ディエチ港での再会
ディエチ港……
中規模な港町で、漁業が盛んな所だ。海賊とかもいるという話もあるが、今は大して活動していないとか。
「……ここは平気なんだな。」
「町に実力者でも居るのだろう。」
「さ、どうする?俺らは船を手に入れなきゃならねぇ。」
大通りを歩きながら、三人は話し合う。
「片端から話しかける……ってのは、多分愚策だな。」
「西の大陸になど、行きたがる者なと滅多におらぬ……はて、どうしたものか。」
「いざとなったら俺は泳ぐぜ。」
「ごめん、俺はそれ無理。」
話し合う三人……に、視線が向けられる。特にジェットの方に。
「……おい、似てないか?」
「他人の空似だろ……よく見る顔だとは思うが……」
「いや、それにしても似てる……」
ヒソヒソ話し合う周囲の人間に、流石の三人も何かに気付いたようだ。
まずジョーが額に青筋を浮かべながら、話していたグループに目をやる。
「何ガン付けてんだ、アァ?」
「ひっ……」
たまらず、その人達はジョーから目を逸らした。
「ヤンキーかてめぇは。」
ジェットがジョーの頭をひっぱたき、血の気を抑えさせた。
それはそれとして、この注目のしようは気になる。一体、何があるというのだ……
「とにかく、酒場辺りに行こう。何か情報があるかもしれない。」
「ああ、そうだな。」
ローレンスの提案に、ジェットは頷く。その横でジョーが、髪を掻きながら怠そうにしていた。
「まぁた酒場か……」
「酒場は、町の情報が集まる所だからな。行くぞ。」
三人は、酒場へと向かった……
酒場……入ってくるなり、ジェット達は二度見された。少年がこんな酒場に……って理由でも無さそうだ。
「……あぁ?何だァてめぇら、そんな顔して……」
船乗りの一人……左目に眼帯を付け、マントを羽織った白髪の男が言いながら、ジェットを見る。
両者は目が合った。
「……ハァアッ!?」
「なぁ…っ!!?」
二人は驚愕して、固まる。二人以外の酒場に居た全員が、ざわめいた。ローレンスとジョーもだ。
「何なのだ、ジェット?あの男、知っているのか……?」
「顔見知りか何かか?」
「……顔見知りっつーか……俺の父ちゃんなんだけど……」
その一言で、一瞬だけ時が止まったかのような沈黙に包まれた。次の瞬間、「ええええええーーーッッッ!!!?」っという驚愕の声が、酒場中に響いた……
「父ちゃん、何してんのこんな所で……」
「お前こそ、こんな所に何しに来たんだ!?海賊になりに来たのか!?」
「海賊にはならねぇ!勇者として旅してる最中!」
「……いったい、何だと言うのだ。」
「ワケ分かんねぇ……」
ジョーとローレンスの二人からしたら、何が何だか分からない状態だ。とりあえず、四人は同じテーブルに座って話し合った……
ジェットの父親……ジェイド。この世界では、『海賊王』という名で崇められている男だった。ジョーとローレンスも、それを聞いて驚愕していた。
「海賊王ジェイドかッッ!!」
「初に目にかかります……」
「海賊王なんて、大したモンじゃねぇよ……ガキみたいに暴れ回って、お宝を海から引っ張りあげてるだけだ。」
元は別の港を拠点にしていたが、訳あってこの港に泊まっているとの事だ。そして今回、たまたま巡り合ってしまったという……
「それでジェット、こいつらは?」
「その仮面を付けた奴がローレンスで、そこの黒い胴着のがジョーだ。」
ジェイドはそれを聞いて、眉をピクッと反応させた。
「ローレンスとジョー……鬼畜・ローレンスと、鬼人・ジョーかッ!?」
「……その、ローレンスとジョーだ。」
「鬼畜など、自分から名乗った覚えは無いのだがな。」
「フン……」
「……」
この二人を連れて、旅をするという意味……息子が、本気で世界を救おうとしているのが伝わってきた。
「それで父ちゃん、俺ら今船を手に入れたいんだけどさ。何とか協力してくれない?」
そうだ、そうだよ。海賊の父ちゃんが居るのなら、海賊船を使えばいい。ここに泊まっていたのも、運命のようなものだろう。これで、解決……
「無理だ。」
……しなかった。
即答だった。迷いの一片も無いほどの。
「む、無理ぃ!?何でだ!」
「当たり前だ。可愛い息子を、わざわざ死地に送るものか……」
「父ちゃん、俺はもう弱くねぇ!魔物の幹部を何体かぶっ飛ばしてきた、戦士だ!」
「そういう問題じゃねェんだよ……」
「〜っ!」
ガタッと立ち上がり、椅子が倒れる。バァン、と手を机に叩きつけて父親に迫った。
「……可愛い息子だったな……育児を放棄して、海賊業に勤しんだお前が言える言葉か!?」
「すまぬ……しかし、お前を海賊の道へ誘いたくなかったのだ……かと言って、もう今更俺には海賊を止める事など出来ねぇ……部下が居てしまってるからな。だから、大枚をはたいてローゼに移住させ、一流の家政婦を雇い、お前を真っ当な人間に育てたつもりだった……」
「ハッ、あの家政婦なら俺に愛想尽かして出てったよ!真っ当な人間に育てたかっただぁ!?親の教育と呼べるものを受けてねぇ人間が、真っ当に育つかっつーの!!」
「やめろっ!!」
ローレンスが、ジェットを羽交い締めする。
「今我らが話すべきことは、そういう事ではない……それに、父親にそのような口をきくべきではない……」
「……ぐ……!!」
「……それで。」
ジョーがコーラを飲みながら、改めて本題を切り出した。
「どういう事だ?俺ら程の実力者でも、西の大陸は死地だってのか?」
「西の大陸ではない。途中のオンス海の魔物がね……ちょっと、難があってよぉ。」
ジェイドはそう言いながらマントを外し、腕を見せた……否、彼は右腕が無く、隻腕だった。
「なっ……!?」
「……」
「派手にやられてんなァ!!ヒャハハハハハ!!」
「人魚海賊団……船長のボニーという魔物にやられた。左眼もな。」
周りの船員も、いたたまれなくなって目を逸らしている。何があったのか、想像に難くなかった。
「いやぁ、まだまだ戦えるとは思ってたんだけどよ。歳には勝てねぇ……いや、お前らが行っても勝てねぇよ。」
「……それほどに、強力な魔物と?」
「……」
ローレンスに頷いて、左手で酒を飲む。筋肉……は申し分なく、戦うのに不自由はしなさそうだ。
実際、彼は強いのだろう。この町に魔物が寄り付かないのも、多分この男のお陰だ。しかし、そんな男ですらも強敵と認めるボニーという魔物は、何者なのだろうか……
「ケッ……海賊王とあろう者が、おさかな海賊団を怖がるとはな。ヒデェ話だ。」
ジョーがそう言いながら、クスクス笑っていた。その笑顔には、何やら自信に満ち溢れたものが宿っている。
「おさかな海賊団だぁ……?」
「ヘッ……確かにこの海賊団だけならば、人魚海賊団と戦うには戦力が乏しいと言える。しかし、俺らが今こうやって来てやったんだ。皆で力合わせりゃ、まぁ何とか行けるだろうよ!」
笑いながら、周りを見る。ジェットとローレンス以外は、あまり納得していなさそうな表情だった。
「安心しな……絶対に勝って、奴らを髪の毛の一本も残らず燃えカスにしてやるよ。そんな意気込みで俺は行こうとは思うが、どう思う?」
「また力だけで何かしようとして……」
ローレンスがそう言いかけ、止まる。そして、閃いた。
「そうか……ジェイドさん、貴方は奴らと戦う必要はありません。少し、そいつらが見える所まで連れて行ってくれれば我々は満足です。」
「どういう事だい?」
「……奴らの船を奪って、我々の足にする。これで、解決だ。」
「……!」
その手があったか、と頷くジョーとジェット。いやいやないないそれはない、とジェイド。
「お前さんなぁ、アイツらは……」
「父ちゃん、頼む!約束するぞ、絶対死なねぇって!」
「ン〜〜〜……」
困った顔をしながら、髪を掻く。そして、ジェットの目を見た。その目は、絶対に勝って見せると言わんばかりの目で、とても真っ直ぐなものだった。
「……じゃあ、近寄るだけだぞ?いざとなったら、俺はお前らを見殺しにするからな?」
「!」
「有難い、恩に着る!」
「ヒャハハハハ!交渉成立っ!」
三人はジェイドに頭を下げて、再び話し合いの体勢をとった。
「それじゃ、作戦はどうする?」
「今の実力的に、どこまで出来るのかがネックではあるが……」
「そもそも、敵がどの程度まで強いのか……」
「俺も伊達に海賊やってねぇ。多少の自衛なら出来るから、どの程度まで近づけば……」
四人は、作戦を話し合った……
作戦は、以下のように固まった。
まずジェイドの海賊船でオンス海に突撃する。海域に入った瞬間に強襲してくるであろう、人魚海賊団の船に、玉砕覚悟で近寄る。そして誰か一人で船に乗り込んでもらい、残る二人でジェイドの船を防衛する。乗り込んだ一人がある程度まで制圧したら残りの二人も船に乗り込み、海賊の残党を皆殺しにして、船をゲットしよう。
ちなみに役割はじゃんけんで決まり、乗り込む一人はローレンス。防衛する二人はジョーとジェットに決まった。
「うむ、我ながら酷い作戦ではあるな。」
固まった瞬間の、開口一番はローレンスだった。安全案は出したのだが、ジェットとジェイドとジョーの主張が強すぎて殆ど潰れてしまったのだ。
「確かに脳筋のそれだが、俺らならやる価値がある。」
「ローゼの対魔物の特殊部隊なら30分はかかる作戦だが、俺達なら10分で終わらせられるんじゃねぇか?」
「ウチの船団の犠牲を気にしなきゃ5分で終われるぜ。」
ジェイドがそう言い、他の船団もゾワッとする。それを見てクスクス笑い、「冗談だ。」と返した。
「それじゃあ、作戦は……」
「明日だ。今日の所は準備がある。」
ジェイド達の都合に合わせて、作戦は明日に行われる事になった。
「そんじゃ……」
「我々も宿をとって、休もうか。」
「ああ……」
三人は酒場を出て宿屋に向かい、しばしの休息をとった……




