9・ギルド会議で
ギルド会議は議論もそこそこに、冒険者ギルドのギルドマスター解任を決めた。事前にほぼほぼ決まっていた内容であり、冒険者ギルドのギルドマスターさえ特に反論する様子はなかった。
自慢の筋肉がしぼんで見えるくらいにしょぼくれている様は若干の憐れみを呼んだが、だからといって決定が翻ることはない。キアラはレオナルドの後ろに控えながら、何の為に来させられたのだろうかとぼんやりそれを眺めた。
「では、ここに冒険者ギルドのマスター権限の剥奪を採決する」
「各々方、異議ある場合は挙手願う。挙手なき場合は異議なしとする」
挙手する者は誰もおらず、議会は静まり返った。
「全員異議なし、マスター権限は剝奪とする」
「おい、デイヴィス! 次期冒険者ギルドマスターは誰か候補はいるのか」
「それなんだが、その…」
散々に冒険者ギルドメンバーの暴挙の証拠を付きつけられ、項垂れていた前冒険者ギルドマスターは体格に見合わない小さな声でぼそぼそと話した。キアラは以前の彼を何度か見たことがあったが、本来は自信に満ちあふれた態度も声も大きな人物である。
「うちに今いるメンバーでは、俺の思想と似た奴らばっかりで」
「でしょうね。アンタに付いていけないって言ってうちに流れて来た子、多いもの」
「右に同じく」
「けどや、まあた同じことを起こされたら困るんでっせ」
「商人ギルドとしても、冒険者ギルドがマスター不在で機能不全になられたら困る。今までだってデイヴィスがマスターになってから、こちらからの発注クエストをよく失敗されてたんだぞ。道具を買って行ったかと思えば滅茶苦茶に壊した後に不良品だと因縁をつけるわ、アイテムは満足に取って来ないわ、挙句うちの商売エリアで勝手に訳の分からん肉を売るわ!」
「まあまあ、今更ですから。で、だからどうするつもりなんだ」
「そのう…」
前冒険者ギルドマスターはぱんぱんに育てた筋肉をできる限り小さくさせながら、何故かレオナルドの方に視線をやった。
「うっわ、まだうちに何か? さすがにもう嫌だよ」
「まあ、今回は狩猟ギルドにばかり面倒をかけましたからなあ。これ以上は止めたった方がええんとちゃいます」
「その心は」
「これ以上は何を対価に要求されるか分からんから、わても嫌じゃ」
「同意する」
「話進まないから、とりあえず何を言おうとしたのか言ってみなさいよ」
「あのう…」
前冒険者ギルドマスターはもじもじと指を絡ませながら、もう一度口を開いた。
「キアラ・ロート殿なら相応しいのではないかって」
「冒険者ギルドはもう解体しよう。もう必要ないよ」
「落ち着いて」
レオナルドは冷静な声で話したが、決して冷静ではなかった。キアラはこれどうするのだろうと他人事のように感じつつ、しかしその表情も良いと頷いた。何故か名前が出されたが、特に思うこともなかった。答えの決まったことである。
「何でそうなった」
「その…」
「ああもう! もじもじすんじゃないわよ! あのも、そのも、もう聞き飽きたの! 早く喋る!」
剣士ギルドのギルドマスターが机を拳で叩きながら怒鳴ると、前冒険者ギルドマスターが泣きそうになりながら叫んだ。やっと彼本来の声量が戻る。
「すまん! 何度かクエストで一緒になったメンバーたちが、キアラ・ロート殿の働きぶりなら何とかしてくれるのではないかと!」
「お断りします」
「拒否が早い!」
「アンタもちょっとは考えなさいよ」
「考えるまでもないので、お断りします」
「あ、キアラちゃん。うちに来てもらってもええんやで!」
「あり得ないです」
「ひどい…」
考える必要のないことを考えている時間があるのなら、ギルドに戻って弓を引いていたい。狩猟ギルドには弓士の為の的場もあれば、剣士の為の道場もある。
その他、所属するギルドメンバーの多様なジョブに対応した練習場があり、ギルドメンバーであれば自由に使えるようになっていた。そういえば、強制訓練を科された若手弓士の二人はどうしているだろうか。キアラの思考はもう既にここにはなかった。
「冒険者ギルドを解体したとしてさ、四方の守りが三方になる訳だが」
「レオナルドが既に解体ありきで話を進めようとしているぞ」
「ああもう! 今回はこれにて閉会! そもそもギルドに所属していない人間をマスターに推すのも道理が通らん! デイヴィスはもう一度ギルドで新しいマスターの選出をして来い!」
今回の議会長を務めた商人ギルドのギルドマスターがそう怒鳴ると、レオナルドはキアラの腕を掴んでいの一番に会場を出て行った。
「…デイヴィス!」
「ううう…。仕方がないじゃないか、昨日の今日で良い案なんて出せないんだ…!」
「知能派と技巧派を追い出したりするからでしょ!」
「追い出したかった訳じゃない! だが、止められなくて…」
「今更、駄目やったやり方の言い訳したって意味なんてないやろう。わては手え貸さへんし、狩猟ギルドに更に何かさせんのは反対や」
弓士ギルドのギルドマスターが、冷めた目で前冒険者ギルドマスターを見た。この二人はギルドマスターになる前から、あまり仲が良くなかった。技術こそ最も重要だという考えと、純粋な力のみで戦うべきだという考えを持つ両極端な二人のそりが合うはずがなかった。
いつも反発し合っていた二人であるが、今回ばかりは前冒険者ギルドマスターは何も言えない。主に狩猟ギルドから提出された論拠や証拠は、ギルドメンバーの潔白を盲目に信じていた前冒険者ギルドマスターに大きな衝撃を与えた。
健全な肉体には健全な魂が宿ると信じ、一緒に肉体を鍛えてきた仲間たちの横暴な振る舞いは、彼が不都合なことから目を背け続けた結果であるに違いがなかった。
「うぐう…」
「こちらのギルドに流れてきた者たちに声をかけておこう。彼らが戻ると言うかは分からんが」
「ほ、本当か!?」
「お人好しやわあ…」
「はあ、こっちでも声をかけておくわ。あれ、本気で冒険者ギルド解体するつもりでしょ。今まで四方で首都守っていたのが、三方になるとか冗談じゃないわ」
「はっ、意外とできるかもしれんぞ」
「そ、そんなことを言わんでくれ…」
「お前が我々の苦言に耳を傾けないからこうなったんだ。存分に反省して存分に困れ」
「皆、本当にすまん」
前冒険者ギルドマスターは深々と頭を下げた。思い込みの激しい奴ではあるが、基本的には素直な奴だ。盲目さを取り払ってしまえば、間違いを認めて謝罪するくらいは苦ではなかった。
これがもう少し早ければ、と残ったギルドマスターたちは渋い顔をしたが、もうどうしようもないことだった。冒険者ギルドは“レオナルド”を怒らせたのだ。
「お前はまず狩猟ギルドに頭を下げろ」
「解体は脅しじゃなくて本気よ」
「ああ、だが次期ギルドマスターが決まってからの方がいいだろう。まさかキアラ・ロートの名を出すなんて」
「うちだって欲しいのに!」
「せや! うちらんとこなんて、ずうっと声かけとんのに! 弓士やったらうちやろう! 【鷹の目】欲しい!」
「黙れややこしい。ともかく、レオナルドの地雷を踏みぬいたんだ。呪われる覚悟ぐらいはしておけよ」
「ふぐっ、承知した…!」
前冒険者ギルドマスターは下唇を噛みながら、ぶるりとその巨体を震わせた。
読んで頂きありがとうございました!




