北へ……
チイ村を救った駆け出しの勇者、ジェット。
その人は、村の宿屋で一晩を明かした。
そして、朝……
「……」
ジェットは、朝日を浴びて深呼吸をする。
空は快晴で、いい冒険日和だ。
「……よし。」
そしてジェットは、村を出た。
次の、目的地へと向かったのだった……
次の目的地は、リース街という街だ。
そこでまた情報収集ついでに、また周囲の魔物をブチのめして……って感じになると思う。
要は、チイ村とやる事は変わらないかも知れない。という訳だ。
「えーっと……」
ジェットは、村長の話を纏めたメモを取り出した。
そして、それに目を通す……
「……」
リース街に行くには、まず北上する必要がある。
北へ向かい、平原を抜ける。
その平原を抜けた先に、ウーツ荒野があるのだ。
そのウーツ荒野の何処かに、リース街はあるという。
……しかし、世界侵食の影響で、ウーツ荒野には魔物が蔓延っている。
現地の追い剥ぎやら盗賊やらが、そいつらと戦っていてるとの噂だ。
彼らのお陰で、リース街は安全との事だ。
ならず者達も、魔物相手なら遠慮なく殺れるから、活き活きしている事だろう。
「……」
ジェットは、ふと前を向いた。
見ると、フードを被った旅人らしき人が歩いていた。
「……」
「……」
通りすがりの旅人か、とジェットはその人とすれ違う。
「……!!」
ジェットは剣に手を伸ばし、抜剣する。
そして、振り返った。
「このっ!!」
さっきの旅人が、いきなり斧で切りかかってきていた。
ガキンッと一撃を受け止め、ガードする
そして上手くいなして、受け流した。
「不意打ちとは、卑怯だな……」
「シャアァ……!!」
ジェットの周囲を、ゾロゾロとゴブリン達が囲む。
「やるじゃない。」
旅人は斧を捨てて、フードを外す。
サキュバスだった。
「……アデリア組の生き残りか?」
「ヤクザみたいな言い回しね……残念だけど、今は違うわ。」
「なに?」
「アデリア様亡き今、私達はセレスト様の配下よ。」
「セレスト……?」
「そう……この先のウーツ荒野で人間の盗賊達を駆逐している、大盗賊よ。」
「……」
今は魔物盗賊VS人間盗賊が、繰り広げられてるのか。
なるほど、巻き込まれたら少々厄介だな。
「それで、俺に何の用?だいたい、予想はつくけど。」
「うふふ……君を早く捕えないと、ハルピュイア様が怒り心頭でね……」
「……そういう事かい。」
ジェットは剣をしまって、指を鳴らす。
ゴキゴキと首を鳴らして、構えた。
「剣無しでやってやる。かかってこいや。」
「ハッ!変人とは聞いてたけど、ただの馬鹿だったみたいね!やってしまいなさい!」
「ガァアッ!!」
「シャアァ!!」
ゴブリン達が、かかってくる。
それよりも早くジェットは正面のゴブリンの頭を掴んで、膝蹴りした。
「よっ!」
そのゴブリンをヘッドロックして、思いっきりぶん回して、周囲のゴブリンを薙ぎ払った。
「ギャッ!」
「グァッ!!」
「おらぁあっ!!」
ジェットのヘッドロックが、すっぽ抜ける。
ゴブリンは回転して、地面に倒れた。
「……」
その首は異常な力で拗られてて、完全に首の骨を破壊していた……
「よし、次!」
「ギァアッ!!」
ゴブリンが、斧で切りかかってきた。
「あらよっと!」
ジェットは後ろ回し蹴りを放つ。
しかし蹴るのではなく、膝の裏でゴブリンの手を挟み込んだ。
「ギ……!!?」
「もらいっ!」
こちらに足を寄せ、ゴブリンの手から斧を奪い取る。
「せぇいっ!!」
そして、その斧でゴブリンの首を切り落とした。
「はぁあっ!!」
刃を上に向け、ジェットは斧をぶん投げる。
「!!!」
ゴブリンの一体の体に、それが刺さった。
「ふんっ!はぁあっ!!」
ジェットはそれを掴み、ゴブリンを切り上げた。
そのゴブリンは上半身が真っ二つになり、そのまんま倒れる。
そして、そのゴブリンの斧を拾う。
「……さぁ。」
ジェットは両手に斧を持った状態で、構えた。
「シャアッ!!」
「ォオオッ!!」
「ハァアッ!!」
ゴブリン三体が、周囲から襲ってくる。
「……」
ジェットは冷静になり、三体を捉えた。
「はぁっ!!」
一体目に抜き胴して、真っ二つにする。
「せぇいっ!!」
二体目の腕を切り落とし、首を切り落とす。
「どりゃあっ!!」
三体目の足を切り、斧の柄で頭を挟み潰す。
そして顔面を蹴り上げ、頭部を粉砕した。
「……っふぅ!」
これで、ゴブリンは片付いた。
ジェットは、サキュバスに目を向ける。
「な……あれだけの数を、一人で……!!?」
「あぁ、聞かされてねぇのか?アデリア組は、俺が一人で潰したんだぜ。」
「ぐっ!!?」
ジェットは斧を捨てて、サキュバスに寄る。
「……くそっ!」
サキュバスはフードを外して、ジェットの目の前に投げた。
「っ!」
それを払い、サキュバスを見る。
「だぁあっ!」
「!」
サキュバスのパンチが、ジェットの頬を打ち抜いた。
「おぐっ……!!」
「はぁあっ!」
回し蹴りが、ジェットの脇腹に飛ぶ。
しかしジェットはスウェイバックでそれを避けて、構える。
「ふっ!」
サキュバスは、すかさずジェットに殴り掛かる。
それよりも早く、ジェットがサキュバスに手を向けた。
「はっ!!」
その手から、サキュバスの顔面に向かって氷塊を飛ばした。
「っぐ!?」
見事に直撃し、サキュバスは倒れる。
しかしすぐさま後転して、立ち上がった。
「く……!」
服を破き、際どい下着姿になる。
「うふふ……」
「なんだ……?」
サキュバスの体が光り、怪光線が飛んできた。
ジェットはそれを頬にかすらせて、避ける。
「……っ!」
ジェットは、目を擦る。
あのサキュバスが、いつもの三割増しでエロく見える……
「……チャームか。」
「その通り……私に魅了されちゃいなさい!」
チャーム……
サキュバスが得意とする魔法で、言わば惚れ魔法だ。
薄い本が厚くなる予感。
サキュバスは、そのチャームを連射した。
「ふっ!ほっ!よっ!」
それを避け続けながら、サキュバスの方を見る。
すると、既にサキュバスは眼前にまで迫っていた。
「もらったわ……!」
ジェットを押し倒し、マウントポジションをとる。
そして、腕を振り上げた時だった。
「!!?」
とてつもない力が発生したと思ったら、サキュバスは宙を舞っていた。
ジェットは、サキュバスを巴投げしたのだ。
「っぐはぁあっ!!」
背中から地面に叩きつけられ、衝撃が全身を駆け巡る。
「せぇいっ!!」
ジェットは容赦なく、サキュバスの顔面を踏んずけた。
「ーーーっ!!!」
サキュバスはビクンビクンと痙攣し、動かなくなった……
「……ふぅ。」
ただ単に、いいトレーニングになっただけだった。
ジェットはぴょんぴょんと跳躍してから、息を吐く。
そして、進んだ……
「……」
奴らが聞いてもない事をベラベラ喋ってくれたから、情報は幾らか聞き出せた。
まず、ウーツ荒野にはセレストという大盗賊……もとい、上級モンスターが居るらしい。
そのセレストが徒党を組んで、人間達を脅かしている。
しかし、あのウーツ荒野は元は盗賊の庭場みたいな所だ。
今では人間盗賊と魔物盗賊がぶつかり合っていると考えるのが妥当だろう。
おそらくだが、事態は拮抗していると思われる。
この世界、人間が魔物より劣ると思ったら大間違いで、人間も修行すりゃそれなりに戦えるのだ。
しかも、盗賊と言ったらスリが主流。
そのスピードは、超高速と言っても過言ではない。
戦闘ともなれば、凄まじいスピードで敵を切り刻むという戦法を好むような奴らだ。
……あの四魔姫とやらが居ない限りは、決定的な敗北はしないはずだ。
「……進もう。」
ジェットは、先へと進んだ……
平原を越え、ウーツ荒野……
剥き出しの大地と、僅かな緑と水が広がる荒野である。
そこら辺には動物も居て、小動物の親子が列を成して歩いていたり、それを狙うように蛇が構えていたり……
この通りの荒野ではあるが、一つだけ忘れてはならないものがある。
「……っ!」
一歩を踏み出す寸前でそれに気付き、足を止める。
砂に隠れて、トラバサミが仕掛けられていた。
そーっと足を引き、トラバサミを見る。
「……」
ハサミの部分に、何か塗りたくられてる。
棒でそれを掬い取り、そこら辺の虫を突っついてみた。
すると、その虫の甲殻がジュウジュウと溶け、内臓が剥き出しになってしまい、虫は絶命してしまった。
「オェッ……」
……人間の盗賊は、略奪はしても命を奪う真似はしない。
間違いない、魔物の仕業だろう。
「……趣味の悪い。」
ジェットは、トラバサミに手を向ける。
その手が光り、トラバサミは完全凍結して、使い物にならなくなった。
「……ちぃいっ!!」
岩陰から、何か出てくる。
それを確認した瞬間、ナイフが飛んできた。
「ふっ!」
それをギリギリで避け、そいつに向かい直す。
筋肉質な体、頭部の角……そして、見るからに盗賊という感じのナリ……
盗賊ゴブリンの、メスといった所か。
「失敗したわ……」
「今時、あんなトラップに引っかかる奴が居ると思ったか。」
盗賊ゴブリンはやる気のようで、ナイフを抜いてジェットに突進した。
ジェットは剣を抜き、盗賊ゴブリンと激突した。
「はぁあっ!」
盗賊ゴブリンは高速移動で動き回り、ヒットアンドアウェイの連続攻撃で立ち回る。
ジェットは、その攻撃をガードし続けた。
「はぁあっ!」
ジェットの剣を蹴り飛ばし、ナイフを立てる。
「やべっ……!!」
「覚悟っ!!」
ナイフの突きが、ジェットに迫る。
ジェットは冷静に腰を落とし、体を捻る。
そのナイフが自分の制空圏に触れた瞬間、跳んだ。
「はぁあっ!!」
「きゃっ!?」
後ろ回し蹴りで、盗賊ゴブリンのナイフを蹴り飛ばした。
盗賊ゴブリンが怯んでるスキに、ジェットは剣を取りに行く。
「よっ!」
剣を取り、盗賊ゴブリンに向いた。
「はぁあっ!!」
既に、目の前に迫っていた。
攻撃はもう放たれており、ジェットの顔に刃が迫る……
次の瞬間、足元からパチンと音がした……
「……ぎゃあぁっ!!?」
刃が、止まった。
「なっ!!?」
ジェットも驚き、足元に目を向ける。
無毒のトラバサミが、盗賊ゴブリンを捉えていた。
魔法起動式のトラバサミが、そこに仕掛けられていたのだ。
「な……!!?」
「離れな、少年……」
不意に、男の声がした。
「あぁっ!?」
ジェットは男の声に従い、バク転でその場を離れる。
「くっ!人間め……!!」
盗賊ゴブリンがトラバサミから足を外そうとする。
「……!!」
辺りの空間が光った。
それと同時に、盗賊ゴブリンが静止する。
「……そん……な……」
次の瞬間、盗賊ゴブリンの全身に斬撃が走って、細切れになった。
バラバラと肉片が落ち、地面には血だまりが出来た……
「ヒエッ……」
「……平気か?」
不意に、横から声がする。
さっきの声の男が、横に立っていたのだ。
「あ、ああ……」
見ると、自分と同年代ぐらいの盗賊が立っていた。
「来い、リース街にまで案内してやる。」
「あ、えぇっ、ちょっ、急だな。」
いきなり現れた盗賊が敵を切り刻んだと思ったら、自分の案内役になってくれるという。
しかし、これはラッキーである。
戦闘も楽になり、更に道案内までしてくれると来た。
「……水分補給、しておけよ。」
「あ、ああ……」
そんな会話をしながら、ジェット達はリース街へと歩を進めた……