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蠱毒の戦乱  作者: ZUNEZUNE
第七章:盾武者の異心
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66話

「はぁあッ!!」


「ヅゥ――!」


俺の一太刀を面義が盾で防ぐ。すると鈍い音が耳鳴りのように鳴り響き廃工場の鉄屑に反響していく。

俺はそのまま自分の刀で盾をなぞり面義の右側に回り込む。そして一歩強く踏み出して2本目の刃を叩きこんだ。


しかしそれも受け止められてしまう。今度はその片手で握る刀によって唾競り合いの形になり、刀を挟んで両者の睨みが交差した。


「お前を倒してでも、伊音ちゃんを助ける!」


「ハッ!最初っからそれしか方法がないのさ、俺を説得しようなんて――甘っちょろい!」


「ぐッ――!」


すると面義は俺の刀を弾き代わりに盾を前に突き出す。そしてその表面から衝撃波を発し俺を吹き飛ばしてきた。

何度か味わったことのある面義の衝撃波、まるで巨大なトラックが思い切りぶつかってきたようなそれは、以前のものより格段に威力が増している。


しかし強くなったのはこいつだけじゃない、両手を前に出して真正面から受け踏ん張りを利かす。自慢の防御力で耐え抜いたが、それでも鉄柵の際にまで追い込まれてしまう。


「テリャアァ!!」


「かあッ!」


痺れる腕を振っていると面義がこちらに跳んで斬りかかってくる。上方向から襲ってくる攻撃に対し俺は刀を横にしてガード、その後懐に滑り込ませるように獲物を振るうもまたもや盾に防がれた。


「もう1発食らいなぁ!」


「――づぅあッ!?」


そしてカウンターとしてもう一度衝撃波を生み鉄柵を超えさせ俺を宙に吹き飛ばしてくる。このままでは一番下の階まで落下する――その前に翅を広げて空中に身を置いた。


(盾で防がれたら衝撃波で打ち返してくる……正面からだと鼬ごっこだ!)


メンガタクワガタの衝撃波攻撃は地味に強烈だ。盾から発生させるそれは完全防御中でも可能で攻守ともに隙が無い。普通の斬り合いだと防がれる度に吹き飛ばされるだろう。


そう言って俺はゆっくりと降下し一本橋の鉄骨に降り立つ。すると面義もさっきまでいた場所から飛び降り俺と同じステージに足を置いた。

これで伊音ちゃんから離すことには成功した、これで思う存分戦える!


「今度は俺から行かせてもらうぞ!」


すると面義は足場の悪い場所でも臆さず走り出し盾を構えながら刀を構える。まるで劇、鉄骨の橋の上で一歩も引けない斬り合いが始まった。

甲虫武者には翅があるためいざ落ちても大丈夫ではあるが、このようなごちゃごちゃとした場面で飛ぶのには慣れていないので止めた方が良いだろう。


「メンガタクワガタ――翁呪樹ッ!!」


「うわッ!?」


そうしたら面義は盾から無限に伸びる髭を生やし、距離を取ったまま攻撃してくる。迫りくる大量の毛、後ろに引きながら斬り続けるもその勢いが止まることはなかった。


いつしか鉄骨柱にまで追い込まれそこに背中が付き、足が立ち止まった瞬間髭の塊が一斉に取り囲もうと伸びてくる。

仕方ない、ここは飛ぶしかねぇ!


(このまま、伊音ちゃんを助け出す!)


毛に包まれる前に俺は上に飛びそのままさっきまでいた階まで移動しようとする。別に彼女を助けるためにな面義を倒さないといけないということではない、隙を突いて伊音ちゃんを解放してこのまま逃げることも一手だ。


「伊音ちゃ――のわッ!?」


「させるかよッ!」


しかしその階にある鉄柵に手を掴もうとした瞬間、真下にいる面義がここまで髭を伸ばし俺の足を捕える。そしてそのまま下に引きずり下ろされ、さっきまで乗っていた鉄骨に叩きつけられてしまう。


「あッ……がぁ……!」


背中を強く強打した。重い衝撃が走り背中から腹部まで震撼していく。勿論この程度で俺の鎧が破れるわけはないが、それでもその威力が殺せたわけでもなかった。


しかも今ので翅が破け使えない状態となってしまい、飛ぶこともできず俺はそのまま下へと落下していく。地面に墜落し薄汚い床を転がり自分の翅の状態を確認した。


「いって……翅が……!」


「翅が潰れたか!隙を見せたな!」


すると面義が上から急降下し間髪入れず追撃を入れてくる。高所からの剣撃に対し後ろに躱し、迫りくる刀を必死に捌いていく。

さっき翅はあまり使わない方が良いだろうとは言ったが、だからといって使えなくなるのもヤバイ。これじゃあ隙を突いて伊音ちゃんを助けられない!


(彼女がいるのはもっと上の階!流石に足でそこに上がらせてはくれないか!)


「どうした!?俺を倒すんじゃないのか?鰌踊りッ!!」


面義は唸りに唸る剣撃を放つ。まるで泳いでいるような軌道に俺は翻弄され、あっという間に壁際まで追い込まれてしまう。

この通りこちらの事情など関係なく面義は攻撃してくる、一々階段を上る暇がないのだ。


「——般若之牙ッ!!!」


「ッ——ぐおッ!!」


そして盾の顔から上下に牙を展開しそれで俺に噛み付いてくる面義、迫り来る大量の牙に対し両手両足で支えて食い止めた。上から来る牙は握り下からは足裏で受ける、とどのつまり挟まれている形になるわけだ。


「ぬおおおおおおおおッ!!食われる食われる!」


「ッ――ふざけてるのか!」


慌てて齧られないように抵抗していると面義の怒りを買い、そのまま衝撃波で壁に叩きつけられてしまう。何とか食われることは回避したがその代わりに再び強い衝撃に襲われる。


「いつつ……!やったなこの野郎ッ!!あー手ぇ疲れた!」


「お前が勝手にやったんだろうがッ!!」


支えていた両腕を振っていると面義が斬りかかってきたので、急いで右に避けそのまま壁際まで離れる。面義から目を離さないまま逃げているとまたもや何かにぶつかった。

それは上へ繋ぐ梯子、しかもそこには明らかに重いであろう機械類が雑に積み重なっている。


「じゃあ……これならどうだ!?」


良いこと考えた、そんなことを思って俺は飛び超える勢いでそれを上り上の階に身を置く。そして面義が翅で追ってくる前にあいつ目掛けてその錆びれた機械を下に目掛けて突き落とした。


「ハァ!?のわッ!」


面義は急いで地面を蹴ってそれを回避、機械が落ちた瞬間鈍い音が反響し廃工場全体が揺れた。勿論それだけには終わらない、休まず他の部品も下に落とし続ける。


埃が舞い砂煙のように散る。機械の中には持つのも辛い重い物や簡単に抱えられる軽い物もあった。固定されてる物もあったが刀で器具を壊して何とか突き落としていく。

ここまで来れば何だか楽しくなってきた。この調子でどんどん落としていこう。


「このッ!真面目にやれ!」


どんどん落下していく機械に対し面義は衝撃波で打ち返そうとするも、流石に自分の体を軽々超えるような物には効かずただ凹ませて落下を遅くしただけに終わる。


(お、時間稼ぎぐらいにしか思ってなかったが結構効いてる!今のうちに……!)


そして俺は最後に一番大きい物を落とし埃が散って視界が悪くなったのを確認し、その隙にと上の階へ移動していく。

途中で階段や梯子が無くなった為猿のように道無き道を上り、最終的に鉄パイプの上に辿り着いた。


「よし……このまま——おっとぉ!?」


そして伊音ちゃんのいる場所へ一気に駆け上ろうとした瞬間、突如細い足場揺れ始め危うく落ち掛ける。見れば下から面義が髭を伸ばしそれをパイプに巻きつけていた。


「——落ちろ英ァ!!」


「馬鹿やめろ!危な——!」


その注意が全て言い終わる前に髭によって鉄パイプは崩れ落ち、俺も宙に投げ出されてしまう。そのまま落下する前に俺は落ちつパイプを蹴って飛躍し咄嗟に他に飛び移る。


「ふぅ……危なかった」


もう少しで面義のいる1階まで落下するところだった。さっきのパイプとは違う広々とした足場に安心しその上で安堵の一息を吐く。

やはりあの伸びる髭によって面義と俺とでは攻撃範囲に大きな差がある。しかも向こうは翅が使えるためこの立体的な空間である廃工場において機動力で負けるのは辛いだろう。


(俺の翅は……()()()()()()()、だけどそろそろ治る……気がする)


実はここに来る前に結構な量の糖分を補給しており、怪我をしてもいいように時間をかけて治るようにしていた。これは黒金から教えてもらったことで、この廃工場に向かって走っている途中にチョコバーを食いまくった。


見れば翅がゆっくりと再生している、これを何とか面義に悟られないようにして完治させればすぐに伊音ちゃんの所まで飛べるだろう。

するとさっきの鉄パイプが下に落ちた音がする。一体面義はどうなったのか、そうやって身を乗り出して確認しようとした瞬間、風のように面義が飛んできた。


「のわッ!?」


「ちょこまかと動きやがってッ!せいやァ!!」


そして向こうも同じ足場に降り立つと同時に斬りかかる。俺は必死に衝撃波の軌道に入らないよう回り込もうとするも、向こうも後ろに引きながらそれに対策していく。


このまま長期戦に持ち越して翅を治し、そのまま伊音ちゃんを助けに行く。それかその前に黒金と師匠があの女を倒してここに来るか。兎に角面義をこの場に止めておくのが得策だ。


「このッ……わざと時間稼ぎしてるな!本当に俺と戦う気があんのかよ!それとも、仲間だから戦えないってか!?」


「ッ!?――ぐあッ!」


本当は時間稼ぎのつもりだったが、面義はそれを俺が手を抜いていると勘違いし激怒して刀を振り下ろしてくる。それを防ぐもその隙に衝撃波で吹っ飛ばされてしまう。


「言ったはずだぜ、俺はお前らの敵だって!それなのにお前はさっきから致命傷になる攻撃はしていない!」


「ぐッ……!」


しかしそれは的を射てもいた。面義がこちらを仕留めようと攻撃をしてくるのに対し俺は無意識のうちに物を落としたりなど大したことはしていない。それは俺がまだ面義を敵として見れていない証拠であり、俺自身もそれを否定する気は無い。


「……俺だって言ったはずだ、伊音ちゃんは絶対に助ける。だけどお前を殺すつもりもない!」


「やっぱ……お前馬鹿だろ、言ってることが滅茶苦茶だぞ!」


そう言って面義は盾から更に髭を伸ばしてくる。それも視界を一気に埋め尽くし俺をあっという間に包み込もうとしてきた。

しかし俺はそれに真正面から走り出し、迫りくる髭の波に向かって飛び上がる。そして治った翅で一気にそこから飛び去った。


「ッ……既に翅を……!」


(このまま伊音ちゃんを救う!)


「――させるかァ!」


そうして俺たちは空中での追いかけっこを繰り返す。面義の攻撃を躱しつつ上へと向かいようやく彼女が捕らわれている場所まで戻ってこれた。


「英さん!」


「待ってて!今――がぁッ!?」


急いでその拘束を解き助け出そうとするもその前に上からの衝撃波によって床に叩きつけられてしまった。見れば彼女側に面義が飛んでこちらに盾を構えていた。

そして奴はそのまま降り立ち、彼女を縛っている鎖を切断すると同時に髭を伸ばしてそれを拘束具代わりにする。


「きゃっ!」


「悪いが一旦ここは退かせてもらう。このままじゃ黒金やこいつの親父さんが来ちまうからな……一緒に来てもらうぞ!」


「ま、待て……!」


どうやら場所を変えて別の所で取引をするらしい、勿論見す見す逃がすわけにもいかず急いで止めようとするも面義は伊音ちゃんに向かって刀を翳す。その動作を見て俺は思わず足を止めてしまった。


「お前……伊音ちゃんを人質に……!」


「これでもまだ俺を仲間と言えるか?――それ以上近づくとどうなっても知らんぞ!」


面義にとって伊音ちゃんは傷つけてはいけない存在、だからこの場合彼女は人質として成り立たない。だけど俺はそんなことも分からず刃に脅されるその姿を見て動けなくなってしまう。


そして面義はジリジリと俺を警戒しながら後ろへ下がり、そのまま翅でどこかに飛び去ろうとする。何とかしなければ、必死に打開策を考えていると衝撃的な一言が頭の中に入ってきた。


「……()()()()()()、面義さん……どうか()()()()()()()()()


「「なッ……!?」」


なんと攫われている伊音ちゃん自身がこの誘拐行為を容認し、自分を金と引き換えに差し出しても良いと言ってきたのだ。その言葉に俺は勿論加害者である面義も驚愕し、一斉にその顔を見る。彼女は俯いてその表情を見せなかった。


「私を売れば……治療費が手に入るんですよね?だったら構いません……」


「伊音ちゃん!何を言って――!」


「だって!そうでもしないと面義さんが死んじゃうじゃないですか!」


急いで馬鹿な考えを止めさせようと説得の言葉をかけるも、彼女の目から零れ落ちる雫の輝きに呆気を取られ喉の奥で声が詰まってしまう。

伊音ちゃんは泣いていた。それは面義の境遇に同情したからか?それとも自分の実を犠牲にしてまでも助けようとする覚悟から来るものなのか?どっちにしろ嘘をついているようには見えない。


「私なんかの体で……面義さんの命が救えるなら、お父さんたちが戦わずに済むなら……どうなっても構いません!」


「――ッ!」


――前者だ。伊音ちゃんは本気で自分を攫った相手を心配している。それも面義だけじゃなく俺とこいつが戦うことも嫌いその身を捧げようとしていた。

この子が優しい子だとは分かっていた。そしてその為なら危険を顧みない勇敢な子であることも知っている。だからといってどんな目に遭うかも分からないのにそんな自己犠牲ができるのだろうか?


流石の面義もそれは予想外の展開なのか、涙を零していく彼女の姿に戸惑っている。それで縛る髭が緩むことはなかったが、それでもその心境に揺るぎとして影響を及ぼしたことを俺は見逃さなかった。

――チャンスだ!今こそ説得する瞬間だ!


「――面義ッ!お前はその子の涙を見て何とも思わないのかよ!その涙は……お前が裏切ったから流したようなものだぞ!」


少なくとも今の面義は伊音ちゃんの涙を見て罪悪感を抱き始めたのは確実。そこを突いて言葉を投げかけ、今自分がしていることが間違っているのに気付かせるしかない。その証拠に俺の言葉を聞いて僅かに反応を示した。


「お前の親族は、金の為にお前を裏切った!今お前がしているのは……それと大差ない、いやもっと酷いことだぞッ!!」


「――ッ!!」


面義が他人を信じないようにするのはその親族が原因、遺産に目がくらみ幼い面義を虐めて騙し根こそぎ全てを奪っていた。正直言って反吐が出る所業だ、だけど誘拐という犯罪行為で1人の女の子を苦しめるそれと比べれば、正直可愛げがあった。


面義も無意識だっただけでその自覚があったのだろう、それを再確認したことで大きく動揺し緊迫した顔つきを崩していく。過呼吸になり顔を抑え、目を大きく見開いていた。


「目を覚ませ面義!お前はそれで……本当に良いのかよ!?」


「俺は……俺は……!」


もう一歩、あと少しで面義の説得が成功する。俺もそれを確信し最後のトドメと言わんばかりに言葉を投げかける。葛藤を繰り返し、戸惑い続ける面義は今にも叫びそうだった。


しかしその瞬間、大きな音が鳴り響いたと思うと俺たちの間を何かが通り過ぎていった。


「なッ――何だ!?」


それが来た方向を見れば分厚い壁がぶち抜かれ、外の真っ暗な空が見える。この穴を開けた犯人がこの廃工場内に入り込み吹っ飛んで来たのだ。急いでそれとは逆方向を見る。見れば、反対側の壁に誰かがめり込んでいた。

――黒金だ。大きな傷を負っている。


「黒金!?どうしたんだよ一体!?」


「お、雄白……気を付けろ、()()()がいるぞ……!」


化け物、その単語を耳にした瞬間後ろの穴から他の誰かが入ってきた。その気配を感じ取った俺は振り向き、その姿を確認する。それはパラパラと崩れかけている壁の断面に足を置き、こちらを見渡していた。


「……2匹か、どうやらまだ楽しめそうだ」


そんな野太い声と共にその全体像が夜空をバックに映る。黒金が吹っ飛んできた穴、それは小さいものではなかったがソイツはそれを殆ど塞ぐほどの巨体とガタイを持っていた。

そしてオオクワガタと同じような黒い鎧、兜には3つに伸びる角がある。その手には今までに見たことも無いほどのサイズを誇る大剣が握られており、全体でその大きさを訴えかけている。


――新たな甲虫武者、果たしてその顔はどんなものか?その肉体に似合った強面で大きな眼とは対照的にその瞳孔は点のように小さく、こちらを見てにんまりと笑っているなど狂気を現していた。

一体こいつは何者なのか?多分この男が黒金をここに吹っ飛ばしたのだろう、つまり敵であるということだ。


「お前は……()()()()()!」


「コー……カサス?」


その聞き覚えのある呼び名に、俺も面義も冷や汗を掻いて参上したそのコーカサスという男を見た。

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