盗賊の街
盗賊王とサルバの手助けで、無事にリース街へ着いたジェット。
「……」
そこは活気づいた街で、通りでは市場が賑わっていた。
「へいらっしゃいらっしゃい!」
「魚、安いよー!」
「武器は要りませんかね!?今なら〜」
市場の商人の殆どが、盗賊のナリだった。
どうやらここは、盗賊が支えてる街のようだ。
「盗賊王がお帰りになられた!礼をせよっ!」
「ははぁっ!」
サルバが大声でそう言うと、市場の盗賊は一斉にこちらを向き、頭を下げた。
「……」
盗賊王も部下達に頭を下げてから、ジェットに向いた。
「往くぞ。事情を伝える必要があるだろう。市場も気になるものがあれば、気軽に使うが良い。」
「ああ……」
「俺も供します。」
サルバもついて行ってくれるようだ。
ジェット達は市場を除きながら、盗賊王について行った……
ついて行った先は、屋敷だった。
古臭くて、あまり派手な装飾はしていないものの、質のある屋敷だ。
「お帰りなさいませ。」
門番らしき人間が二人、盗賊王に頭を下げた。
声からして、二人とも女だろう。
「ご苦労だった。こちらは客人である。」
「どーも……」
ジェットが門番に会釈すると、門番も会釈で返した。
そのまんま、ジェットは盗賊王の屋敷に入った……
「……」
盗賊王、という名前の者が所有しているとは思えない屋敷だった。
普通は盗んだ財宝やらが、そこらに飾られていてもおかしくない。
しかし、ここは質素であった。
最低限のモノ、最低限の掃除、最低限の明るさ……
絵が飾られていたり、やけに造形の凝ったランタンが光を灯してはいるが……
「それは我の趣味だ。」
「……絵描きと、ランタン作りがですか?」
「ランタンはローゼからの貰い物だ。」
「……」
……よりによって、あの王様の知り合いだとは。
そこら辺は、おいおい話す事になるだろう。
そうこう言っている間に、客間に導かれていた。
やはり質素……
そこそこのベッドに、普通のテーブル。
「掛けていろ。茶と菓子を出す。」
「はっ!」
「あ、はい……」
ジェットとサルバはソファに座り、盗賊王は奥の部屋へと消えていった。
「……あの盗賊王、いつもこんな感じなのか?」
「ああ……人の持つ最大のモノを奪う手前、礼儀だけは忘れない人だから……」
「人の持つ最大のモノ……?」
「命だよ。」
「……!」
そう言えば。
あの凄まじい戦闘力と、居合わせただけでも感じる圧倒的な恐怖。
そして、あのデーモンの必然的な死……
しかも、明らかに普通の死だった。
人に殺されるとか、戦士にぶった切られるとか、そんな死じゃない。
もっと、こう……不意な交通事故とか寿命で死ぬとかの、普遍的でありふれた死のように感じた。
要するに、あの時デーモンが首をぶった切られたのは必然かつ運命だった……ように感じているのだ。
「何なんだ、あの人は……」
「あの人は死を司る天使だか神だかの子孫だって聞いた……」
「死を司る……?」
「ああ……あの人が「殺す」と思ったら例え不死身相手でも殺す事が可能だそうだ……」
「はぁっ!?」
「それは流石に眉唾だ。」
そう言いながら、盗賊王がお茶を運んできた。
ジェットとサルバと盗賊王で、お茶が配膳される。
「不死存在など、相手にした事も無し。生きる者全てに生があり、我はそれを盗んでいるだけの事である。」
「……」
「……」
二人は黙り、盗賊王に向いた。
「こほん、まずはローゼからの勇者よ。遠路はるばるご苦労だった。チイ村での活躍も及んでいる。」
「あ、ありがとうございます……」
「歓迎しよう……と言いたい所ではあるが、この街にも危機が迫っている。来たるべき魔物盗賊との戦いで、此処の運命が左右されるであろう。そこで、頼みたい事がある。」
「頼みたい事……その戦いに、俺も協力してくれとか、そんな感じ?」
「左様。無償でとは言わぬ、相応の報酬を与えよう。」
やはり、魔物盗賊との戦いは拮抗しているらしい。
来たるべき戦いとやらも、このままでは勝ち目も薄いであろう。
「……分かった!ぶちのめしてやりましょう!」
「礼を言う。頼もしい限りだ。」
「でも、何で俺なんかに依頼するんです?そこのサルバとかも強いし、なによりアンタだってめちゃくちゃ強いし……」
盗賊王は、仮面越しに難しそうな顔をしていた。
「ふむ……魔物盗賊の首領とやらの実力が分からぬ上に、四魔姫の介入も有り得るからだ。」
「げ。」
あの鳥女、ここに来るつもりじゃねぇだろうな……
だとしたら、マズイ。
とりあえず、今の俺に勝ち目はない……
「万が一に親分が四魔姫を止めた所で、魔物盗賊首領が俺の手におえる相手じゃなかったらやべぇ。それに相手は軍隊ばりに兵器武器魔法使ってくるんだぜ。大きい戦力は一人でも多い方が良い。」
「なるほど……」
サルバは、盗賊王の方へ向いた。
「それで、どうします?」
「うむ、この街を案内し、余裕と暇があれば鍛錬するがいい。」
「はっ。」
サルバは盗賊王に頭を下げて、ジェットに向かい直した。
「それじゃ少年、まずは宿を紹介してやる。そして街案内だ。」
「だから同年代だっつーの。」
ジェットは、サルバと行動を共にする事となった。
宿の紹介、街の案内も終わり、ベンチで座る二人。
「ふぅ、こんなもんか。」
「ああ、だいたい分かった。」
二人でジュースを飲みながら、街の様子を見る。
市場は絶えず賑わい、人々が行き交っていた。
盗賊も、そうじゃない人々もだ。
「……そう言えば、ここら辺の盗賊って普段どんな事してるんだ?」
「ああ……悪い事してる金持ちから金撒きあげて、それを人々にバラまいてたよ。」
「じゃあ、盗賊ってより義賊か。」
「やってる事は変わんねぇよ。」
「……そうか。」
ジェットはジュースを飲み、街へと視線を戻す。
「サルバは、なんで盗賊に?」
「ああ……ま、ありきたりだけど両親が魔物にぶっ殺されちまってね。気付いたらここで戦闘員やってるってワケ。」
「……そりゃ大変だったな……つーか、悪い事聞いたな……」
「いいんだよ。売春婦と酒飲みがサルみたいに股くっつけて生まれたのが俺なんだから。俺の両親なんて、死んで当然の奴だった。」
意外とドライな奴だった。
「それで、ここで育ったのか。」
「ああ。あの盗賊王の親分に盗みの技術と戦闘技術を叩き込まれて、こんな事してんだ。直々にだぜ。ちなみに俺は、ここの盗賊の一味で一番修行した自信がある。」
「……」
あの並外れた実力の出処は、そこからか。
道理で、下っ端にしてはめちゃくちゃ強いなと思った。
「だから、魔物との戦いはいつも切り込み隊長的な役割だった……魔物盗賊の首領とも、俺がタイイチで戦うことになっていたけど、お前さんが来てくれたお陰で勝率はグンと上がったはずだ。」
「そうか……」
魔物盗賊首領……確か、セレストとかいう名前だったか。
まぁ多分、アデリアと同程度の戦闘力だとは思うが……
「それで、あんたが相手したチイ村の魔物ってどれぐらい強かった?」
「ああ……デュラハーンって奴とか首領の方は、それなりに強かった。勝ったけどな。ただ、四魔姫のハルピュイアって奴はヤバかった。蹴り二発で死にかけた。」
「む、既に四魔姫と対峙した事があったか。」
「ああ……逃げ切れたのが奇跡だったぜ……まだまだ強くなる必要があるってワケか……」
「うむ……」
二人はジュースを飲み干して立ち上がり、顔を見合わせた。
「どうする?もう休憩するか?それとも修行する?」
「修行か……じゃあ、付き合ってみようかな。」
「ああ、ならついてこい。」
サルバは顎で行き先を差し、歩く。
ジェットは、サルバについていった……
「……ここは。」
連れられた先は、広い地下施設だった。
主に戦闘向けのトレーニングができるような器具が置かれ、壁には武器が下がっている。
ちなみに、今は誰も居ないようだ。
「ああ、俺達の修練場だ。今はそんな時間でもねぇから、誰もいねぇけど。」
「そうか、ありがとう……」
ジェットは剣をそこら辺の壁に掛け、ボキボキと指を鳴らす。
「どうせなら、実戦訓練って奴をしてみるか?」
「いいね。」
サルバの提案に、ジェットはあっさりと承諾する。
実戦訓練……となると、やはりタイイチでのバトルになるのか。
こんな訓練、アカデミー以来でワクワクする。
サルバは準備運動して、ジェットに向いた。
「そんじゃ、駄弁りながら修行するか。」
「ああ、よろしく。」
両者は素手。
この空間には、殴り合いをするだけの広さはある。
コンデションは万端。
「よし、やるぞ!」
「おおっ!」
サルバは一瞬でジェットに接近し、攻撃を連打した。
「うおっ!?」
接近が、見えなかった。
やはり、盗賊……スピードは、あちらの方が上のようだ。
ジェットはサルバの両手首を掴み、動きを止めた。
「なにっ!?」
「はぁあああっ!!」
そして力を込めて、思いっきりタックルする。
「おぐっ!!」
「だらぁあっ!!」
ジェットの拳が、サルバの顔面を打ち下ろした。
「っくっ!!」
サルバはすぐに立ち上がり、ジェットに足払いする。
「っ!」
ジェットは転ぶが、バク転して体制を整える。
「……所で」
「?」
サルバは既に接近しており、ジェットに手刀を振り下ろす。
ジェットはギリギリでガードし、拳を固める。
「盗賊王の言っていた、『来たるべき戦い』って、何時になるんだろうな。」
「さぁな、親分は気まぐれな所があるからな……ただ」
サルバはそう言いながら体を捻り、腰を落とす。
「その時は近いかも……なっ!!」
そして、渾身の後ろ回し蹴りを放った。
ジェットはしゃがんで、それを避ける。
「じゃあ、明日にも戦いが始まると?」
アッパーを放ちながら、ジェットはサルバを見る。
サルバはそれを受け止め、ジェットの腕の上に乗った。
「ああ……場合によっちゃ、こっちから仕掛ける事にもなるかもな。」
そのまんまジェットの腕に組み付き、十字固めする。
「うぉおっ!?」
「折りはしねぇ。外すぜ。」
「させるかっ!」
ジェットは力だけでサルバを持ち上げ、床に叩きつけた。
「うぐぁっ!?」
「よっと!」
ジェットはサルバの体の上で転がり、マウントポジションを取る。
そして、顔面に一発パンチした。
「っしゃあっ!!」
サルバはお返しに、ジェットにビンタする。
「ぶっ!?」
「だぁあっ!」
そして、思いっきり蹴り飛ばした。
ジェットはぶっ飛んで、血を吐く。
「っ!!」
着地して、構え直す。
サルバは消えていて、辺りからは不気味にギュンギュンという音が響いていた。
「……そこかっ!」
ジェットは適当な所で手を伸ばし、見事サルバの腕を掴んだ。
「なっ!?」
「おらぁあっ!!」
そして、渾身の蹴りでサルバを蹴り飛ばす。
「ぐはぁあっ!」
「だぁあっ!!」
ダメ押しに顔面に両足蹴りして、ぶっ飛ばした。
サルバは上手く身を翻し、体制を整える。
そして着地して、鼻血を垂らしながらジェットを見た。
「っででで……随分と遠慮なくやってくれるなぁ……」
「まだまだ序の口だ。」
ジェットがそう言うと、サルバは両の拳を握る。
次に力を込めて、魔力を解放した。
「さぁ、俺は本気で行くぜ……!」
「じゃあ俺も!」
ジェットも魔力を解放して、構え直した。
「行くぞぉっ!!」
「ああっ!!」
二人は激突して、掴み合う。
この実戦を交えた修行は、長く続いたのだった……




