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【書籍化】元・最下位の妃、ニ度目の政略結婚で氷の冷酷王に嫁ぎます  作者: 三沢ケイ


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(4)

「陛下は子供がお嫌いなのですか?」


 少し迷ってから、おずおずと問いかける。


「嫌い? 世継ぎに対して嫌いも何もあるか」


 ウィルフリッドはフッと笑う。


「俺は本来、国王になるべき器ではなかった。俺の血など、ここで絶えてしまえばいい」


 続けて彼がぼそりと呟いた言葉の意味が分からず、アリスは困惑する。


(本来、国王になるべき器ではなかった?)


 今の言葉は、ウィルフリッドは国王になどなりたくなかったのにやむを得ない事情──前国王と王太子が同時に亡くなったことにより、仕方なく国王になったと言っているように聞こえた。


(どういうことかしら?)


 アリスが事前に調べた噂では、ウィルフリッドは自分が国王になるために前国王と王太子を異能を使って死に追いやったと。


(……もしかして、あの噂って誤解なのではないかしら?)


 アリスがウィルフリッドと知り合ってからまだ数カ月だが、彼がそんな残虐非道なことをするとはどうしても思えなかった。

 でも、もし国王と王太子を殺したという事実自体が誤解だとしたら? ウィルフリッドは父親と兄を一度に失い、その上その犯人であると疑いの目を向けられた。さらに、望んでもいない国王の役目を押し付けられ、多くの自由を失った。


(そんなことになったら、誰だって人間不信になるわ)


 アリスはちらりとウィルフリッドの顔を窺い見る。

 ウィルフリッドは静かに、車窓から町の様子を眺めていた。端正な横顔は相変わらず冷淡な印象で、青い瞳はどこか寂しげだ。


 前国王殺しの噂が真実なのか誤解なのか、アリスに真相はわからない。


(でも、わたくしは仮初とはいえ陛下の家族なのだから──)


 彼の本当の姿の姿にもっと触れてみたい。自分にはもっと話してほしい。

 そう願うのは、贅沢なことなのだろうか。





 その日の夜、アリスはどこか悶々とした気持ちだった。


「アリス様。元気がないように見えますが、どうかなさいましたか? デートで何かあったのですか?」


 エマがいち早くアリスの変化に気付き、心配そうに声を掛けてくる。


「ううん、デートは楽しかったわ。とっても素敵な美術品をたくさん見られて、大満足よ。ただ──」

「ただ?」


 エマは小首を傾げる。

 アリスはエマに自分の胸の突っかかりを話すべきか否か迷った。


 初めて会ったときからずっと、あの鋭さの中にどこか寂しげな色が見える瞳が気になっていた。何か心に抱えているような、そんな気がするのはアリスの気のせいだろうか。


(でも──)


 雷が鳴る夜にアリスを心配して寄り添ってくれたウィルフリッドの優しさは、本来の彼のものである気がした。


 本当の彼を知りたい。今日の昼間に見たあのとびきりの笑顔を、自分も見てみたい。

 そんな欲が、むくむくと湧いてくる。


(そうよ。妻であるわたくしがそれをしなくて、誰がするというの!)


 アリスはぐっと手を握って決心する。


「ねえ、エマ。陛下について、教えてくれる?」


 アリスはエマを見上げた。




 現システィス国王であるウィルフリッド=ハーストは、システィス国王夫妻の次男として生を受けた。三つ上に王太子である兄、ひとつ上に王女である姉がおり、末っ子だ。


「陛下は元々、甘えん坊な子だったとアメリア様からは聞いたことがあります。亡き王太子殿下やアメリア様の後ろをちょこまかと追いかけては真似をするような、典型的な末っ子だったと」

「甘えん坊? 陛下が?」


 意外な証言に、アリスは驚く。今のウィルフリッドは他人を拒絶する冷徹な雰囲気を纏い、甘えん坊とは対極に見える。


「はい。王妃様は陛下をご出産された際にお亡くなりになっていることもあり、不憫に思われた前国王陛下は陛下のことをことさら可愛がっていたそうです。陛下自身も勉強している王太子殿下に強請って剣を教えてもらっては、上手くできたことを得意げに周囲に報告して褒められると嬉しそうに笑っていたと」

「へえ……」


 全く想像がつかないが、今日の昼間に見た肖像画にいた笑顔の少年からは、確かにそんな雰囲気を感じなくもない。


「あんな風に心を閉ざしてしまわれたのは、あの事件がきっかけですね」

「あの事件?」

「前国王陛下と、王太子殿下がお亡くなりになった事件です」


 エマは沈痛な面持ちで目を伏せる。


「その事件、詳しく聞かせてくれない? なぜ陛下が黒幕だなんて噂が真しやかに囁かれたの?」


 アリスは自分なりに調べたのだが、前国王が亡くなった経緯について詳しく載った資料はどこにも見当たらなかった。恐らく、閲覧制限のある部屋に保管されているのだろう。

 だから、アリスは未だに前国王と王太子が亡くなった事件について詳細を知らない。


「アリス様は、陛下の異能が水や氷を操ることであるのはご存じですか?」

「ええ、もちろんよ」


 アリスは頷く。


 システィス国の王族には、稀に異能を持ち合わせた者が誕生する。異能の種類は人それぞれだが、火・水・土・風・雷いずれかの精霊の加護を得ることで発現しているため、そのどれかに紐づいている。

 ウィルフリッドの場合は水の精霊の加護を受けており、水や氷を操ることができる。



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