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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第七章:盾武者の異心
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67話

 コーカサスオオカブト、それは虫に詳しくない俺でも聞いたことのあるカブトムシだ。師匠のヘラクレスオオカブトの大きさと引けを取らないサイズを持ち、3本の長い角が特徴だった。

そして何より強いのはその()()()、自分の仲間や他種族との抗争は勿論、挙句の果てには交尾相手である雌にも襲い掛かることがある。そして相手を倒すだけには留まらず、その死骸をバラバラにするなどといった面もあるらしい。


そして今この場に現れた男は、その呼び名に相応しい姿をしており凄まじい威圧感をこちらに与えてきた。大きな体に棘だらけの鎧を纏い、その大きな剣を肩に乗せている。

それ以前に、俺の虫が「こいつは危険だ」と警戒の知らせをビンビンにしている。姿形より第六感的なそれが一番効いていた。


「……そうか、ギラファが言っていたのはお前か!まさかコーカサスが来るなんて……!」


面義が知っているということはこの男も「組織」の一員というわけだ。ギラファというのは外にいたあの女の甲虫武者のことだろう、それも聞いたことのある名前だった。


「……お前とはこの間会ったばっかだなオレンジ野郎、その女を攫えばいいんだろ?」


「ッ……伊音ちゃんには手を出させないぞ!」


兎にも角にもこいつが敵であることには変わりない、新手の甲虫武者に対し俺は身構えてそれと対峙した。向こうはそれに対して何も言わずただこちらを見下すだけだった。


「こいつか、白い武者ってのは……俺と遊ぼうぜ……!」


「お前何言って……ッ!」


そんな突拍子も無い一言に戸惑っているとコーカサスがいきなりその大剣で斬りかかってくる。咄嗟に横は転びそれを回避、大きな刃は誰もいない床を切り裂くこととなった。


(なんつー切れ味だ、黒金に全然負けてねぇ!)


しかし恐るべきことにさっきまでいた足場が綺麗に裂かれており、厚いはずのそれはまるで豆腐のように簡単に斬られていた。その断面はバッサリと斬られ真っ直ぐであった。


そこまで速いわけでもなかったので避けることは難しくはない、だがもし自分がそこにいたら一刀両断されていたのは間違いない。そんな自分の姿を想像してゾッとした。


「止めろ……!奴と戦うな雄白……!」


これなら黒金がこうも簡単に吹っ飛ばされるのも納得がいく。こいつのこの体の傷はこのコーカサスの一太刀によるものだろう、しかし黒金もまた溜め食いはしていたのかその傷はどんどん治っていくのが分かる。


「黒金……動けるか?お前は面義を止めてくれ!」


「よ、止せ……!」


面義の相手は黒金に任せ俺はコーカサスに向かって走り出す。どんな切れ味でも俺のグラントシロカブトなら受け切れるはず!その後にカウンターとしてぶった切ってやる!


「うおおおおおおおおッ!!!」


こちらが特攻してくるのを見てコーカサスは両手で大剣を振りかぶる。バットのように振るってこちらを切り裂くつもりなのだろう、両手の籠手で受け止めてやる!


「——フンッ!」


「——!?」


しかしそう息巻いて迫り来る刃に対し突っ込もうとするも、その直前で今まで以上に虫の知らせが反応する。前方から来る攻撃に対し最大限の恐怖を感じ俺は無意識のうちに後ろへ引いてしまう。


コーカサスの剣撃は虚空に当たり外れたかのように思われた。そんな甘い見通しは、両腕の痛みによって否定される。


(お、俺の籠手が斬られた!?)


圧倒的な硬さを誇る俺の鎧、その籠手がこうも簡単に斬られ腕の肉までも傷つけられる。その傷口から血が溢れるように溢れ、白い鎧が汚れていった。


その驚きの方が大きすぎて痛みなど忘れてしまう、黒金や勝家ですら簡単に斬ることのできなかったグラントシロカブトがアッサリと打ち破られる。その事実が受け止めきれないのだ。


「……なんだ?お前の鎧結構硬いな……」


コーカサスもそうは言うが煽りにしか聞こえない。もしあの時俺が虫の警告を無視して走り続けていたのなら、俺の両手は今頃派手に打ち上げられていたはずだ。敵を侮っていたと言えば俺の落ち度として簡単に解決するが、それにしたって強すぎる切れ味だ!


「これなら……長く楽しめそうだ!」


「くッ……!」


そしてコーカサスが目の色を変えて俺に襲いかかってくる。両腕を斬られたため思うように刀が扱えない、かといって防ぎようもない。今この場にあいつの一太刀を受け止められる物は存在していなかった。いや、そもそも()()()()()()()()()


兎に角俺は逃げることしかできず、必死になって次の一撃を予測する。壁や床、大きな機械類でさえその大剣にバッサバッサと捌かれていった。


「さっきまでの勢いはどうした!?また俺に突っ込んでこい!じゃないと楽しめないだろうが!」


ひたすら逃げるしかない俺に怒りを覚えコーカサスは怒号を上げる。しかしそれは勝家のような決闘の侮辱に対しではなかった。

俺は悟った、この男は()()()()()()()()()だけということに。


(こいつ……イかれてやがる!)


勿論俺だってこのまま逃げても何も変わらないのは分かっている。だが斬られた腕はまだ治ってないので思うように反撃もできない。

あんな大剣を振り回しているので隙が多いのは当然だが、今の俺にはその隙を突く力も無かった。


「オラァッ!!!」


「うぐ……ッ!?」


そうこうしている内に俺は大剣の間合いに追いつかれその背中を斬り付けられてしまう。再生したばかりの翅は何とか直撃を免れたが、それでも大きな傷を負ってしまう。

——絶体絶命だ、一体どうすれば……!?






一方その頃、面義と伊音は遠くからその戦いを傍観していた。髭による彼女の拘束は以前解かれず、いざとなれば面義はこの場をコーカサスに任せ伊音ちゃんのを連れてどこかに逃げることも可能だった。

しかし何故かそうしない、彼の目はボロボロにやられていく雄白英という男に奪われている。


(なんで……なんで俺は動かない、さっさと飛んで逃げろ!そうすれば1億は手に入るんだ!)


頭の中で何度も自問自答を繰り返し、それでも一向に動かない自分の体に苛立ちを覚える。それは頭と肉体が矛盾しやるせない疑問で、どうして自分が動かないのかその理由すらも分からないのだ。


「……面義さん、英さんを助けてください!」


そんな中捕らわれの身である伊音の一声が面義をハッとさせる。それはつまり仲間であるコーカサスを邪魔してくれということ、さっきまで自分の体を捧げる気でだった時とは正反対になっていた。


「お前、さっきは売ってもいいって言ってた癖に……今頃怖気ついたのかよ?」


「……いえ、私はどうなっても構いません。だけど英さんだけは助けてあげてください!このままだと殺されちゃいます!」


「馬鹿言え、そんなことすれば裏切り扱いになって貰える金も貰えなくなっちまう……あいつには悪いが、コーカサスには絶対に勝てない……!」


しかしコーカサスの強さだけはハッキリと理解しており、どう挑んでも敵う相手ではないことも分かっていた。だからこそあの男に喧嘩を売るのは自殺行為、好戦的な性格故すぐに標的になるだろう。


「……面義さんが()()()()()()()()って何ですか?」


「何……?」


「全部お金を稼ぐためって言ってますけど、貴方がやりたいことはそんなことなんですか!?お金の為なら……このまま英さんを見殺しにできますか?」


伊音の一言一言が面義の本心に突き刺さる。ハッキリ言ってこの場に動けない理由は英をこのまま見捨てても良いのかという罪悪感によるものだった。しかし「何を今更」という考えがそれにブレーキを掛け必死に否定しようとしている。

面義自身もそれには薄々気づいていた。だけどもう後戻りはできない、自分がこの誘拐作戦を実行した際の覚悟に囚われているのだ。


本当にやりたいこと、伊音を売って大金を稼ぎ自分の命を救う。そんなものは希望でもなんでもない、ただ命が助かってその先で何をするのかまだ正確には決まっていない。言わばこの誘拐は「()()()()()()」ではなく「()()()()()()()()()()()()」と面義は考えていたのだ。


しかし伊音の言葉がそれを溶かしていく。勿論人というのはなるべく生き続けなければならない、だけどその為に自分にとって大切な何かを捨てることは果たして正しいと言えるのだろうか?


「面義さんは……英さんのことをどう思っていました?黒金さんやお父さん……皆が貴方の事を裏切ると思いますか?」


「――ッ!」


そしてたった今理解した。本当に自分が欲しがってたのは手術に必要な大金や鎧蟲の死骸でもない、自分の心を寄せられる存在であったことを――そして、カフェ・センゴクの面々がそれに当てはまっていたことを。


衝撃を受ける面義、そんな彼にボロボロの黒金が立ちはだかった。


「伊音ちゃんを放せ……橙陽面義!」


「黒金さん……!」


コーカサスから受けた傷はまだ治りきっていない、それでも伊音を助け出そうと立ち上がり、二刀の黒刀を彼に向かって突きつける。

面義はそれに目線を合わせようとはしなかった。しかしその代わり、盾から伸びる髭を縮め彼女を解放する。


「えっ……?」


「何の真似だ!?」


まさか黒金もその言う通りにするとは予想外で思わず正直に聞き返してしまう。急いで伊音を抱き寄せてその安全を確保する。

面義は黒金にどう答えるのか?鼻で笑い、優しく破顔する。


「……今まで金ばかり追っかけていたが、今になって何が大切かが分かった。その子を連れて逃げろ社長さん、例え俺とアンタが加わってもコーカサスには勝てない」


「……お前はどうするつもりだ?」


「俺は英の奴を逃す……それが俺にできるせめてもの罪滅ぼしだ!」


「面義さん……!?」


面義は伊音の制止を払いそのままコーカサスと英の元まで走り出す。もう悩みなど無い、今の彼は真にやりたいことを見つけたのだ。


その頃英は、コーカサスの一太刀を浴びる一歩手前であった。その大剣がその白武者に振り下ろされるその瞬間、横から伸びる髭によって縛られた。


「つ、面義!?」


「今だ!逃げろ英ッ!」


その毛の拘束はすぐに斬られてしまうか、それでも英が避難するぐらいの時間が稼げ無事助け出すことに成功する。

ここで白い武者と盾の武者が並び共にコーカサスと対峙した。突如として敵味方の関係を逆転させた面義に英もコーカサスも目を丸くする。


「面義……お前!」


「……悪かった、やっぱどうかしてたぜ。あんか可憐で可愛い女の子を犠牲に金儲けするなんてな」


そして面義がその表情を見せると英もまたそれに歓喜し同じように笑みを見せる。ようやく説得が通じた、また彼と仲間として一緒に戦えることが嬉しくて堪らないのだ。

一方コーカサスはただ解せない表情をしているだけで何も言ってこない。しばらくしてその疑問を口にした。


「オレンジ野郎……何で俺を攻撃した?あの女を攫うんじゃなかったのか?」


「まだ分からないのかデカブツ、俺はお前らを裏切ったんだよ!」


そう言って面義は堂々とその裏切りを語る。英たちの時と違うのは、面義自身この逆心には誇りが持て、意気揚々と立ち向かうことができることだった。

対するコーカサスは別にその言葉の意味が理解できないわけでもないのに、長い沈黙を続ける。そして何か分かったようなハッとし、大きく見開いて2人を見つめる。


「……つまり、お前とも殺り合えるってわけか……!」


「――ッ!」


そして次に口角を曲げて歯を晒し、歪な笑顔を見せつけてきた。面義とも戦えることに胸を躍らせ思わず笑ってしまう、そんな狂気の一面に英と面義は鳥肌を立たせ背筋がゾッとする。

ここで面義はこの男には絶対に勝てないことを再認識し、恐怖に心が呑まれそうになる。それでも今の気持ちには嘘をつかず英に耳打ちをする。


「英、こいつに勝つのは無理だ。ここは俺が食い止めるからお前は伊音ちゃんを守れ」


「そんなことできるわけ……そうだ、伊音ちゃんは!?」


「今黒金が彼女を逃がしている!」


そう言われて英は、彼女を抱え穴から飛び去ろうとする黒金の姿を確認する。もう飛べるくらいには回復しており、あれなら無事に逃がすことができるだろうと安堵する。

しかしその瞬間、新たな人影がその行く手を阻んだ。


「ッ――ギラファ!」


「その子は逃がさないわよ、大人しく渡してもらいましょうか!」


さっきまで黒金と戦っていたギラファが同じくその穴から廃工場に侵入し、黒金から伊音ちゃんを奪い取ろうと襲ってくる。彼女の体を支えている状態では戦うこともできず、そのままギラファの攻撃を大人しく受けるしかない黒金、誰もが終わりだと思った。


するとその直前、突如として今度はギラファが弾かれ邪魔される。それによりギラファは黒金から離れていき彼を妨害するものはいなくなる。

見れば、神童鴻大がそこに立っていた。


「師匠!」


「今だ黒金!」


「はい!」


鴻大が作ってくれた隙に黒金は伊音を抱えて外に飛び去っていく。これで彼女を逃がすという最優先のことには成功し、後はコーカサスとギラファを倒す任務だけが残る。

鴻大はそのままコーカサスたちに対峙するように英の横に並ぶ。すると自分側に誘拐の主犯である面義もいることに静かに驚愕した。


「面義、お前……」


「すいませんでした!娘さんを攫ってこんな危険な目に遭わせてしまい……」


面義はまず誘拐対象の父親である鴻大に謝罪、勿論そんなに簡単に許されるとは思っておらずこの場で粛清があったとしても甘んじてそれを受ける覚悟だった。

しかし鴻大は下げられたその頭にポンと手を置くだけで終わり、それ以上は何もしてこない。


「……その話は後だ、兎に角改心してくれたんだろ?だったら俺たちと戦ってくれ!」


「……はい!」


そうして鴻大、英、面義という3人の甲虫武者が揃い敵の2人と対峙する。この廃工場での戦い、それもそろそろ終わりへと近づくのであった。

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