荒野の熱戦
ウーツ荒野にて、謎の盗賊と出会ったジェット。
その手助けのお陰で、荒野をサクサクと進めるようになっていた。
「……あの……」
「何だ、少年?」
同年代だろうが。
そう言う前にジェットは唾を飲み、改めて口を開く。
「何で、俺を助けるんだ?」
「簡単……あのいけ好かねぇ魔物盗賊共が気に入らねぇからよ。」
「それだけじゃ、俺を助ける理由にはならねぇ……」
「ッカッカッカッカ!これを見ろ。」
盗賊が手渡したのは、一枚の紙だった。
受け取って、内容を確認する……
「……オイオイ、ウソだろ……」
ジェットの似顔絵が描かれており、その横には『危険因子:勇者ジェット 打ち倒した者は相応の報酬を与える』と書いてある紙だった。
「四魔姫のハルピュイア……どうやらそいつがお前にご立腹したようで、それを発行させて部下共に配ってるらしいぜ。ついでに、ハルピュイアに属する部下はアイツの癇癪に当てられてるらしい……一刻も早く、こいつを見つけてぶっ殺せってな。」
「……」
マジかよ。
何であんな鳥女一人怒らせただけで、めちゃくちゃ命狙われるハメになってたよ。
こんな体験、俺以外した事無いんじゃないかな。
ヤクザかよあいつらは。
まじまじと紙を見続けるジェットに対し、盗賊はクスクス笑っていた。
「俺達は人間の盗賊……俺達の獲物を横取りするような魔物盗賊どもは、目の上のコブだ。そんな魔物盗賊の、お前を打ち倒す一歩手前の歓喜の顔を見た途端、それをぐちゃぐちゃにしたくなってたまらなくなったんだよ。」
「お前……結構エグいなぁ……」
まぁ、ぐちゃぐちゃじゃなくてバラバラになったんだけどな。
「ま、俺が助けなかろうが、あの瞬間には既に勝負は決まってた。おおかた、カウンターの一閃があいつの胴をぶった斬っておしまいってトコだろ。」
「……」
確かに、あの時はそうするつもりだった。
あのトラップさえ発動しなければ、そうなる予定だった。
この盗賊、そんな所まで読んでいたのか……
「……お前、名前は?」
「ああ、俺はサルバ。盗賊の下っ端やってる、餓鬼だ。覚えとけ、少年。」
「だから同年代だろうがって。そして何だ、その上から目線は。」
「カッカッカ!俺はそういうタチでなぁ!カッカッカ!」
「何が面白ぇんだ……」
話していて嫌な奴では無いから、気は合いそうだ。
二人は談笑しながら、荒野を歩き続けた……
「……水筒の水、切れたんだけど。」
「……」
ジェット達は、未だに歩き続けていた。
相当歩いた筈だが、一向にリース街が見えてこない。
サルバはというと、険しい表情をしていた。
「……」
「サルバ、どうした……」
そう聞こうとしたら、不意にエンジン音が響いてきた。
バイクの、喧しいエンジン音がこちらに近付いているのだ。
「固有結界魔法だ……クソッたれ!剣を抜け!」
「お、おう!?」
二人は背中を合わせ、武器を抜いた。
「ヒャハハハハ!!」
バイクに乗ったゴブリン達が走り、ジェット達を囲んだ。
ゴブリン達のその手には、棍棒や斧や鎖がある。
「……魔物の盗賊って、あんな世紀末的なの?」
「あぁ……」
サルバはナイフを舐め、構え直す。
「片端から殺るぞ……」
「ああ……」
二人は踏み込んで、ゴブリン達に突っ込んだ。
「シャハハハっ!!」
ジェットに、ゴブリンが武器を振りながらバイクで走ってくる。
「おらぁあっ!!」
ジェットはおもむろに剣をブン投げ、目の前のゴブリンの頭を刺し貫いた。
「!!」
「はぁあっ!!」
すれ違い際に剣を柄を持ち、頭を真っ二つにする。
血を払い、足に魔力を纏った。
「フローズングラウンド!」
その足で、地面を踏む。
すると、ジェットの周囲の地面が凍りついた。
「ーーーッ!!!」
「ギャァアッ!!?」
バイクが次々にスリップして、クラッシュする。
バイクから放り出されたゴブリン達は立ち上がり、武器を構える。
しかし、次の瞬間には一体の首が飛んでいた。
「速いな……!!」
「俺は風の奔流をその身に宿している……この程度の速度なら、いくらでも出せる!!」
サルバはそう言いながら、高速移動で消える。
次の瞬間、ゴブリンの首筋に斬撃が走り、血が噴き出した。
「ガァア!!」
鎖を持ったゴブリンが、ジェットの足に鎖を投げる。
鎖は、ジェットの足に巻きついた。
「うわ……!!?」
「ヒャッハー!!」
ゴブリンはそのまんまアクセルを全開にして、ジェットを引きずり回した。
「いでででででででで擦れる擦れる擦れる擦れる!!!!」
「む、今助ける!」
サルバは武器を構え、消えた。
凄まじいスピードでバイクに追いついて、鎖を切った。
「っこのぉおっ!!」
ジェットは地面をぶん殴り、魔力を放出する。
すると、氷山のような氷解が、地面からバイクを打ち抜いた。
「アガァアッ!!?」
ゴブリンは上空に吹っ飛ばされ、落ちてくる。
「しゃあぁっ!!」
ジェットの剣が、ゴブリンの首を真っ二つにした。
斬られた頭は、宙を舞う。
「はぁあああっ!!」
サルバはそれを蹴り飛ばし、別のゴブリンに当てた。
「ギャッ!!?ウガァアッ!!」
バイクごとクラッシュして、爆発するゴブリン。
「よしっ!」
「早くこの結界の主を叩くぞ!」
「おう!」
ジェットとサルバは、荒野を駆ける。
「……危ないっ!!」
「っ!!?」
次の瞬間、足元で爆発が巻き起こった。
「あっぶね〜……!!」
「し、死んだかと思った……!!」
間一髪で、サルバが助けてくれたのだ。
爆発する瞬間に、超スピードで回避したらしい。
二人は立ち上がり、服の汚れを払う。
そうしている間にも、あのエンジン音が近づいてきた。
「カカカッ!また来よった!」
「今度は二体か……!!」
二体のバイクゴブリンが、二人に迫ってくる。
「おらぁああっ!!」
ジェットは渾身の力を込めて、バイクごとゴブリンを両断した。
「あらよっと!」
サルバは高速移動で消えて、首を切り落としてから現れた。
「カカ、呆気ないな!」
「何しに現れたんだろうな……」
二人はまた走り、結界の主を探した。
「……ノド乾いたな……」
「おお、じゃあこれを飲むといい。」
サルバは、水筒を投げた。
ジェットは受け取り、見る。
「どっからこいつを?」
「さっきのゴブリンからスッた!」
「……流石はスリ稼業だ。」
ジェットは水筒の水を飲み干し、投げ捨てる。
水のおかげで、気合いは充分だ……
「……む!気を付けよ!ここからは危険だ!」
「……ああ!見りゃ分かる!」
二人は今まで直進していたのを、ジグザグに走った。
それもその筈、ここら辺はトラップゾーンになっており、無数のトラバサミと地雷が仕掛けられているのだ。
「うわぁっと!!?」
踏み込んだ先のトラバサミを、起動した瞬間に何とか凍らせる。
「っち!!」
サルバも巧みにトラップを避け、ジェットに向いた。
「地雷だけは踏むなよ!その瞬間、俺達は木っ端微塵になる!」
「分かってる!」
そう言いながら進んでいると、三体の魔物の影が見えた。
「……ありゃ、メスゴブリン二体とデーモン一体か!」
「デーモンだと!?」
デーモン……
悪魔の一種で、魔法を得意とする悪魔だ。
魔法の技術はサキュバスの上を行き、肉弾戦もめちゃくちゃ強い。
サキュバスみたいないやらしい魔法ではなく、もっと巨大な炎とか雷とか撃つタイプである。
こんな奴の両隣に居るのが、メスゴブリン。
前回チラッと戦っており、ゴブリンのメスである。
こちらは知性があり、対話も可能で、しかも修行すれば鬼にもなれるという。
そして、その二体が持っているもの……
バズーカだった。
「ッッバカかアイツらはぁああああ!!」
「お、落ち着け少年!」
そう言っている間にも、既に発射体制は整っているようだった。
「……撃て!!」
「うふふ……じゃあねっ!」
「消えろクソガキども!!」
無慈悲に、バズーカが放たれる。
弾は、二人に向かって飛んでくる。
「っつぁああっ!!」
サルバはそれを蹴り上げて、上空で爆発させた。
「っがぁああっ!!」
ジェットは受け止めて、弾をデーモン達に向ける。
「……は?」
「えっ……」
「うそ……」
「少年……?」
「おらぁああああっ!!!」
それをぶん投げ、デーモン達を爆撃した。
見事に直撃……
「……いやっ!」
爆煙が晴れると、デーモンが魔法防御壁を張っており、爆発から身を守っていた。
「あっぶないわね……!!」
「チッ……!」
「少年、決めるぞ!!」
しかし、敵は眼前。
二人は跳び上がって、力を全開にした。
「な……!!?」
魔法防御壁は、上からの強襲ですり抜けられるようになっていた。
連中達は、こんな跳躍力の少年と戦うなんて想定して無いのだろう。
「そりゃあぁっ!!」
サルバはナイフでメスゴブリンの首筋を一閃して、即死させる。
「でぇえいっ!!」
ジェットはもう一体のメスゴブリンを兜割りして、縦に真っ二つに斬った。
「くそっ……!!」
デーモンは手に魔力を溜め、二人に投げつけた。
「ひゅうっ!」
「くっ!」
サルバは避けて、ジェットは剣で弾く。
そして二人は、デーモンに猛攻した。
「おらぁあっ!!」
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃあぁっ!!!」
ジェットの猛攻と、サルバの疾風の連撃がデーモンに襲いかかる。
「舐めるなガキ共ォオッ!!」
デーモンは二人に足払いして、スっ転ばせる。
「わっ!?」
「っぐ!!」
サルバが先に持ち直し、デーモンのこめかみに蹴りを放つ。
しかしデーモンは腕でガードして、サルバの顔面を打ち下ろした。
「ぐはぁあっ!!」
「サルバっ!!」
ジェットが立ち上がり、サルバの救出に向かう。
「邪魔だぁあっ!!」
デーモンはサルバの足を掴んで、ジェットを薙ぎ払った。
「ぐぁあっ!!」
「っつぅあ……!!」
ジェットはぶっ飛び、サルバも悶絶する。
しかしすぐに持ち直し、魔力を解放した。
「はぁあっ!!」
サルバはもう一方の足で、デーモンを蹴りかかる。
風を纏った、強力な蹴りだが……
「ふんっ!!」
デーモンはそれを避けて、サルバをジェットにぶん投げた。
「ぐぁあっ!!」
「がはぁあっ!!」
二人は倒れて、立ち上がろうとする。
「カカカッ……な、中々やるな……!!」
「へへへ、デーモンとの戦いは初めてで、慣れねぇな……」
今もう一度立ち上がり、構え直そうとした時だった。
いきなり、周囲に黒い霧が発生した。
「な……」
「なんだ、コレは……?」
デーモンも、驚いている……
という事は、魔物の仕業では無さそうだ。
「や、やべ……!!」
その時、サルバの顔が青ざめる。
「ど、どうしたんだ?」
「お、親分だ……!!こんな所で油売ってっから、来ちまったんだ……!!わ、悪くないよな!?俺、悪くないよな!?」
何だか知らないが、酷くパニックのようだ。
そこまで、おっかない奴なのか……?
「な、何よ……な、何なのよ……!!」
次の瞬間、凍るようなエネルギーが辺りに波動して、とてつもない圧迫感と悪寒が背筋に走った。
氷魔法のようなものではなく、恐怖による背筋に走る寒さだ。
「……死ねい。」
不意に、渋く低い声が響いた。
次の瞬間……
悪寒は最高潮に達して、目の前ではデーモンの首が飛んでいた。
「……え?」
「……は?」
ジェットは思わずデーモンの首をキャッチして、目を合わせる。
「な、なんであんた……私の頭掴んでるの……?」
「は……?」
いや、何でお前喋ってんだよ。
首飛んでんだぞ。
「い、いや……お前……」
ジェットは、首をデーモンの体に向ける。
「え……なんで、わたしのからだ……イヤ……どうなってるの……!?やだっ!!寒い……寒いっ怖いっやだぁあっ!!っ!!!」
デーモンはグリンッと白眼を剥き、舌を出す。
ここでようやく、デーモンの首の切れ目から血が吹き出した。
体も、頭の方もだ。
「〜〜〜っっっ!!!」
あまりの恐怖と死の危険に、固まってしまう。
ジェットは本来なら避けるはずの血飛沫を、避けずに固まっていた。
「……え、遠路はるばるご苦労様です……」
サルバは走り、跪く。
「なに、部下が一人危険に陥り、それを主人が助けに来たまでの事。汝に落ち度は無い。」
サルバの跪いた先……
そこには、身長180cmはあるだろう大男が立っていた。
髑髏の仮面で顔を隠しており、黒い羽衣を羽織っている。
大男のくせに、その体は異様に細かった。
痩せ細り……じゃない。
圧倒的な力と魔力と理が、その細い体に備わっているのだ。
そして、手には大鎌を持っていた。
「し、死神……?」
ジェットの呟きに、サルバは首を振る。
「……惜しい……」
「惜しいだと?」
「ああ……彼こそは俺達盗賊をまとめ上げている親分……盗賊王だ。」
「と、盗賊王……!!?」
まんますぎる上に、どう考えても盗賊のナリじゃない。
そして、どう考えても盗賊の能力でもない。
「我は生命の盗人。同時に死司の申子也。此処一帯の人間の盗賊の首領を請け負っている……」
盗賊王は、ジェットに頭を下げた。
「あ、あの、ジェットです……」
「かのローゼからの勇者か。宜しい、我の後に続くが良い。」
「……!」
事情は、もう把握済みか。
「往くぞ、サルバ。」
「はっ!」
「……」
どう考えても普通ではない、盗賊王。
しかし、助けてくれた事は事実である。
なぜ、あのような能力を持っているのか……
そして、あの戦闘力は何なのか……
ジェットは疑問を抱きながら、盗賊王の後に続いた……




