哀しき騎士
「……ごふっ!がはぁあっ!!」
トルストラムはローレンスの技によって、心臓を貫かれた。即死するかと思えば、まだ息があるようだ。
「……このまま放っておいても死ぬだろうから、一応聞いておこう。貴様、過去に何があった?」
「……!」
トルストラムは意外そうな顔をして、己の心臓を奪った彼の方へ向く。
「な……なぜ、そのような事を……」
「貴様の戦っている時の顔……特にフェイルノートとやらを扱ってる時の顔は、戦士の顔ではない。」
「……ああ……まさか、このような男に見抜かれていたとは……」
トルストラムは、そこから静かに語り出した……
「アレは、私が5歳の時だった……幼い頃に両親が居なかった私ではあったが、孤児院の仲間に囲まれ、それなりに幸せな人生を生きていた……そんなある日、私は恋をした。相手は東出身の女性、名はイゾルデ……美しき女性だった。」
「……」
トルストラムの年齢は自分と変わらず18歳と見た。彼が5歳の頃……となると、13年前……
「……東西戦争の真っ最中かッ!!」
東西戦争……15年前に勃発した戦争で、原因は西の一番大きな国の圧政鎮圧。しかし当時軍事力が世界一だったその国は抵抗し、東と凄惨な戦いを繰り広げたとか。5年後の魔物達の強襲によってその国は滅びてしまい、戦争は終結し、こうして新たな戦争が繰り広げられている訳なのだが……
「私の孤児院は、この大陸のはずれにあった……だから、東の子供が隠れて来る事だって、珍しい事では無かったのだ……ただ、イゾルデは特別だった……一人で居る私に声をかけ、音楽を教えてくれたのだ……年下である私が言うのも何だが、年端もいかぬというのに、強く優しい人だった……」
「……」
ローレンスは既に何かを察し、顔を伏せた。トルストラムはそれを見てから、少し間を置いてから続けた。
「そんなある日……本国の兵隊が、孤児院に来た。その者達は東の人間が居ると見た瞬間、その場で殺戮を繰り広げたのだ……」
歯軋りをし、拳を握る。握った拳から、血が滲んでいた。
「その暴圧の毒牙に……私が愛したイゾルデも……そして、私が育った孤児院にも火が付けられ、私達は居場所を失った……そこから、私は……人間が、憎いのだッッッ!!!」
怒りと共に、拳が床に叩きつけられる。それで、床に亀裂が走った。
「命からがら逃げ延びた私達は仲間と共に、復讐のために強くなる事を誓った……そんなある日、私達は母上に会った。」
「母上だと……?」
「アルトリウス様……彼女は私達に、復讐のための力を与えてくれた。その力に耐えられず死んだ仲間も居たが、あの時の悲しみに比べれば取るに足らないものだった……そうして私は復讐を成し、母上の刃となったのだ……」
「……そうか。」
ローレンスが返事すると、トルストラムは大量に吐血した。意識も絶え絶えに、尚も続ける。
「しかし……悪行は、いつか自分に返ってくるというのは本物なのだな……復讐を終えてから時間が経ち、復讐心によって支えられていた自我も摩耗し……いつしか、自分が誰だか分からなくなっていたのだ……その時、このような力も騎士の誇りもただ虚しいだけのものとなってしまった……」
ローレンスはそれを聞き、首を振る。
「悪行ではある、が……貴様のそれは同情に値するし、俺が貴様でもそうしていただろう……お前は正しい。」
「……」
トルストラムは笑い、優しい目で彼を見た。
「優しいのだな、憂いの戦士……そうだ、一曲……弾いてやろう……フェイルノートを……」
「……」
ローレンスはトルストラムの弓を取り、渡す。彼もそれを取って、何を言うでもなく静かに弾き始めた。
美しく、それで居ながら力強く、悲しげな音色が響く。
「嗚呼、悲しきかな……出来ることならば、この音色をイゾルデに聴かせたかった……」
「……」
「私には……もう何も要らない……イゾルデと、同じ場所に行けるのならば……」
「……こんな時にウソを言っても何もならんから、はっきりと言おう。その女が大罪人でも無い限り無理だ。少なくとも、貴様は地獄で自分の罪の重さに苦しむ事となるだろう──」
「……っはははは……これは、手厳しい……」
トルストラムの手が、震え始める。しかし、それは次のローレンスの言葉で止まる事となった。
「──だが、その音色は確実に届いていると思う……きっとな。」
「……!」
それを聞き、彼はハッとする。そして、あの優しい笑顔をローレンスに向けた。
「……つくづく……私は、最期に恵まれてしまったようだな……」
暫くの間、演奏は続く。その音色は次第に弱々しいものとなり、徐々に色を失っていく。そうして、演奏は止んだのだった……
「眠れ、騎士よ……貴様の悲しみは、もう終わった。」
ローレンスはそう言いながら、彼の前で胸に十字を切った。
「終わったか。」
ジェットはジョーから仮面を受け取り、ローレンスに渡す。ローレンスはそれを装着し、いつもの彼に戻った。
感情隠しの仮面を着けた彼は、すぐに悲しみの雰囲気から切り替わる。
「人間を憎む人間が、魔物と手を組んだとは。」
「ああ……どうやら、簡単な話じゃ済まないみたいだな……」
「……俺達も、こんな場面と向き合う時が来たか。」
ローレンスとジェットとジョーの三人は、向かい合う。
これから繰り広げられる人間との戦い……辛く、苦しいものとなるだろう。しかしそれを予感しても尚、戦いの闘志は未だ消えず、寧ろ燃え上がらせていた。
「……悲しみに浸ってる暇も無いのね……」
男三人を横目にレシアはそう言いながら、トルストラムの亡骸を見ていた。その目から、涙を流してる。
「酷い……同じ人間同士なのに、なんでこんな悲しい事が起きなきゃならないのッ……なんでッッ!!」
「俺にも、分からん……」
ジェットは、悲しみの感情を毅然とした無表情で押さえ込み、目を鋭くする。そして、トルストラムの死体を抱え、先頭を進み始めた……
「……」
外の、適当な場所に来た。
まずは、何を言うでもなく、キッと地面を睨みつける。するとその地面が、爆砕した。
大穴が出来て、そこへトルストラムを埋葬したのだった。
「……ジェット、何でこんな奴をそんな手厚く埋葬すンだ?」
ジョーがふと疑問に思い、投げかける。それに対し、彼は今まで見せた事のないほど真剣な表情で、答えた。
「誰かを本気で愛した、人間だからだ。」
ジェットとは思えない言葉に、残る三人は固まってしまった。彼の意外な感情を前に、驚愕してしまっているのだ。
「……」
「……立派だな、勇者さんよ。」
「そうね……その通りね。」
悲哀の騎士、トルストラム……愛深き故に、悲しき男。彼は、ローレンスの強さに触れて何かを得たのだろうか……
「オイオイ!トルストラムの奴やられてんじゃねぇかよォ!!」
モルドレッドが、地上をモニタリングしたモニターを見て騒ぎ立てる。他の三人は、静かに顔を伏せていた。
「……そうか、トルストラムの心には彼女が……」
と、パルジファル。
「最期には、報われた……と言うべきでしょうか。」
と、ゴーヴァン。
そんな二人の意見を無視し、ランスロットが顔を上げた。
「下らん……余計な感情を持ち合わせながら騎士になるから、こうなるのだ。」
「な……!?ランスロットッ!?」
ゴーヴァンが、ランスロットに食ってかかる。
「彼の悲しみが、分からないのですかッ!?彼は──」
「敗北すれば、全て失うのだ。それに今、死んだ者の無駄話をしている暇があるのか?」
「貴方という人は……!!!」
「やめなさい、ゴーヴァン。」
アルトリウスがそう声をかけると、一時停止でもくらったかのように全員が止まった。
「私は自分の子が喧嘩するのは見たくありません。それに今はランスロットの言う通り、勇者の対策を練るべきです。」
「しかし母上っ!」
「貴方の気持ちも分かります……しかし、その気持ちが一番強いのはランスロットなのです。」
そう言われたゴーヴァンは、ふとランスロットの方を凝視する。よく見ると彼は、口の端を噛んでおり、血を流していた。
「……!」
それに気付いた彼は顔を伏せ、席についた。
「ンじゃ、勇者の対策なんだけどよ。もうロンゴミニアドをブッ放そうぜ!あの研究所もトルストラムも終わったんだし、一気にバーッて消しちまうのが一番いいと思うな!」
モルドレッドがそう言うと、パルジファルとゴーヴァンもそれに賛成したようだ。
「確かに……ロンゴミニアドならば、直撃すれば確実に勇者を消せる……」
「ああ、迅速に終わらせるならばそうするべきですね……出来れば一騎打ちで叩きのめしたかったものですが、これは戦い。致し方ないです。」
ランスロットも顔を上げ、口を開いた。
「私も賛成する。トルストラムが殺られたとなると、敵は非常に強大なものである。手加減の余地は無い。使えるものを使って一刻も早く決着を付けようではないか。」
騎士達が話を纏め、アルトリウスは頷く。
「うむ……それではまずステルスを解除し、神力の5%をロンゴミニアドに込めよ。」
その指示を聞いたモルドレッドとパルジファルは、驚愕した。
「5%ォ!?そりゃやりすぎだぜ母上!!」
「5%となると、10発は撃てます……!そんなに神力を無駄遣いする必要など、ありません!」
「いいえ、二人とも……」
ゴーヴァンが、彼らを鎮めさせる。
「どうやらこの勇者は、四魔姫のうちの二人を既に撃破しているようです。それを念頭に置くと、10発は妥当なエネルギーだと思います。」
「な、なるほど……あの鳥女と蛇女を……」
「ならば、10発も妥当か……ふむ。」
ランスロットも頷き、立ち上がった。
「私も賛成だ。今すぐに、準備しよう。」
全員の賛成を聞いてからアルトリウスは頷く。
「それでは、始めようか。」
そそくさと準備を進めるアルトリウス達……その背後で、ヴォシム王女が震えていた。
「……」
目を閉じて、精一杯の祈りを込めて勇者を待ったのだった……




