レシアの底力
レシアとパルジファルはぶつかり合い、激しく攻防した。やがて城から飛び出し、適当な所に着地した。
「……」
「はぁっ!」
パルジファル……
真紅の鎧に身を包んだ、白銀の槍を持つ騎士であった。
「オラァアッ!!」
「ぐっ!!」
槍での猛攻がレシアの接近を許さないまま、一方的に攻撃し続ける。触手は尽く切り払われ、攻め込む余地もない。
「三下サキュバス程度が俺に勝つなんて、不可能だ!!諦めて、とっとと死にな!!」
「誰が三下よ……!!」
レシアは大きく跳び退き、腕を地面に突っ込む。すると、パルジファルの周囲から触手が飛び出し、彼に襲いかかった。
「かぁああっ!!」
しかし、彼の槍術が迫り来る触手の一つ一つを切り払う。あっという間に全て切られ、こちらへ槍を向けた。
「くらいなァ……!!聖魔貫く銀槍ッッ!!!」
槍が光り、とてつもない輝きを放つ。その槍を、彼女に向けてぶん投げた。
「っ!!?」
槍は、脇腹を吹き飛ばした。彼女は大量に吐血し、膝をつく。
「く……ぐ……!!」
「くっくっく……思い知ったか、三下?これが格の違いって奴よ。」
そう言う彼の手には、既に槍が戻っていた。その槍をレシアに向け、笑った。
「さぁて、どうしてやろうかな……足を切るか腕を切るか……」
「……」
彼女は溜息をつき、呆れた顔をする。
ま〜さか、神力持ちとここまで格が違うなんてね……これは、参ったわ。でも、私も愚かだったかもしれないわね。こんな実力の相手に、奥の手を隠すなんて……
「ふっふっふ……」
彼女は変異していない方の手で地面の砂埃を掴み、パルジファルの顔面へ叩きつけた。
「っ!?」
急な砂礫に直撃し、目を押さえて揺らいでしまう。レシアはその隙に立ち上がって距離を離し、全身に力を込めた。
「出来れば、こんな局面で使いたくなかったけど……仕方ないわね。」
「っぐ……!!小賢しい事を……!!」
彼はようやく視力を戻し、彼女の方を見る。その体勢を見て、何かしてくるのを確信した。
「……へぇ。まぁ、何をしても無駄だとは思うけど、全力を以て勝負を決するなら、受けて立つが騎士道。さっさと終わらせな。」
「一つ、いい事を教えてあげるわ。」
のうのうと自分の変身を眺めるパルジファルに、彼女は語りかける。
「魔王城の宝物庫に保管されていた、『宇宙外からの異本』……アレを全て持ち去ったのは、この私よ。」
「……なにっ!?」
宇宙外の異本。それは魔物達の間でも話題になっていた、隕石の中にあった数冊の本であった。解読が急がれていた所、いきなり消失したので真実は闇の中だが……
レシアは、詠唱を開始した。
「ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅるふ・るるいえ・うが・なぐる・ふたぐん……!!!」
それは、聞くも悍ましい詠唱。舌先を口蓋に押し付け、唸るような、吠えるような言葉の羅列。
詠唱を終えると同時に、彼女の体に変異が起き始めた。肌の色が消え失せ、色白の透き通るような色となる。右腕の触手は、筋肉の詰まった強靭な凶器と化す。残った左手にも筋肉が張り、指の先がドラゴンの鉤爪のように変異した。羽根も大きくなり、身体中の傷が消え失せる。「ふしゅう」と漏れる息から、濃い潮の匂いが漂っていた。
「はぁ……!」
「な……!!?」
次の瞬間、レシアは触手を拳のように固め、パルジファルに突撃した。反応の暇さえ与えない、とてつもないスピードの接近をして、その頬を思いっきりぶん殴った。
「ッッッ!!?」
「かぁあっ!!」
ぶっ飛んだパルジファルに、思いっきり爪を振り下ろした。超パワーの一撃はパルジファルを捉え、叩き下ろされた地面を粉砕した。
「はぁ……!」
「かぁあっ!!」
爆煙の中から、あの白銀の槍が飛び出してくる。それは、彼女の肩を刺し貫いた。
「!!」
「調子に乗るなよ……!!」
そのまま追撃しようと、槍を振るおうとする。しかし、彼女はスウェイバックし、無理矢理ながら槍を引き抜き、体を捻る。
「けぇいっ!!」
そのこめかみに、後ろ回し蹴りした。
「っぐぉおっ……!!?」
パルジファルはぶっ飛び、壁に叩きつけられる。そんな彼の眼前に、既にレシアは迫っていた。
「はぁあああっ!!!」
強靭な触手と渾身の鉄拳を連打し、最後に顔面へ強烈なパンチをした。
「っはぁあっ!!」
「ッ!?」
パルジファルの力の波動が、レシアをぶっ飛ばす。白銀の槍は光り、彼女に突きを連打した。
「ごはぁっ!?」
身体中を蜂の巣にされ、吐血する。吐き出す血すらも潮の匂いがした。
「しゃああっ!!」
蜂の巣になったレシアの腹に、強烈な膝蹴りをかました。彼女はゴロゴロとぶっ飛び、倒れ込む。
「っあはっ!」
しかし難なく起き上がり、その体を再生させた。恐るべき再生力を持つ名状しがたきソレ前に、彼は唾を飲む。
「……どうやら、再生出来ないほど粉々にしなきゃ無理みてぇだな……」
「やれるのかしら?」
「やれるさ、こんな風に……!!」
パルジファルの槍が、光る。彼はそれを上空へぶん投げ、自分も飛び上がった。
「最果てまで貫く銀槍ッッ!!!」
その場で宙返りし、その足で槍を蹴り飛ばす。槍は蹴飛ばされると同時に光り輝き、無数の槍へと姿を変え、そこら一帯に振り注ごうとしていた。
「あはっ!」
彼女は、自らの悍ましい触手を地へと突っ込む。すると、巨大な触手が周囲から発生し、彼女を包み込んだ。
槍の雨は、地へと辿り着く。そこら一帯は千を超える光の槍で刺し貫かれた。当然、触手にも槍は突き刺さる。
「……!!」
次の瞬間、光の槍は大爆発を巻き起こした。爆発は次々に連続し、一帯を消し飛ばす。
黒焦げになった触手に包まれた、無傷のレシアだけが残っていた。
「そんな子供騙し、通用しない──」
「かぁあっ!!」
次の瞬間、彼女の胸を白銀の槍が貫いた。心臓を刺し貫く、直死の槍。彼女はその凶刃に貫かれ、吐血した。
「がはぁあ……!!」
「フンッ!!」
その槍に神力を込めながら振り上げる。するとレシアの体は爆発し、上半身が消し飛んでしまった。残った下半身が、膝をついて倒れる。
「ふふん、やはり三下は三下……所詮、俺の相手じゃなかったか。」
槍の血を払い、その場から背を向けた。そして、城の方へ戻ろうと、歩を進めた……
「……それにしても、異本があんなサキュバスに使われてるとは……母上に、報告するべきか……」
歩いていると、背後から足音が聞こえた。なんだと思い、振り返る──
「ごふぁあっ!?」
なんとレシアの下半身がひとりでに動いており、パルジファルを蹴り飛ばしていた。蹴り飛ばされた彼はゴロゴロと転がるものの、体勢を立て直し、彼女の方へ向く。
「うぐ……!!?」
彼女の足が、震える。その傷口から肉が飛び出し、粘土のように形を整える。そして、レシアを再生した。
「……あはっ!」
冒涜的な右腕の触手は更に狂気的な青に染まり、筋肉も張ったのが分かる。更に豊満な胸は露出するも、すぐに触手によって覆われた。
「……不死身かてめぇは……!!」
「そうねぇ、不死身かもしれないわねぇ。」
「じゃあ、尚更、木っ端微塵にするしかないようだな……!」
白銀の槍が、光を放つ。その槍で、突きの猛攻を仕掛けた。彼女はそれを全て見切り、接近する。
「はぁっ!!」
強靭な左手の拳で、顔面をぶん殴った。クリーンヒットし、見事に彼をぶっ飛ばす。
「ちっ!!」
「!!」
しかしカウンターに繰り出された彼の槍の刃が、彼女の左腕を切り落とした。
「っく……!」
「はぁ……はぁ……!クソが、完全に神力を宿してやがる……!それも、これは短期間で磨き上げられるレベルじゃない……実力を隠してやがったな?」
「使いたくなかっただけよ。こんな卑怯とも言える魔法……栄光を手にするなら、困難を汲まないとね。」
「栄光の為の、困難だと……?」
「そうよ。何をするにしてもイージーモードだと、手応えがないじゃない。」
レシアは構え直し、その冒涜的な触手をうねらせる。
「でも、この力を使う局面に立たされるなんて思わなかったわ。君ぐらい、普通のままでいけるって思ってたんだけどね。」
「舐められたものだな……!!」
パルジファルは槍を執り、レシアに猛攻する。彼女も触手を伸ばし、槍の猛攻に対応した。超スピードの打ち合いが始まり、激しく攻防した。
名状しがたき触手は、さながら鉄のような固さに変質しており、パルジファルの聖魔貫く銀槍とぶつかり合って火花を散らしていた。
「どうなってやがる……!?」
「かぁあっ!!」
猛攻をすり抜け、触手がパルジファルの顔面に一撃した。彼は打たれて仰け反るものの、触手を掴んだ。
「ふっ!!」
「!?」
それを手繰り寄せ、レシアを引っ張る。その彼女が眼前に来た途端、腹へ思いっきり蹴りをかまし、蹴り飛ばした。
「ぐはぁっ!!」
「しゃおっ!!」
そのままレシアに向け、光を放つ槍をぶん投げた。
「あはぁっ!」
彼女は大きく身を反らして、それを躱す。そして頭を振って起き上がり、口からエネルギー波を放った。
「くっ!?」
回避は間に合わないと判断し、腕をクロスする。防御しながらではあるが直撃し、大爆発した。
「このっ!」
槍で爆煙を切り払い、レシアの方を見る。
「銀の鍵よ、門を開け……」
彼女はそう言うと、その眼前に時空を超越した底知れぬ異次元へ通ずる穴を空間に開いた。得体の知れぬ穴に、何のためらいも無く左手の拳を突っ込む。
「なんだ……!?」
パルジファルは怪訝な顔で、それを凝視していた。すると、そのすぐ横に同様の次元の穴が開き、そこから拳が飛び出た。
「ぶっ!?」
為す術もなくいきなり殴られ、よろめく。しかし、彼に揺らいでいる暇などなかった。
「はぁあっ!!」
彼女はあろう事か、右腕の触手を全てそこへ突っ込んだ。すると、彼の周りに無数の穴が開く。そこから触手が飛び出し、次々に彼を鋭打していった。
「ぐぬうぅうっ!!がぁああああっ!!!」
攻撃されている最中、パルジファルは唐突に防御を捨て、体を広げて絶叫した。すると、どうだろうか。触手攻撃により、真紅の鎧がひび割れ、壊れていくのだった。
鎧は完全に粉砕され、彼は上裸になる。次の瞬間、とてつもないスピードで触手攻撃を避け始めた。
「……っ!!?」
「がぁあっ!!」
避けるどころか、飛んできた触手に対して反撃してくるようになってきた。しかし、驚くべきは次の瞬間だった。
「はぁあっ!!」
自分のすぐそこに空いた時空の穴に、槍をぶん投げた。
「っ!!?」
槍は空間を超え、レシアの胸に深々と突き刺さった。彼女は吐血して跳び退き、時空の穴を消した。
「へぇ……!!」
「狂瀾こそ我が武の極限……!!まさか、お前相手に奥義を使う羽目になるなんてな……!!」
両者とも、遂に本気になった。狂気的とも言える宇宙的恐怖を宿したレシアか、狂瀾怒涛の無我の極地に達した、パルジファルか。
両者は構え直し、激しくぶつかり合った。




