#9 何故か神子になったのですが
こんにちは、COCOAです。
6月に入りかなり暖かくなってきました。
そろそろ熱中症に気をつけながらお過ごしください。
レイザーベアを倒した後、先程とはうって変わって疲れたように私達は花畑に倒れ込んだ。レイザーベアを倒して素材アイテムを入手してレベルが上がったりスキルをゲットしたりした通知が来たけど今は取り敢えず休みたい。私に関しては肉体的に疲れたってよりは精神的にというか、心理的に疲れたっていう比重の方が大きいけど。
「いや〜…凄かったねぇ…」
「ごめんね?マスター。私がここに連れてきちゃったせいで…」
「そんな事言わないで?私はここを知れて嬉しいし、シルが私をこんな目に遭わせる為にここに連れてきてくれたなんて微塵も思ってないから」
「うぅ…ありがとう…」
横になりながら身体を捻って私にぎゅっと抱きついてくる。
「こうしていると、さっきまで起きてたことが夢みたいに感じるよ…」
「そうだね…実際時間は15分くらいしか経ってないからね…あ、そうだ言い忘れてた」
「どうしたの?」
「ん」
私の方からシルに抱きしめ返すと
「私を守ってくれてありがとうね、シル」
「なんとかマスターを守れて良かったよ…」
「あの熊さん相手に向かい合うシルが凄く格好よくて、頼もしかったよ」
「えへへ、そうかな〜?」
嬉しそうな声色でそう返事をしてくるシル。うん、そうだよ。最初襲われた時は怖かったから…だから。
「大好きだよ、シル」
「へ?!急に何〜!」
「急じゃないよ、ずっと思ってた」
「ふぇ…?」
「シルはどうなの?」
「わ、私?」
「そう、私のこと好き?」
「それは勿論…好きだけど…」
「ん、ありがとうねシル」
「ど、どういたしまして…?」
「ふふ、何それ」
困惑しているシルを見ていると、つい笑ってしまった。さっきは格好良かったのに、今度は可愛いな。にしてもさっきの熊は一体何だったんだろう…ランダムで発生するイベントなのか、何かの条件を満たすと発生するイベントなのか…さっぱりだけど、取り敢えず今分かることはあのレイザーベアとやらは私の適正レベル帯を優に超えていたということ。おかげで私のレベルは結構上がったし、何ならシルのレベルも幾つか上がっている。一体倒したらこんなに上がる、そう考えると結構効率良さそうに感じるけど心臓に悪いから少なくとも急に襲いかかっては来ないで欲しいな…
「シルって、何でこんなに強いの?」
「何でって言われても…私はこの種族だから生まれたときから結構強いし…」
「まあそうだよね〜…」
「そんなこと言って、マスターだって強いじゃん!」
「私の強さはシルありきだから…シルが居なかったら何も出来ないよ」
「…そっかぁ、私が居ないとマスターはダメなんだね」
「…どうしてそんなに嬉しそうにしてるの」
「え〜?嬉しそうになんかしてないよ〜!」
「顔が笑ってるもん、口角なんて下がってこないし」
「えへへ、見ちゃダメ〜」
「わぁ〜」
シルに身体を押されてぐるっと回り、今度は後ろから抱きしめられた。
「これで私の顔は見れないでしょ〜」
「見れないね、でも声が嬉しそうだよ?」
「もう、そんな所まで気にしなくて良いのっ!」
「ふふ、ごめんごめん」
「マスターったら…まあ嬉しかったのはほんとだけど…」
「やっぱりそうじゃん」
「えへへ」
「でもシルも私が居ないと召喚されないから、そういった意味ではシルも同じだよね」
「ん〜…確かにそうかも」
「そう考えたら私とシルは本当に一心同体なのかもね」
「そうだったら嬉しいな〜」
シルが私の背中に顔を擦り寄せてくる。背中で感じるシルの吐息が少しくすぐったく感じる。少しシルから離れようとする。
「あ、離れようとしたでしょ」
バレた。
「何でそんなことするの〜!」
「シルの吐息が当たってくすぐったいからだよ…」
「そうなの?」
「うん…まあ、そう」
「へ〜…」
何か企んだような声が聞こえてくると同時に私の背中の上を何かが滑った。
「ひゃっ!」
「わっ、本当にくすぐったいんだ…」
「そう言ったでしょ〜?」
「ごめんって〜!」
どうやらシルの指が私の背中をツーっと滑ったみたい。わざわざ確かめること無いのに…
「じゃあ、マスターって弱点だらけなんだね」
「え、そう?」
「だって耳も背中も弱いし、膝の上に乗せて頭撫でるとすぐ眠くなるじゃん」
「あ、そういう?…それは、しょうがないじゃん、そういう体質なんだから」
「ふふ、可愛いね」
「その可愛いはあんまり良い意味持ってなさそうなんだけど…」
「そんなことないよ!マスターが可愛いのは本当だもん!」
「え〜?絶対私はそんなに可愛くないんだけどなぁ…」
「む〜…」
私が私自身を可愛いってことを認めない所にどうやらシルは不満があるみたい。自分のことを自分で可愛いって認識するのは流石にちょっと…流石にナルシストみたいで嫌なんだけど。
「まあ、これからゆっくり自信付けてくよ…」
「そうして!」
「ふぅ〜…」
色んなことがあったけど、兎に角一段落することが出来た。ある程度休憩出来たしさっき来てた通知の確認でもしようかな。う〜んと、まずレベルが私は20に、シルは12になってる。本当に無理な相手だったんだね…で、素材アイテムとして【レイザーベアの皮】、【レイザーベアの爪】、【レイザーベアの肉】、【レイザーベアの魂】をゲットしていた。…ん?待って、レイザーベアの魂って何…?ちょっと詳細を見てみよう。
【レイザーベアの魂】その名の通り、レイザーベアの魂の具現化である。魂にはそのモンスターの軌跡が刻み込まれており、使用又はエンチャントとして扱う事でそのモンスターの力を使えるようになるかもしれない…
な、るほど…つまりはこれを自分又は武器に使用することで一定の確率を引けばレイザーベアの力を使えるようになる、って認識なのかな。軽くゲーム内検索をしてみたら魂が落ちる確率自体がまず大分低いみたい。その上魂が存在するモンスターはボスモンスターにしかないみたい…ってことはレイザーベアもボスだったってことだよね。場所を鑑みるにフロアボスなのかな?まあそこは重要じゃないから一旦置いておくとして、他の素材アイテムは売るなり加工してもらうなりしてって使い道が思い浮かぶけどこの魂はどうしようかな…武器や防具に使ってもその武器や防具を自分が着けてないとそもそも効果が発揮されないから自分に使うのが良いと思うんだけど、どうなんだろう…ちょっとシルにも聞いてみよう。
「ねぇシル〜?レイザーベアの魂がゲット出来たんだけどどう使ったら良いかな」
「魂出たの?それならマスター自身が使った方がいいと思うよ、その方が無駄にならないし」
「やっぱりシルもそう思う?」
「うん!」
「分かった、ありがとう」
シルからのお墨付きも出たのでレイザーベアの魂は私に対して使う事にした。魂の説明欄の1番下の方にスクロールすると使用とエンチャントを選べる所があった。使用の方をタップすると注意喚起が出てきた。
【使用で大丈夫ですか?】
勿論、はいを選ぶ。するとレイザーベアの魂が私の目の前に出てきた。見た目は幽霊というか、霊魂みたいなユラユラと動くような物だった。そして魂がガラスが割れたみたいな音をたてながら霧状になると、その霧状の魂が私の周囲に立ち込める。私に対して流れてくると、やがて魂の全部が身体に吸い込まれた。
【スキル:雷使いを入手しました】
そんな通知が来た。お、私も雷を操れるようになったんだね。そう思っていると
【スキル:レイザーベアの意志 と スキル:雷使い を統合してスキル:黒雷の神子を入手しました】
……え、何これ。何が起きたの?スキルの統合とかあるんだ…ってそこよりも、レイザーベアを倒した時に入手したと思われる【スキル:レイザーベアの意志】の効果が見る前に統合しちゃったからどういうスキルなのか全く分からない。その上黒雷の神子…黒雷って黄泉国で腐敗したイザナミの身体の一部として存在してた八雷神の内の一柱、だったはずなんだけど神子ってことはその力を使えるようになったってことなのかな…統合した後のスキルの詳細も見なきゃ…
【スキル:黒雷の神子】伊邪那美の身体の内、腹に生まれてきたと言われる八雷神の内の一柱である。神子が使えるその力は強く、黒雷を自在に操ることも黒雷として成ることも出来る。黒雷を使用した上で他のスキルを使用したり攻撃したりすると、その動作に対して黒雷を纏わせることができ、一例として攻撃する際は威力が上がる等の恩恵を得られる。
どうやら物凄い力を手にしてしまったみたい。はっきり言ってシルの時より現実味を感じないんだけど…というか、神子って名前が付いたスキルを手にしたってことはあのレイザーベアは八雷神の御神体だったみたいな事なのかな…これ以上考えてもよく分からないだろうし、私には関係無いから取り敢えず黒雷の神子を使えるようにすることを重要視しないといけない。ようやくシルの力が使いこなせてきた所なのに…でも、強くなれるならいっか。
「シルに教えて欲しい事があるんだけど」
「どうしたのマスター?」
「シルが元の姿に戻る時ってどういえイメージをしてる?」
「イメージ…今の人としての姿を霧散させるというか、力を抜くというか…抑えてる分を元に戻してる感じ…かな?」
「なるほど?」
「私ももう無意識で出来るから上手く説明は出来ないけれど、大体そんな感じかな。でもなんで急にそんな事を?」
「ん〜…まあ、スキルを使う時に必要だからかな」
「?…そっか〜」
あんまり私の意図が分かってないみたいだけど、シルを吃驚させたいしそこは良いや。
シルに教えてもらった通りのイメージをしてみる。力を抜いて、この姿を黒雷にする。そんなイメージを持ったまま、スキルを使う。
「…黒雷の神子」
ボソッとそう言うと私の身体にけたたましい音を出して黒い雷が降ってくる。
「わっ!!」
隣でシルが驚いた声を出してる。流石にシルでも大きい音を聞いたら吃驚するんだ。なんて他人事のように考えているとシルから声をかけられる。
「マ、マスター!」
「ん、どうしたの?」
「何か黒いのがマスターの身体中にあるんだけど?!」
「あぁ、これはスキルの効果だから大丈夫だよ」
「あ、そっか〜…なら良い、とはならないよ?!」
「…?」
「そんな可愛く首を傾げてもダメ!どんなスキル使ったの!」
「え、黒雷の神子ってスキル」
「どういう効果あるの!」
「簡単に言うと黒い雷を使う事が出来て、なんなら私が黒い雷になれるようになるスキル」
「私のマスターが変なスキル取ってる〜!!」
「変なスキルなんて言わないでよ…」
シルの言う通り、今の私は黒雷を身体中に纏ってる状態になってる。時折バチッて静電気みたいな音が聞こえるし多分合ってる。一先ず何が出来るか確かめよう。
「えい」
そんな力無い声と共に腕を上から下に振る、すると私がイメージした通りに少し遠くにある大きな木に黒雷が降って木全体を燃やし尽くして倒れる。
「わお」
「そんな軽いリアクションするような事じゃないでしょ!」
シルにツッコミされてしまった。
「何かマスターがまた凄い力手に入れちゃった…」
「えへ」
「恥ずかしそうに笑ってるマスター自体は可愛いのに、身体中を迸る黒い雷と今起きた災害のせいで素直に可愛いと思えない…!」
傍から見たら黒い何かを纏う幼女と項垂れてる銀髪のお姉さんが夫婦漫才しながら災害を起こしている、という訳の分からない状況を私達は作っていた。
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