8・ギルド会議へ
キアラは弓士にしては露出の少ない、一見動きづらそうな服装を好む。ただ本来、弓士の装備は軽量が命とされ、魔法やスキルなどによる特殊効果付与された軽装が一般的だ。
獲物を狙っている際にじっと待つこともある弓士であるから、その際に肌などが露出していると様々な問題がありそうなものだが、それこそ魔法と特殊効果で大体何とかなる。発動させれば目の前にいても認識できなくなるような【隠密】というスキルもある。近接の攻防などはほとんど行わない弓士であるので、動きやすいと軽いが重要視された結果だ。しかし正装となるとそうもいかない。
「え、今日はまた、いつもより更に動きづらそうな…」
「正装なんですよ、これ」
「弓士って正装そんななの?」
「こんなです。マントと宝飾がポイントですね」
「うわ、キアラさん暑そう」
「暑くもないですが、さすがにこれでは弓を引きにくいですね」
「引けない訳じゃないんだ」
「弓士の正装ですからね。貴族様たちの前でパフォーマンスする人なんかが着用する物ですし、ちゃんと弓と矢を差す場所もあるんですよ」
子どもの頃のキアラが憧れた弓士の衣裳であった。実際はこの衣裳でクエストに行くことはなかったが、いつかあの衣裳を着たいと夢見たものだった。キアラの服装が一般的な弓士たちと違うのは、彼女の中の弓士が正装であるからだ。本当はもっとよせていきたいが、さすがに動きづらいので色々と諦めている。
「キアラ、準備はできているか」
「はああ! 今日もお美しくていらっしゃる!」
出発時間の少し前にレオナルドはやって来た。通常のギルド会議には正装は不要であるが、今回は議題が重要である為にレオナルドも正装である。レオナルドはラフな格好よりは、かっちりとしたフォーマルな装いが似合う顔立ちをしているので、今回も素晴らしく似合っていた。これを見る為だけに嫌な出勤に耐えたようなものだと、キアラはうんうん頷いた。
ジョブによる正装は国によってほんの少しだけ変わるが、基本の形は同じ物だ。弓士には弓士の魔法使いには魔法使いの正装があるが、並ぶと揃えたようなデザインになっている。これが全ジョブ揃うと圧巻なのだ。不謹慎だが、今回のギルド会議で大体揃うのが楽しみでもある。
「どうも、で? 行ける?」
「はい、すぐにでも出られます」
「じゃあ、行こうか」
「俺やっぱりあの感じ無理、怖い。ギルドマスターって逆に何か心の病でも抱えてんじゃね?」
「しっ、見るな。何かしら良くないものが移ったらどうする」
「聞こえているよ、若造ども。成功報酬率を減らされたいのかな」
「いやあ、うちのマスターったら本当にいい男だよなあ!」
「ああ、マスターを見習って今後も励もう」
「そこまで調子が良いといっそ清々しいな。けどお前たちはこれから強制訓練だからね。早く行きなさい」
若手弓士二人は、先日の冒険者ギルドとの諍いを起こしたペナルティで強制訓練が決まっていた。要因が向こうにあろうと、煽ったのは事実であるし揉め事を起こしたのも事実である。
強制訓練とは文字通り、強制的な訓練であり一定の成果をあげるまでクエストに行くことを禁じられるペナルティだ。クエストに出ることで成功報酬として給料を貰っているギルドメンバーにとっては死活問題で、できる限り素早く終わらせる必要がある。
「うえええ…」
「…」
「頑張ってねえ」
弓士二人を見送って、ではいざギルド会議へ行こうとしたキアラの目の前にレオナルドの手が差し出される。
「何です、その手は」
「エスコートだよね」
冗談じゃない、ギルド会議の会場に着く前に羞恥で死んでしまう。キアラはにこりと笑いながらその手を避けた。
「不必要ですよねえ」
「ええっ、君、私のこと女性もエスコートしない底辺な輩だと思われても良いの」
「ううん、プライベートならまだしも、今から行くのはギルド会議で私は貴方の部下ですよね。そういうのよくないと思います」
「ああ、そういうこと言う」
またしても議論が平行線から帰るのを嫌がっていると、手慣れたアウロラが割って入ってきた。
「ちょっと、こら! 二人とも! さっさと行かないと開始時間になるでしょう! ぐだぐだ言ってないでさっさと行って来て!」
「だってアウロラ、キアラが」
「だってアウロラ! マスターが!」
「だってじゃない! さっさと行く! 今日はキアラが折れなさい!」
まるで母が子に「お姉ちゃんなんだから譲りなさい」とでも言い聞かせるような口ぶりだった。キアラはかなり驚いた。五人兄弟の末っ子だったキアラにそんなことを言う人など今までいなかったのである。
そもそもキアラは兄姉たちと争うようなことはしてこなかった。兄姉たちがキアラに「あれをしてはいけない」「これをしては危ない」と注文をつけることはあっても、キアラが兄姉たちに「ああして欲しい」などと言ったことはなかったからだ。
キアラは早々に自分と兄姉が違う感性を持っていると理解していたので、自身の趣味に付き合わせようとはしなかった。別に気を使ってはいなかったが、諫められる程に何かを請うたこともなかったのだ。
「わ、私いっつも折れてる!」
そうだ、ことレオナルドに関することは常にキアラが折れている。今日はとか、そういう次元ではない。しかしアウロラは腕を組んでキアラに言いつけた。
「マスター権限!」
「そうだよね」
「! あっ、そ! そういうこと言っちゃ駄目なんですよ!」
「はいはい、マスター権限、マスター権限」
「あああああ…! アウロラの裏切者ー!」
「あたしはいつでも規則と規定の味方よ、時間通りに行きなさい」
「越権行為ですー!」
レオナルドは笑いながらキアラの手を取って歩き出した。キアラとて今は平民として生きているが、生まれは侯爵家であるのでエスコートなどされ慣れている。され慣れてはいるが、レオナルドにされるのでは話が違う。
今までだって腕を引っ張られることはままあったが、エスコートとなると接触度が違うのだ。体に染みついた立ち居振る舞いが憎い。キアラは口を食いしばりながら歩いた。
ちなみにアウロラはただ時間通りに会議に出てくれさえすればよかったので、別段にどちらかの味方をした覚えはない。これはいつものことである。
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