勇者の感覚
ヴォシム王国の攫われた姫を救い出す為に、動くジェット達一行。
一行は別の勇者一行であるアラン達と協力する事になったのだった……
道中……
「ジェット君!」
「ん?」
アランが彼女と腕を組みながらジェットの方を向く。そして、とてつもない疑問を投げてきた。
「ジェット君は、この世界をどんな風にしたいんだい?」
「ムズいっすね……とりあえず、平和になったらいいなって。」
「そうかぁ、平和かぁ……僕も、同じさ。」
真っ直ぐな目をして、語る。しかし、彼の平和はジェットの思い描く平和とは少し違った。
「いつか、魔物達と人間達も共存の道を歩めばいいなって……そうしたら、もっとステキな世界にならないと思わないかい?」
「ああ、まぁ……そうっすね。」
返事と裏腹に、ジェットの腹の底にあるものがぐるぐるする。
いやぁ〜〜〜、きっついわそれは……あのモンスター連中の全員がダークエルフみたいになれって事でしょ?無理無理無理。むりむりむりむりかたつむり。
「アランくん……」
アシェルは顔をぽっと赤らめ、うっとりした表情でアランの顔を見ていた。どうやら、惚れているらしい。
「それでこそ、私の認めた男だ……」
「そうね……ふふふっ。」
金龍とマナミも、アランに賞賛を贈る。しかし、ジェット達は苦笑いしていた。ローレンスに至っては、もう既に真顔である。
ジェットは、アラン達には聞こえないような声でローレンスの所に来た。
「……どう思う、ローレンス?」
「別に……それは我らのやるべき事ではない。我らは、戦うことが使命なのだ……世界をどうするなど、それは上に立つ者に委ねるべきだろう。」
「だよなぁ……」
ジェットは息を吐いて肩を落とす。その表情には、わかりやすいほど後悔の念が見えた。
察したジョーが、ジェットに笑顔を向ける。
「普通の人生を歩んだ奴が勇者を目指すと、あんな風になるってのが分かっただけで得したと思うぜ。」
「申し訳程度の得だなぁ……」
三人の会話など露知らず、アラン一行はいつの間にか先頭で歩いていた。
そして……魔物とエンカウントしたようだ。
「敵だっ!!みんな構えろっ!!」
「うんっ!頑張るっ!」
「はぁあ……!」
「ふふ……」
アラン達は臨戦態勢をとって、魔物の群れに向く。
魔物の群れはメスゴブリン、スライム、ハーピーといった下級モンスターから、オークやデーモン、サキュバスなどの中級モンスターが居た。
「ジェット達は下がっていて!まずは僕達が戦う!」
「ジョー殿、武とはこういうものだ!」
アランの勇者らしい剣技が、メスゴブリン達を薙ぎ払う。
「ぐはぁっ!?」
「こいつ、強いっ!?」
強烈な斬撃にも関わらず、死者は出なかったようだ。数人ばかり、戦闘不能に陥っている。
「はぉおっ!!」
金龍の理合を込めた武術がデーモンに炸裂し、ぶっ飛ばした。
「ぐぅうっ!?」
6、7mはぶっ飛んで、見事に気絶させた。
「舞えっ!火の嵐!」
アシェルの火の魔法が、スライム達を蒸発させる。
「あつい〜っ!」
「て、てったい〜!」
スライム族はそう言いながら、逃走した。
「やぁあっ!せいやぁっ!」
マナミはどこからか棍を取り出して跳び、ハーピー達に猛攻していた。超スピードの猛攻が、確実にハーピー達を追い詰める。
「く……!に、人間め……!」
「わ、私たちは諦めぬぞっ!」
アラン一行は、確かに強かった。しかも、あそこまで大暴れして死者が一体もいない。驚くべき事だ……驚くべき事なのだが……
「お、おお……」
「……」
「ふァ〜……」
沸けない。いや、沸く必要とかは無いんだけども。
なんか、そこらの戦士……いや、冒険出たての俺が見たら多分「すげぇ〜っ!」とか言うんだろうけど。
「協力しろって言われたからしてっけど……こりゃ、とんだ甘ちゃんと組まされちまったな。」
「そう言うなジョーよ……戦い方など、人それぞれだ。否定できるものでもない。」
「……」
そうこう話していたら、もう終わったらしい。死者を一人も出さずに、終わってしまった……
「……見ていてくれたかな、ジェット君?これが、勇者の戦い方だよ。」
「あ、ああ。見事だったぜ。」
結局、どこも面白くなかった……いや、面白がる必要なんて無いんだけど。
魔物一体も殺せない勇者は得意気な顔で、ジェットに勇者としての何たるかを言う。それを聞いて、他のメンバーも頷く。あと、たまにアシェルが乳を揺らしながらアランに擦り寄ってくる。
「勉強させてもらったぜ……ま、見事とでも言っておこうか。ヒャハハ!」
「下らぬ事で話し合っていないで、行くぞ。」
「せっかちね、ローくん。」
マナミの挑発的な口ぶりを、ローレンスはシカトする。それを見て、彼女はクスクス笑う。
「アラ……ふふ、可愛い子。」
そうして、一行はサーバマウンテンへ足を進めた……
サーバマウンテン……
緑の森の中を、一行は進む。
「やっぱり、いいなぁ自然は!土地もいいから、全部終わったらここに別荘建てよう!」
ジェットがそう言うと、アランとアシェルも顔を見合わせた。
「僕達も、この戦いが終わったら結婚して……二人で暮らそう。」
「うんっ!」
二人のイチャつきを無視して、ジェットは子供のようにはしゃいでいた。虫を捕まえたり、とりあえず木登りしたり、棒を拾ったりと、楽しんでいるようだ。
「……夏休みの小学生かアイツはッ。」
「格好も相まって、そう見えるな……」
しかし……ここは、敵の溜まり場であった。
また、モンスターの群れが一行を囲んできたのだ。
「ジェット君、君の戦いを見せてくれないか!?」
アラン達が下がり、ジェット達を前にする。
「あ、はい。」
「今度は我らの番か。」
「さァて……やるか。」
三人は構え、敵の群れに向く。
メスゴブリンの一体が斧を持って、こちらにつっかかってきた。
「はっ!」
ジェットは、躊躇することなく剣でそいつを袈裟切りして真っ二つにした。
「!!!」
「な……!!?」
「きゃーっ!!」
「え……!!?」
アラン一行は、信じられないものを見る目でジェットの戦闘を見続けた。
「はぁああっ!!」
ローレンスは、無数の斬撃を放って敵陣を切り裂く。
「くそっ!」
デーモンが、ローレンスに向かってエネルギー波を放つ。しかし、それは難なく弾き飛ばされた。
「ハッ!」
高速移動で眼前に移動し、手刀で一閃する。その一閃でデーモンはバラバラになった。
「だぁああらぁァッ!!」
ジョーの拳が魔物の内の一体の顔面にメリ込み、そいつは即死する。
すると、背後からスライムが三体ぐらい襲ってきた。
「がおーっ!」
「食べちゃうぞーっ!」
「素手だから、勝ち目は無いもんねーっ!」
「……シュッッッ!!」
ジョーは、三体に向かって正拳突きする。拳圧が放たれ、それでスライム三体は断末魔も残さずに完全に蒸発した。
「くらえぇええっ!!」
ジェットは剣を構え、敵陣に突撃する。足を踏ん張って腕に全力を込め、その剣を思いっきり薙ぎ払う。すると剣の攻撃範囲にいた魔物の胴が、頭が、腕が、その一刀で次々に切り落とされ、ハネられた。敵陣は一気に恐慌状態に陥った。
「ひ、ひィイイイッ!!!」
「ば、化け物めっ!来るなぁあっ!!」
「じゃあ、俺は行かねぇよ。」
ジェットがそう言うと、ジョーが後から走ってきた。その肩を踏み台に跳び、敵陣の上空に来る。
「腑抜けが……!!おととい出直して来やがれェエエッッッ!!」
眼下の敵陣に向かって、パンチを連打する。拳の形をしたエネルギーが飛んで、敵に降り注いだ。それはとてつもない威力で、当たった敵を次々に潰していった。
「うわぁああああっ!!」
「に、逃げろっ!!撤退だ……」
「斬空廻天蹴!!」
ローレンスは敵陣の前に来て、何度も廻し蹴りを放つ。脚から斬撃が跳び、魔物達を切り裂いた。
「ーーーっ!!」
「消え失せいッッッ!!!」
ジョーは敵陣の真ん中に来て、その地面に拳を付ける。すると、巨大な炎の柱が発生した。死体も生きた魔物もスライムも、全てそれに融け……そして、辺りは燃えカスだらけになった。
「ヘーイッ!お疲れぇいっ!」
「フン……この大陸にいる魔物では、もう相手にならないようだな。」
「……ヘッ。」
息を吐いてリラックスする三人に、アランが寄った。額に青筋を浮かべ、怒りを顕にしながら……
「これが……これが、お前達のやり方かッ!!!」
「うん。」
「ふざけるなッ!!!」
悪びれもせずに即答したジェットの胸ぐらを掴み、その背を木に押し付けた。
「あの魔物だって、生きているし……言葉を発せられる!!感情だってある!!見ただろう!?あの怯えた顔を!!人間と同じなんだよっ!!だから……いつか、分かり合える日が来るはずなんだッ!!なのに、お前みたいな奴が居るから……!!」
「あー、はいはいはいはい……タンクトップ伸びるからやめて。これ気に入ってんのに。」
ジェットは片手でアランの手を掴み、いとも簡単に剥がす。
「ぐ……!!!」
アランの手にまで血管が浮かんでおり、どれほど力んでいるかは明白なのだが……ジェットの力は、それ以上だった。
「戦って消耗している俺なら、勝てるとでも?」
「こ……のッ!!」
アランは両手でジェットの手を掴んで、押す。しかし、ジェットの手が更に力を増した。
「うぐっ!?」
そのせいで、ジェットに跪く体勢を取ってしまう。
「……ほら、これで分かったか?」
そのまんま突き飛ばし、アランはごろんと投げ出される。しかし後転し、ジェットを見た。
ジェットの後ろ……金龍とジョーが、向き合っていた。
「ヒャハハハハハ!敵一体を倒しただけで息切れするゥ?明らかに10体以上は倒したけど、俺はピンピンしてるぜェ!ヒャハハハハハハハハ!!」
「〜〜〜この……!!!」
ジェットとジョーの目付きが変わり、とてつもない威圧を見せた。あまりの威圧に、その場が凍る程だ。そして二人は、口を揃え……
「俺はてめぇに教授を受けるほど雑魚じゃねぇんだよ。」
そう言った。それが引き金となり、二人の堪忍袋の緒が切れた。
「お前という男はァアアッッ!!!」
「貴様ァアアアッ!!!」
「やめんかァッッッ!!」
ローレンスが怒号して、四人は止まった。ここまで本気の本気でキレたローレンスを見るのは、ジョーも初めてだった。
怒声はすぐに落ち着いて、四人を見た。
「……ジェット、ジョー……自身より実力が下の者の前でイキがるな。余計に弱く見えて、みっともないぞ……御二方も、恋人の前で恥ずかしいとは思わないのですか?」
「よく言う。お前だって、魔物を虐殺していたじゃないか!」
「殺意を向けてくる敵に慈悲を与える必要があるのですか?」
「っ……それは……」
「貴方達の信条に則るのならば、それは『ある』という答えになるでしょう……しかし、我らにも我らの信条がある故、その答えも違う……そうなれば、貴方達の正義と我らの正義では大きく違いが生じるのは必然です。」
「……何が言いたい?」
「貴方達の正義を押し付けないで頂きたい……貴方達には貴方達の……我らには我らのやり方がある。文句ならば、全てが終わった後にいくらでも言い合いましょう。」
「っぐ……!!」
「……」
アシェルが、消し炭になったメスゴブリンやスライムを見る。涙を浮かべて、鼻水まで垂らしている。
「ひどい……ひどいよ、こんな事……いくら魔物が相手だからって、自分の好きなように傷つけて、なりたくない姿にさせて!!自分は傷一つ負わない……!!」
「アシェル……」
マナミが、アシェルの肩を撫でる。
「……っ!」
アシェルは立ち上がってジョーをキッと睨む。早足で詰め寄って、その頬にビンタした。
「貴方みたいな人、嫌いですっ!!」
「そうかいそうかい……そりゃあそれで結構。誰も俺を好きになれと言ってねぇからな。」
「……ごめんなさい。悪い子じゃあ無いんです……」
アシェルの失礼を、マナミが頭を下げて謝罪する。ジョーもイヤイヤと、頭を下げた。
「……」
ここでジェットが、何かを感じ取ったようだ。風が強くなり、何だか肌がビリビリする。
「……おい、まさか……」
「ああ……お出ましみたいだね。」
アランとジェットは、同じ方向を向く。上空だ。
「……出やがった……!」
視線の先の上空……そこには、全長15mはあろう巨大なドラゴンが羽根を羽ばたかせながらこちらを見ていた。
「ギャオオオオーーーッッッ!!!」
威嚇するように、咆哮する。その咆哮で衝撃波が巻き起こり、木々が揺れて大地もビリビリした。
「ヴォシム王女以外ノ人間……殺ス……焼ク……喰ラウ……!!」
「……えッッッ!?」
ドラゴンが人語を喋った。しかも、はっきりとこちらに殺意を伝えてきた。
「おい、テメェはあれと分かり合えるのか?」
「っ……っ……!!!」
アランは、その問に言葉を詰まらせてしまった。ジェットはそれを見て、「やっぱりな」という表情を浮かべる。
「喰ラウ……噛ミ砕ク……焼ク……コロスッッ!!!」
ドラゴンはまた咆哮し、こちらへ突っ込んできた……




