄せ集め集団だと、誰からも期待されていなかった一行が、魔力災害の収束に成功する。
英雄と称えられる彼らの中に、その存在をほとんど知られていない、一人の人物がいた――
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領都ハーフェンの近くにある広大な森。かつてこの場所にあった倉庫は全て消え、一面緑に覆われている。一帯の時空に干渉した瘴魔が時間を加速し、劣化が進んで土に還ってしまったのだ。当時の面影はどこにも残っておらず、住み着いているのは小動物だけ。
――パリィーン
薄いガラスを割るような音が周囲に響き、木々の枝を大きく揺らす。風とは異なる密度を持ったそれに驚き、近くにいた動物たちが一斉に逃げ出していく。暴風のような流れに翻弄され、墜落してしまう鳥もいた。
空間の一部に亀裂が入り、裂け目からあふれだす白い光。
紡錘形の割れ目が広がり、中心部から形を持ったものが現れる。
青白く輝く絹糸のような髪。
触れると壊れてしまいそうな細い手足。
まるで何かを求めるように開いた瞳は、宝石のようにきれいな青色。
生まれたての小さな赤ん坊は、ゆっくりと地面に横たわった瞬間、産声を上げた。
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比較的被害の少なかった建物を応急修理して作られた復興庁は、今日も大勢の人たちが利用している。次から次へと来庁者をさばいているのは、総務課や住民課など様々な窓口で受付業務をこなす、髪がグラデーションの女性たち。魔法陣が刻まれた瞳を持ち、うなじには認識番号が印刷されたバーコード。人とほとんど変わらない姿を持つ彼女たちだが、その生い立ちは大きく違う。
瘴魔の影響で昏睡状態に陥ったり、働けなくなってしまった人々をサポートするため、賢者たちによって創造されたホムンクルスである。錬金術と生体工学で作られた素体に、人工精霊という魂を組み込んで定着させた、最先端技術の結晶。その名も偽精体だ。
◇◆◇
混み合う人々の間を縫うように、黒い手袋をつけた少年が一か所だけ空いている窓口へ近づく。向かう先にいるのは、毛先に向かって鮮やかな青から、晴れ渡る空色へ変化する髪が特徴の偽精体。少し赤みがある深い青の瞳には、マイクロ文字でルーンが刻まれた、花のような魔法陣。
笑顔を浮かべている他の偽精体たちとは違い、一人だけ冷めた表情をしている。
「おはよう、シエル」
「また来やがったですか。いー加減その識別名で呼ぶのは、やめやがれです」
「この窓口はいつも人が少ないから助かるよ」
「相変わらず人の話を聞かねーやつですね。あーしはインテグレート製ゼオーン級のボディーに、第三世代486号体人工精霊を組み込んだ官公庁モデル。識別名を使いてーなら〝あい・よんはちろく〟と呼びやがれです」
二人のやり取りを聞き、数人の来庁者が驚いた顔で、声のする方へ視線を向けた。それ以外の人々や偽精体たちは、いつものことだと気にもとめない。
「愛着が持てないから、番号呼びは却下で」
「そもそも、どーしてシエルなんですか。そんな要素なんて微塵もねーです」
「和州出身の転生者に教えてもらった、ポケベル読みってやつなんだ。〝14106〟や〝0840〟みたいな独自言語があるらしい」
「そんなのあーしらのデータベースにも、インストールされてねーです」
「教えてくれた人も前世紀の遺物とか言ってたから、古典言語みたいなものじゃないかな。研究者でもない限り、不必要な知識だと思う」
少年はそんな話をしながら、IDタグを窓口に差し出す。
「今日はなにしやがるつもりなんです?」
「旧倉庫街に設置してる魔力モニターの点検と、記録の回収をしてくるよ」
「あの辺りはまだ魔力が不安定になってやがりますから、怪我しねーよう気をつけて行ってきやがれです」
「うん、ありがとう。じゃあ行ってきます!」
タスク受領の伝票とIDタグをシエルから受け取り、少年は建物を出て大通りを進む。本格的な復興が始まったばかりの街は、瓦礫の撤去をしたり新たな建物を作る人々で、活気に満ちている。
作業しているのは人族だけでなく、大きくて目立つ耳と尻尾を持った力自慢の獣人族。
小柄で物づくりが得意な山妖精や、魔法の力で高い場所へ建築資材を運ぶ森妖精など、様々な特徴を備えた数多くの種がいる妖精族。
体が丈夫で滅多なことでは怪我をせず、危険な作業でも楽々こなす鬼人族。
高い知能を持ち、錬金術を使って復興に寄与している竜人族など多種多様。
どうしてこれだけの人材が集まっているのか?
大きな港があり世界最大の物流拠点だった領都ハーフェン復興は、多くの種族に恩恵をもたらす巨大プロジェクトだからだ。
◇◆◇
賑やかな通りを走る少年は顔見知りをみつけ、作業員へ指示を飛ばしている中年男性に声をかけた。
「おはようございます、親方」
「おう、ロックか。今日はどうするんだ?」
「旧倉庫街で機材の点検と更新をしてきます。夕方までには戻りますので」
「信号弾は持ったな?」
「ええ、この中に」
ロックはくるりと背中を向け、大きなバックパックを指さす。
「困ったときには、躊躇なく使うんだぞ。儂らでも短時間なら、活動できるからな」
「はい。何かあったときは打ち上げます」
いつも気にかけてくれる親方にお礼を言い、ロックは再び街の外へ走っていく。それを見送っていた親方に声がかかる。
「今日からよろしくお願いするっす」
「四次募集で来た連中だな。現場を案内してやるから付いてこい」
彼らは同じ疎開先に身を寄せていた、ハーフェンに縁のある者たちだ。割のいい働き口を探していたところ、今回の募集を打診されて参加した。
親方は新しい戦力になる五人の人族を連れ、雑談を交えつつ瓦礫が撤去されたばかりの区画を進む。
「そういえば俺らが付く前にいた、背の高い男は誰なんっすか?」
「見た感じ、僕たちより年下ですよね」
「あいつはロックといって、もうじき十五になるはずだ」
「街の外へ向かってたみたいですけど、あの辺りはまだ危険って聞きましたよ」
「具体的な数値を聞いたことはないが、あいつの魔力強度は領主様より確実に上だぞ」
「人族でもトップクラスの魔力強度を持つアンバー王子って、確か四百二十ですよね。それより高いって凄すぎでしょ」
「まあロックは復興チームの初期メンバーだからな。それくらいの数値を持ってないと、森の中へは入っていけないってこった。お前らは近づくんじゃないぞ」
異質な魔力である瘴魔に、どの程度耐性があるのか。それを数値化したものが魔力強度だ。値が低いと瘴魔を数時間浴びただけで体調を崩し、最悪の場合は命を落としてしまう事もある。
二次募集で参加している親方も、魔力強度は四百しかない。四次募集でやってきた彼らの数値は二百ほど。除染が進んだ場所以外で活動するのは危険が伴う。
「それにしてもこの街って、女がほとんど居ないっすよね」
「人族の女は魔力強度が低いから仕方ないだろ。その代わり偽精体なら大勢いるじゃないか」
親方の言葉を聞き、男たちは表情を曇らせる。
「見た目は俺らに似てるんっすけど、なんか違うんっすよ……」
「笑顔とか作りっモノっぽいし、そもそもアイツラに恋愛感情とかないでしょ」
「容姿やスタイルは文句なしなんですけどね」
「「「それなー」」」
彼らの疎開先には偽精体がおらず、最初は街の光景に心躍らせていた。主要な施設や店舗で必ず見かける、見目麗しい偽精体たち。笑顔で接客をこなし、優しい言葉をかけてくれる姿に、ワンチャンあるのでは……などと思ってしまったのだ。
しかしそんな甘酸っぱい思いは、すぐ打ち砕かれてしまう。
種族や性別を問わず、全く同じ態度で接する振る舞い。ナンパのような真似をしてみても、返ってくるのはテンプレ回答。声を上げて笑ったり、近くにいる同僚たちと雑談をしたりといった行動も一切やらず、食事すら必要ないという異質な存在。そうした事実を知ってしまった彼らは、一気にその気持を萎えさせた。
「昔の偽精体は、無表情で何を考えてるかちっともわからん、人形みたいな存在だったんだぞ。そのことを思えば、かなり人間っぽくなってるがな」
「へー、進化してるってことですか?」
「この十年くらいでかなり変わって、怒ったり悲しんだりするようになってる」
「あー、そういえば、復興庁に面白いのがいましたね」
「汚い言葉遣いで対応してくるし、書類の書き間違いに文句を言ってくるし、何なんですかアレ」
「486号か。あいつは自分でポンコツとか言ってる、とびっきり変なやつだ」
偽精体に組み込まれている人工精霊は、オリジナルである0号体が元になっている。彼女が生み出した1号~9号の第一世代。1号からは10号・11号……と十体の第二世代が生まれ、10号の下には100号から109号の第三世代といった具合だ。
スペックの違いこそあれ源流は同じなため、基本的な部分は同質である。そんな系譜を持つ彼女たちの中で、ロックからシエルと呼ばれる486号体は、突然変異と呼べるような存在だった。
どうしてそんな個体が生まれたのか。
その理由や原因は誰も知らない。
――…‥・‥…―――…‥・‥…――
森に到着したロックは、魔力モニターの置かれている場所を目指す。普通の人間だとすぐに迷ってしまうような森でも、方向感覚の優れた彼なら問題ない。地図に描かれている設置ポイントをチェックしながら、軽快な足取りで森の中を進む。
まるで自分の庭を散策するかのごとく森を駆け抜け、機材のメンテとデータ回収を次々終わらせていく。そして途中で持参した弁当を食べたあと、最後の設置ポイントへ向かう。
到着した場所には地中深くまで刺さったポールがあり、その先端に測定機器が付いている。瘴魔を浴びた魔道具コアは壊れてしまうので、地脈の力を使って動かすためだ。
「よし、終了ーっと」
測定データの記録をとり、ファームウェアのアップデートを終えたロックは、うーんと体を伸ばす。以前来たときより身体能力が向上していたおかげで、予定より早い時間に終わってしまった。
今から帰っても時間を持て余してしまう。報告がてらシエルと話でもしようかと考え、慌てて首を振る。いくら人のあまり来ない窓口といえど、自分が占有していい場所ではない。出会った頃から馬が合う偽精体でも、専属のように扱ってはダメだ。
そもそも九人しかいない第一世代は国家が管理。第二世代は官公庁で運用。第三世代は公共性の高い現場に配属されると決まっている。
もし個人で持てるとしたら第四世代以降。所有するには厳しい審査があるし、最も廉価なインテグレート製のエイトーム級や、アムダール製のトライオン級でも簡単に入手できない。将来、自分専用の偽精体を迎えられるよう、今は復興を頑張ろう。ロックはそんな事を考えながら、機材をバックパックに詰めて背負い直す。
「えっ!?」
突然襲ってきた感覚にロックは驚く。これはあの人が暴走した時の感じと似ている。しかし彼女がこんな場所に来るのはおかしい。
だとしたらこの異常は……?
その場で大きくジャンプしたロックは、枝をつかんで木の上へあがる。周囲を見渡しながら発生源に当たりをつけ、ずっと付けていた黒い手袋を外す。前方に伸ばした手のひらで、荒ぶる魔力の奔流が消えていくのを確認し、異変の中心部に向かって木から木へ飛び移っていった。
性能順の型式名。
・インテグレート社
エイトーム→セロリーン→ペンターム→ゼオーン
・アムダール社
トライオン→アスリオン→フェノミオン→オプテリオン→ライゼリオン
どこかで聞いたことがある?
気のせいです。
(FX? Core? 知らない子ですね)
◇◆◇
今日は時間を置いて3話投稿します。
次回更新をお楽しみに!




