不死身VS命知らず
下の方から、戦闘の音が響く。ジェットとハルピュイアが、ぶつかり始めたようだ。
「……アイツ一人で、平気かァ?」
「……」
ジョーが、心配事を口にする。ローレンスも同じ事を思ったが、今は自分の役割に徹することにした。
奴ならば、平気だ……わざわざ、自分からあのような役割を背負ったのだ。信じるしかあるまい。
そう思いながら、大樹を登っていく。
そうして登った先……遂に、目的のモノに辿り着いた。
「……これが……!!」
「想像以上……だな……」
その輝きに、二人は圧倒される。天井からぶら下がった蜜は部屋の中心で固まり、それが繰り返され……巨大な、黄金色に光り輝く宝石のようになっていた。
自分達の10倍の大きさがあろうそれを前にして、圧巻される。
「……む。」
ローレンスの方が先に、輝きの中に魔術の光を見た。これが、ディグデーターの魔術だろう。
「生憎、我々は解呪の魔術など持ち合わせていない。ならば……」
「ぶち壊すしか無いって事か。」
野蛮な眼光を光らせながら、指をボキボキ鳴らし、一歩踏み出す。その肩を、ローレンスが掴んだ。
「先に、合図をしたらどうだ?」
合図……レシア率いるハーピー達の、突撃の合図の事だ。特に魔物の手を借りる必要も無いとは思ったが、人手は一人でも居た方がいいだろう。
「ん……そうだな。」
彼の言葉に頷いてそこらに手を向け、炎の玉を放つ。それは壁を貫通し、外で大爆発した。
「……これで、合図になるだろ。」
「ああ。」
「そんじゃあ、遠慮なく……!!」
次の瞬間、彼の踏み込んだ力で床が粉砕した。床の破片が飛び散り、埃が舞い上がる。
彼はというと、ロケットのように黄金宝石に向かって飛んでいた。
「ウォオオオオッッッ!!!」
拳に全力を込め、思いっきり振りかぶる。超パワーのパンチを放って、黄金宝石を叩いた。
「……ッッッ!!?」
硬い。全力という全力のハズの今の一撃で、傷一つついていなかった。
無傷を確認し、なくなく重量に従って落ち、着地する。舌打ちをしながら、部屋に浮く標的を睨み上げた。
「……やはりな。その異常な硬度……我らに粉砕は不可能と断じたか。」
「上等ォ……!!!」
ギリッと歯ぎしりをしながら、その表情を笑顔で塗り替える。
「ぶっ壊れるまで、ブッ叩いてくれるわぁあああッッッ!!!」
「そうするしかあるまい……ゆくぞッッ!!」
二人は魔力を解放し、黄金宝石に向かった……
「ハァアッ!!」
「ッッ!!」
ハルピュイアの蹴りを腕で受けながら、こちらもハイキックを放つ。奇しくもそれは自分と同じ方法で防御された。但し、向こうの場合は羽根でガードした訳だが。
一撃がギギギッと押し合った後は、反動のようにバチィッと距離を離した。
「しゃあああっ!!」
彼女の方が踏み込んできて、蹴りを無数に放つ。目を見開いて、見切りにかかった。顔面や腹に放たれる蹴りを、次々に避けていく。いや、避けるだけではなく、こちらから距離を詰めた。
「ふんっ!!」
腹……それも股下から8cm上辺りに重い拳を叩き込む。クリーンヒットし、彼女はツバを飛ばしながら揺らいだ。
「ごはぁあっ!?」
「おらぁあっ!!」
アッパーして顎から脳天へ抜けるように打ち抜く。拳は、彼女を更に遠い世界へぶっ飛ばした。
「チェストォオオッ!!」
剣を取り出して、無造作に薙ぎ払った。力任せの薙ぎ払いは彼女の胸を深く斬撃しながら、大きくぶっ飛ばした。血を飛び散らせながら、床に倒れ込む。
「反撃なんかさせねぇ」と言わんばかりに、追撃しに走ってそこに向かい、跳び上がる。
「……フッ。」
ハルピュイアは起き上がり、笑いながら彼を睨んでその眼を光らせた。すると、彼に向かって竜巻が放たれ、その身体をぶっ飛ばした。
「っ!!?」
竜巻に身体を切り裂かれながら吹っ飛んで、天井に叩きつけられてバウンドする。
「ははははっ!」
その彼に風魔法を連射する。
「ちっ!」
飛んでくる風魔法を前に剣を取って、振り回す。墜落しながらもその剣で風魔法を弾き飛ばし、着地した。
「チッ……!」
更に鋭い風魔法のエネルギー弾が、超スピードで迫ってくる。剣を振るスピードを速め、次々に魔法を弾き飛ばした。ピタッと魔法が止まり、剣を払う。
「くらえ……!!」
「ッ!!」
ハルピュイアの踵落としが、飛んでくる。それをギリギリで避けながら、腰に剣を携える。
「ちょいッッ!!」
「!!!」
神速の居合切りが、彼女の胸を逆袈裟斬りした。一刀両断とはいかないものの、この深さなら心臓にまで届く。致命傷にはなるハズだ……敵が、不死身でさえ無けりゃ。
「……ふふ。」
「はぁ……」
やはり、相手が不死身だと分が悪い。向こうが不死身でさえ無けりゃ、もう何度勝っているのだろうか。
「ふんっ!!」
ハルピュイアの方が先に接近し、蹴りを放ってくる。それを蹴り足ハサミ殺しで受け止めた。
「づ……!!?」
肘と膝で猛禽類の足を抑えられ、刹那の激痛と共に硬直した……が、それは想定済みの事態だったようだ。
「カァッ!!」
顔面に足刀が飛んできて、クリーンヒットを許してしまった。鼻血を噴きながら、グラリと揺れる。
「っぐ……!!」
「デストラクションウィング!!」
力を込めた破壊の翼が、彼を思いっきり打った。渾身の力でぶっ飛ばされ、床に体がつき、ゴロゴロ転がる。転がってる最中に大勢を整えて、腕に力を込める。そして、衝撃をバク転という形で上手く受け流した。
「っしゃああッッ!!」
しかし、彼女が身体に風を纏いながら、矢のように突進してくる。それを剣で受け止め、足に全力を込め、踏ん張った。力と力の押し合いになり、零距離で睨み合う。
「っぐぐぐ……!!」
「殺してやる、殺してやるぞ!!」
向こうの風の力が、倍になる。踏ん張っていた足がずりずりと後退を始め、押され気味の状況になった。
「うぐ……ぐっ!?」
「ガァアアッ!!!」
その身を思いっきり回転させ、ジェットの防御を弾く。ガラ空きになった土手っ腹に、頭突きした。
「ッッごぶっ……!!?」
まるで、ピンポイントで隕石が落ちてきたかのような威力。自分の知る頭突きの常識を遥かに超えた威力に、目を見開いて吐血してしまう。
「だだだだだだっ!!!」
吐血した彼に向かって、容赦なく身体中に無数の蹴りを放った。反撃のスキも防御の暇もないない程の蹴りに、なす術もなく一方的に蹴られ続けた。
「吹き飛べ……!!ヘルエアロストリーム!!」
トドメと言わんばかりに翼を振り上げる。振り上げられた翼から魔力が飛び、そこをなぞるように竜巻が発生した。彼はそこに飲み込まれ、身体中をカマイタチで切り裂かれながらぶっ飛んだ。
「うぐぁあああああッッ!!!」
竜巻から解放され、放物線を描きながらドシャッと倒れた。全身から力が抜け、ガクンと倒れる。
彼女はそれを見て、歩き寄る。ジェットの死に顔を拝見し、口角を吊り上げた。
「……っハッハッハッハ!アーッハッハッハッハ!」
愉快な笑い声を上げながら、その顔を踏む。何度も何度も踏んでから、床に後頭部をグリグリ押し付けるように、力強く踏みつけた。
「残念ねぇ、人間が私に勝つなど、最初から不可能なのよ!!アーッハッハッハッハ!!」
踏むだけ踏んで、ゾクゾクッと背筋を震わせる。恍惚とした表情を浮かべて余韻に浸った。
「さぁ、八つ裂きにしてやるわ。まずは腕をもいで、足を裂いてやる。首とモノを喰いちぎってから腸を掻き出して、頭蓋骨ごと脳ミソを……」
言っていると、不意に上から爆発の音が響いた。無数の兵士が、なだれ込んでくる気配……その中には、あの忌々しいサキュバスも居た。
「……そうか、あの裏切り者まで来ているのか……くふふふっ、いいだろう。まずはそちらを殺してやろうか……」
ジェットを蹴飛ばしてから、数歩ばかり歩く。両の翼を広げて羽ばたかせ、飛ぼうとした刹那だった。
後方から、何か飛んでくる。それは決して、自然現象では無いことを瞬時に錯覚した。すかさず振り向くと、目に飛び込んできたのは光。次に入った情報は、それが刃に反射したものだという事実だった。
「ッッッ!!!?」
次の瞬間、翼が斬られた。右翼も、左翼もだ。
回転する剣の刃に両の翼を斬られ、浮きかけていた身体が墜落してしまった。
使命を達成した剣が、ストンッとそこらの床に刺さった。
「っぐはぁあっ!?」
「……ヘッ……!」
なんとジェットは立ち上がっており、何か物を投げたかのようなポーズをとっていた。この事からして、剣をブン投げた犯人は彼だと言うことが一目瞭然であろう。
「っぐ……!!き……さま……!!本当に……!!」
翼を再生させながら、怒りに震える。一方彼は悪びれもせずに、首を鳴らしながらファイティングポーズをとった。それが、彼女の怒りを加速させた。
「本ッッッ当に……私をイライラさせるのが上手い奴めェエエエーーーッッッ!!!」
加速した怒りは瞬時にマックスを迎え、その怒りのままにジェットに突進した。
……もう、これまでの立ち合いでだいたい把握した。こいつが、『何が出来て』、『何が出来ない』のかを。動きのクセ……典型的な、急所オタクかと思えば、力任せな部分も併せ持っている。しかし、冷静になって見切るのはそう難しくなさそうだ。
……自分の成長に、驚いている。あの時は手も足も出なかったハルピュイアを相手に、『追いつきそう』だなんて……
「……シュッ。」
一撃が炸裂する寸前……それも、相手の顎の先がこちらの制空圏に入ってきた瞬間。時間にして、コンマ1秒。その僅かな時間を、今のジェットが見逃す筈が無かった。
「!!?」
彼女の反射神経を遥かに凌駕する神速のパンチが、制空圏を侵害した顎先に鉄槌した。勢いのままに攻撃を放っていた彼女は、意識を失って崩れる。勢いだけが残留し、床をゴロゴロ転がった。
「ーーーッッッ!!?」
意識を取り戻し、世界を目にした彼女は驚愕した。
歪んでいるのだ。景色が、床が、天井が、自分が、奴が、何もかもが。
「な……な……!!?」
「不死身でも、脳震盪は治せねぇか。」
冷静にそう言う、その内心……身の内の心の奥から、湯水のように達成感が湧き上がっていた。このまま、「おっしゃー!」とやりたいところだが、今はそんな余裕でもない。
「ぐ……ぬぬ……そんな訳が、あるものか!!」
彼女はブンブンと顔を振って、翼を広げる。その翼を振って、無数の風魔法のエネルギー弾を飛ばした。
「しゃああっ!!」
矛先に居た彼の腕が、消えた。すると次の瞬間、彼に向かっていったエネルギー弾が弾け飛んだ。
「んなッッ!?」
「……ふっ!!」
腕を引き、腰に携える。足に力を込めて踏み込み、眼前まで接近した。あまりにも速すぎる接近に、彼女の動体視力が追いつかなかった。
「は、速……」
「だぁあッッ!!!」
腰に携えた拳が加速し、両の拳がハルピュイアの胸を打ち抜いた。厚手の鎧が破壊され、サラシを巻いた胸に到達する。
「っぐはぁあっ!!」
「っしゃオラァアッ!!!」
間髪入れずに、裏拳で頬を打ち抜いた。頚椎が廻し壊され、首の骨が捻られる。それに耐えきれなかった彼女の首は折れて、頭が180°回転した。
「ーーーッッ!!!」
頭が回転したソレは膝から崩れ、倒れ込んだ……
完璧な戦いの流れを作れた事により、自分の中の作戦が固まった。このまま上手いこと事が運べば、コイツは完全にダウンする。
「ッッッ……!!」
彼女はもう既に全身を再生させ、立ち上がってジェットを見た。彼は彼女の殺意の眼光に臆することなく、向かい合う。そして、笑ってみせた。
「……ようやく、追い付いた。」




