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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第九章:強者蠢く乱世
97/230

96話

(コーカサスの野郎に武将信長……なんて状況だ!)


英は自身が置かれているこの圧倒的不利な状況に息を吞む。この隔離された匣の中、逃げ場も無い場所で2人の強敵と戦わなければならない。

1人はコーカサス、山をも崩しありとあらゆる物をその大剣で斬り裂く。その切れ味の前ではグラントシロカブトの鎧もただの鎧当然であり、奴の攻撃を防ぐ手立ては無かった。


そしてもう1人――いや1匹は終張国を統べる三大名である信長、英と対峙するのはこれが初めてだが甲虫武者の虫の知らせが今までの鎧蟲や武将とは比べ物にならない程の強さを秘めていることを察知していた。

両者とも侮れない相手であり、まさに前門の虎後門の狼の状態に陥っている。


「あの象武者と戦ってみたかったがまぁいい、そこの白武者は勝家を倒した武者の1匹。少しは楽しめるだろう……!」


(ッ――銃!?)


そう言って信長が右手を翳すとその背後に突如として火縄銃が浮かび上がった。ただならぬ気配を帯びながら銃口を向け狙いを定めてくる。

それが幾つも出現し、誰も引き金に手をかけていない鉄砲隊が形成された。まるで光背のように円を描き、信長の表情がニヤリとしたものとなる。


銃が出てくるならば予想される攻撃はただ1つ、遠距離からの銃弾を警戒すべく虫の知らせを警戒心と張り巡らせた。飛び攻撃の敵は弓兵の蜂相手に経験済み、勿論それとは圧倒的な差はあるが少なくともそれが活かせる場だろう。


しかし英の虫が察知したのは信長の銃弾ではなく、別方向からの殺気であった。


「――ハァアアアッ!!!!」


そしてそれと共に飛んでくる強い閃光、視界の殆どを覆いつくし目がくらむ暇も無くこちらに迫ってくる。

虫の知らせを最大限に広げていた英はギリギリのところでそれを回避、屈むことで頭上を通過させる。逆に信長は飛び越えた。


「ぐッ――コーカサス……!!」


その閃光――斬撃は巨大な湾曲を描き2人に躱されながらも壁に命中、この空間の全体を振動させ今の一撃がどれ程凄まじかったのかを証明する。天井から岩が降り注ぎ、剣撃がめり込んだ壁はガラガラと崩れていく。

英と信長の戦いに割り込んできたコーカサス、不意打ちをかましたその表情はニヤリと限界まで口角を曲げていた。そして今度は縦に剣を振りかぶる。


「ハッハァ!見通しが良くてぶった切り甲斐があるぜ!」


そうして再び襲い掛かるコーカサスの「崩山」、今度は縦に描かれたその斬撃は地面を抉るように斬り裂き、その岩の破片を辺りに落としていく。静かさった洞窟は崩壊音が立て続けに鳴り響き岩々が転がるという散らかった空間に変貌した。

有り余るパワー、目を疑う程の切れ味。もしこれが街中で繰り出されていたら出るであろう想像もできない被害にゾッとする。


(こいつが一番厄介だな……来る!)


荒れ狂う洞窟の中をコーカサスは横断、一直線に英の下へ跳びかかりその大剣を振りかぶる。迫りくる巨体と威圧感に対し英は身構えて真っ向からそれとぶつかり合おうとした。

しかしその瞬間、今度は両者の虫の知らせが一斉に反応する。


(ッ――銃撃!!)


「このッ……鬱陶しい!」


左方向から突如として弾幕が飛び英とコーカサスたちを奇襲、英は咄嗟に視線をそちらに移しその銃弾を弾いていく。コーカサスから目を離すのは少々危険だが、向こうもその大剣の幅を上手く利用し身を守っていた。

突然の銃撃に激突を阻まれる甲虫武者たち、その視線はそれを放った信長へと向けられた。


見れば信長の背後で浮かんでいた火縄銃が一斉に銃口を向けており、発砲後の煙が立ち上っている。しかし果たしてそれが普通の銃と同じ仕組みなのか知る由も無い。しかし今の銃弾があそこから撃たれたのは確かであり、何より信長本人が笑みを浮かべていた。


「俺もいることを忘れないでもらおうか、何ならまとめてかかってきてもいいんだぞ?」


「ハァ!?俺とこいつが!?死んでも御免だ!」


信長の妥当性のある案に対し英は声を荒げてそれを全力で否定する。仲間の仇と共に振る刀は無い、三大名という今まで以上の強敵に対し敵同士と言えど甲虫武者が力を合わせることは確かに良い作戦かもしれないが英自身がそれを許せなかった。そもそもその提案にコーカサスがそれを受けるとも思えない。


最近まで甲虫武者は仲間という認識が強かった英であるが、コーカサスたちの登場により敵対視が強くなり明確な敵意を奴らに向けていた。寧ろ伊音を攫おうとし仲間を殺めた連中とどう連携しようというのか。

そうこうしているうちに次の銃弾がいつの間にか装填され、再びこちらに狙いを定める。


万肢(よろずあしの)砲術――)


(ッ――来る!)


すると後ろの銃たちが動き出し陣形を変え、まるでひな壇のように横三列に並び始めた。その位置でどのような弾幕を繰り出すのか、それを予想し頭の中に思い描くより先に発砲音が鳴り響いた。


「――(はなむけ)の抹香ッ!!」


横に長く伸びた弾幕が一斉に撃ち込まれ、英たちを一網打尽しようと迫ってくる。その為左右に回避しきれず後ろに下がっても躱しきれない、とどのつまり飛び越えるか刀で全て弾くしかなかった。

しかし虫の知らせにより正確な弾道を予測できる甲虫武者、コーカサスはその大きさを誇る剣で前方をガードし英は刀を振り続けていく。


(……何だこれ!?弾が溶けてる!?)


そこで初めて信長の撃ち込んでくる弾が自分の知っている物とはかけ離れていることに気づく。飛んでくるまでには確かに銃弾の形をし虚空を突き進んでいたはずの固形物が、今となっては刀に付着している紫紺色の液体と成り果てていた。

一体この弾は何なのか?そんなことを考えている暇も与えずその横にいた巨影が迫っていくる。


「――白野郎ォ!!」


「ッ……このぉ!!」


真上から振り下ろされるコーカサスの大剣に対し、英は刀を横にしてそれを真っ向から受け止める。その瞬間足元が大きく陥没し、その威力が両腕を痺れさせた。あまりの辛さに柄を手放しそうになるも、今ここでこれを失ったら確実にやられる、咄嗟に全力で手に力を込めた。


その際、刀身にこびり付いていた弾丸の雫が飛び散る。それが頬を目掛けて飛ぶまで、まるで走馬灯のようにスローモーションとなった。


「――ッ!!」


迫りくる紫の水滴、それに対し虫の知らせは身震いする程の悪寒を英の全身に走らせた。飛び散る雫がすぐそこまで到達するまでの僅かな時間、その間に汗がブワッと噴き出しその全身が警告を始める。

英は本能のままに首を傾げて回避、後もう少しで掠ってしまうところで何とか躱すことに成功した。顔の横を通過する水滴、避けきったというのに鼓動は激しくビートを打ち鳴らしていた。


(さっきの銃弾――なんかヤバイ!)


至近距離からの滴りを無理やり避けたため大きく態勢を崩した英だが、両足を拡げることで何とか持ちこたえる。溶けた銃弾の水滴、そして過剰に反応した虫の知らせを通して信長の武器が銃の発砲だけではなく弾そのものも危険であることを理解した。


すると態勢が崩れた英を斬り落とそうとコーカサスが振りかぶったその瞬間、再び信長が謎の銃弾を発砲。今まではそれを刀で弾き落としていた英だったが今度は体を上手く翻し回避だけに専念する。虫の知らせが反応した正体も分からない銃弾をなるべく刀に付着させないためだ。


「……いい加減うざったいんだよムカデがァ!!」


「ッ!」


英との対決を邪魔され続けたのが原因か、コーカサスは突然激昂を始め剣撃の軌道を変更、遠くにいる信長に向かって崩山を振り放つも紙一重の余裕で躱されてしまう。

しかし今ので弾幕の殆どが弾かれ、コーカサスは一直線に信長に向かって走り出した。その大剣を大いに振り回し直接斬りかかる。


しかし大剣の間合いに信長が入るより先に、その後ろで漂う銃の1つに異変が発生する。

風船のように銃身が膨らみ、赤いオーラを帯びながらその銃口は6つに増えた。その姿は今までの鎧蟲が持つ戦国時代のイメージから大きく外れ、英は思わず声を出してしまった。


「機関銃!?」


「――異国一葬ッ!!!」


信長がそう叫ぶと同時に機関銃、所謂ガトリング砲は砲身を回転させ立て続けに銃弾を撃ち込む。無論コーカサスは大剣を盾にしそれを防ぐもさっきまでのとは比べ物にならない連射力とパワーに後ろへ押されていった。


「ぐぅ……うおっ!?」


その筋肉質な両足で踏ん張りを利かせ踏みとどまろうとするコーカサス、しかし信長の銃全てがその1丁と同じように機関銃へ変身。それらによる一斉射撃によって奴は大剣ごと後ろへと吹っ飛ばされた。

本体への直撃は免れたが、あまりの威力に地面は抉れものの数秒で激しい銃撃戦が繰り広げられたような跡地になる。


(あのコーカサスを押している……危険なのは弾だけじゃない!)


まさか火縄銃がガトリング砲に変化するとは思ってもおらず、銃弾そのものすら何か謎があるというのにそれを放つ銃が協力ならいよいよ危ない。英は細心の注意を払う。

対する信長は腕を組んだまま銃を乱射していき、余裕綽々としながらもこちらに近づけんとした厳つい風格を漂わせている。


「俺の異国一葬を浴びてまだ生きているか……どうやらそのデカい鎧は飾りではないらしいな」


「……ハハッ!中々豪快なムカデだ、ぶち殺してやるぜぇ!!」


なぎ倒されたコーカサスであったが、信長の銃撃に対し恐れる様子も無く飛び起き、その巨体を誇って見せる。

たった数分の戦いで辺りは酷く変形し、どれ程激しい攻撃が繰り出されたのかが伺える。コーカサスの崩山、信長の異国一葬、この中で唯一広範囲による攻撃を放っていないのは英だけであった。そのせいか1人だけ置き去りにされているような節すらあった。


(こ、こんな奴ら……本当に倒せるのか……!?)


山をも斬り裂く斬撃、全てを一掃する銃撃、たった数人で巻き起こるこの戦争に、英はご自慢の単純さは打ち消され、ただ一抹の不安を感じていた。

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