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そらつかい『虚』  作者: カルヰアオ
第十一章 攅簇火候(歓迎の火が群がり集まる)
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攅簇火候 4

ご覧いただきありがとうございます。今回新規の投稿は火候1~4の計4話です。前回の続きは火候1です。

 奇妙な光景だった。

 暗い湖とダムの上空に、いくつもの色の違う発光する物体が浮かんでいた。

 まず一番上の層には、文官の衣を纏った青く輝く三人の男たち。

 その下には、白い光を放つ、七匹の異形のものたちがいる。

 それらが放水する、ダムの上の三匹の黒い鬼を囲んでいた。

 そして、さらに大きく囲繞(いにょう)するように――

 黒い旗と様様な武器を手に、獣頭人身の十二人の神兵が固めている。

 皆が動かずに互いの動向を窺っているようだった。

 いつのまにか雨は小降りになって、今しがたまで湖面に盛大に描かれていた波紋も、もうほとんど見られない。

 時が止まってしまったかのように、すべてが動かなくなっていた。

 そんな中――


「なあ」

「ん?」

 守が元生(もとい)に声を掛けた。

「何であいつら、固まってんの?」

 さっきまでの勢いはいったいどうしたと思うほど、三尸(さんし)の動きは止まっていた。

「多分、(はく)がいるからだろ。魄は三尸の上司みたいなもんらしいからな」

 そしてさっきまでの反目はいったいどうしたのだと思うほどのんびりと、親子の会話が続いていく。

 非日常的な空間にあって、日常的な触れ合いを求めたくなるのは人間の本能なのだろうか。それとも、自分たち親子だけが特別なのか――

 とにかく、守と元生は先程まで演じていた舞台を降り、客席で鑑賞する側に回っていることだけは確かだった。

(つか、もともと主役じゃないのに出張ってって、放り出されたって感じだよな)

 こんな時ほど、目立ちたがりな父の存在が恨めしい。

 まあ、引きずられる自分のほうも、大概なのだが――

 それでも、呆然と、不貞腐れと、惨めが混合したようなこの微妙な心情を分かち合えるのは父だけだった。また、それを認識しないよう、通常モードで乗り切れるように付き合ってくれるのも、同じ状況に置かれている父だけだろう。

 守はそこまで考えて「はぁ」と大きくため息をつく。

 と、それを合図にしたように――

 閑話休題とばかりに、(あおい)剣指(けんし)を結んだ右手を振り下ろした。


    *


 蒼が剣指を振り下ろす。と、止まっていたすべてが動き出す。

 まず、初めに動いたのは、七匹の異形のものたちだった。

 白い光の七魄(ななはく)は、下降して包囲をジリジリと狭め、三匹の鬼を囲い込む。

 三魂(さんこん)も上空を制しながら(くだ)りてきて、上にある空白を埋める。

 七魄からさらなる光が溢れ出て、白い七つの球になる。

 三魂もすぐさま姿を(ほど)き、青い光の球に変化する。

 七つの白い光が、おもむろに三尸の周囲を回り始める。

 六丁六甲(りくていりくこう)もそれに倣い、軌道を大きく波打たせ、ゆっくり静かに回転を始める。

 その手に持つ武器は変わらずに、含明(がんめい)に向けられたままだった。

 そんな中――

 落ち着かず、しきりに周囲を見回していた三尸が、形を取り崩す。

 『靄』に戻って混じり合い、急いで逃げようと何もない空間に広がっていく。

 ところが、一粒の粒子も逃がすまいと白い球が動きを早める。

 すぐに光の線になり、軌跡を長く残しながら縦横無尽に走っていく。

 三尸を内に閉じ込めたまま、いつしか一つの大きな球になる。

 その回りを、青い三つの光が着かず離れずゆるゆると回る。

 大きな白い塊は、形を不規則に歪めながらも徐徐に小さく(すぼ)まっていった。

 青い光の球も速度を上げ、土星の輪のように帯状になる。

 白い球と青い帯。

 その間も十二人の神兵は、己が分を守って上空で揺らめきながら静観している。

 やがて――

 高速で回っていた光の球はサッカーボールほどに纏まった。

 しばらくそのまま回転し、さらに小さくなっていく。

 テニスボールほどになった時、突然、四方八方に弾け飛んだ。

 白い七つは、皓華の胸へ。

 青い三つは、蒼の右脇腹へ。

 次次と、立て続けに吸い込まれていく。

 そして、その後には――

 帰る場所のない三尸だけが、『靄』のままでゆらゆらと当て所なく揺蕩(たゆた)っているだけだった。


    *


 言葉もなく立ち尽くす含明は、もう水煙(みずけむり)に包まれていなかった。

 ただ目の前の黒い『靄』を一心に見つめていた。

 陽光に照らされ始めたその『靄』は、今までとは何処か微妙に違って見える。

 禍禍しさが褪せたその中に、守は仄かな赤みを見出した。

 そう。さっきまでは暗くてよく判らなかったが『靄』は、濃い青ではない。

 道観や練功房で見た、黒と見紛うような藍色ではなかった。

 赤みの混じる微妙な黒――

(つか、もしかして……)

 すべて同じだと思っていたが、『靄』は二種類いるのだろうか。

 鬼仙と三尸。

 ならば、この三尸は鬼仙の中の滅しきれなかった『陰邪』などでなく――


(別人のもの?)


 そこまで守が思った時、蒼の声が聞こえてきた。

 この世のすべての耳目を集めるような、明瞭な話し方だった。


「陰に属する三尸を使役しているのは他ならぬ陰に属する魄。ならば三尸を制するには、魄を制すればいい」


 含明が声の方を顧みる。

 三尸の『靄』は曖昧に漂いながら含明の後ろに移動した。


「陽を以て陰を制す。陰魄(いんぱく)陽魂(ようこん)によってのみ()ることができる」


「なるほど、そういうことですか……」

 含明は口惜しそうに唇を噛んだ。

「皓華がずっと眠り続けていたのは、肝神(かんしん)のあなたが自分が使役する三魂(さんこん)を遣い、肺神(はいしん)の皓華が使役する七魄(ななはく)を煉っていた――」

 含明は獲物を逃した蛇のように、暗く湿った視線を蒼に送る。同時に、龍爪(りゅうそう)に構えた右手の、張って開かれた労宮穴(ろうきゅうけっ)に青い光が集まっていく。


哥哥(オニイサン)、モウヤメテ!」

 一歩進み出た皓華が耐えきれずに叫んでいた。

「哥哥ハ優シイ人。アタシ、ヨク知ッテル!」

 真摯な視線を向けられて、含明の目が一瞬たじろぐ。

 と――


「お父さん!」


 蒼を呼ぶ、育の声が聞こえてきた。

 武志と皓華の肩越しに懸命に走ってくる育の姿が見える。見る間に大きくなっていくその後ろには、夏芽と辰矢の姿が続く。

「皆が揃いましたね」

 巡らせていた含明の視線が、息を弾ます育を捉えて動かなくなった。

 離れて見物に徹していた元生が、守に目配せして身構える。

 だが、不穏な気配を察した蒼に「だめだ」とそれを阻まれた。

 元生は残念そうに剣指を(ほど)くと、蒼が含明の前に進み出る。

 欠けた包囲網に一角を埋めるため、元生は守を促し歩き出した。



「一つ訊きたいことがある」

 いつもと変わらぬ口調で話しかける蒼に、含明は自ら背にした陽光(ようこう)を弾く湖とは対照的な、暗い瞳の焦点を合わした。

 全長一キロほどのダムの上、蒼は含明の正面に立っていた。蒼の左に守と元生、右に武志と辰矢、そして右後方に皓華、さらにその後ろには育と夏芽がいる。

 全員がただ一点、含明とその後ろに庇われるようにいる三尸に目を向けていた。


「君はその三尸を、一体どうやって集めたのだ?」


 だが、その問いかけに含明は答えなかった。

 蒼が同じ質問を繰り返すも、それでも含明は答えない。

「君には答える義務がある」

 そう促しても、含明は眉間に少し皺を寄せただけだった。

「何故ならば――僕はまだ君を破門していないからだ」

 途端に、ほとんど変化がなかったその顔が大きく動いた。兄弟のようによく似た二つの顔には、動と静、まったく違う対照的な表情が浮かんでいる。

 目を瞠る含明の驚きを肯定するかのように頷いて、蒼は今度は強く尋ねる。


太一鴛鴦派(たいいつえんおうは)第十三代掌門人(だいじゅうさんだいしょうもんじん)として含明に問う。君はその三尸を一体どうやって集めたのだ?」


 門人であれば、その門を束ねている掌門人の言葉は絶対だ。薄い唇を噛みしめていた含明は、観念したように大きく息を吐くと、ゆっくり口を開いていく。

「これは――」

 発せられた第一声には、これまでのような険や嘲りは含まれていなかった。守がいつも聞いていた、含明らしい冷静な口調だ。


「これは、勝手に現れたのです」


 日本の(えん)(おう)大学の学生寮にいた含明の許へ、三尸は自分でやって来た。

「普通の()と違って、祓っても祓っても消えることはありませんでした。そして、私が中国に帰る時も、離れず一緒に付いてきたのです」

 含明は、仕方なくそれらを捕らえて自分のものとし、使役していたと言う。


「なるほど櫻子(さくらこ)に対する、君の強い『意念(おもい)』がそれを引き寄せたということか?」


「え?」


 含明が片方の眉を上げると、「違ウ」と皓華が異を唱えた。


「三尸ハ、哥哥ニ逢イタカッタ」


「なるほど。では、櫻子は自分で含明の所へ行ったのか――」


「え……」


 含明は、自分の後ろへ目をやった。

 赤みを帯びた黒い『靄』が、ゆっくりだった動きを早め一か所に集まっていく。

 (みつ)のところと()のところに分かれ、大まかに人の形になっていく。

 それはさらに凝集すると、細部が次第にはっきりしてくる。

 最後に黒い色が抜け落ち、現れたのは――


 少し赤みのある長い髪。

 肌理(きめ)細かな(なめ)らかな肌。

 薄紅(うすくれない)の頬。

 細い腕に白い素足。

 華奢な体を桜色の着物で包み込む、世にも稀な絶世の美女が現れた。

 その顔容(かんばせ)は山桜のように(あで)やかで、(うるわ)しく。

 そして――

 育にとてもよく似ていた。



「さ……、くら……子……、さん……?」



 女は、自分に気づいた含明を認めると――

 小首を傾げて本当に嬉しそうに微笑んだ。

 涙が滲む笑みを残し、やがて静かに消えていく。


「そ、そん……な……」


 絶句した含明は、その場に独り崩れ落ちた。



次章からは大反省会の予定です。

現在前の部分を見直しながら少しずつ改訂しているのですが、今年になって更新している部分と過去分の間に見過ごせない齟齬のあり、構成等いろいろと見直す必要があることを痛感しました。

今回更新分は直前に気づいて修正してありますが、先に更新した分は、とりあえず最後まで終わらせてから改訂版に差し替えるか、投稿先を変えもう一度連載し直すか、しようと思っています。

投稿先の変更については、直接的な描写がないのでR18にはしていませんが、今回更新分でお判りのように、設定に反倫理的な部分があります。さらに、関連作品でR18の描写が入る可能性と、シリーズものの投稿先がばらけるのを防ぐためには、引っ越しをしたほうがいいかな、と考えている次第です。

というわけで、不出来な物を見捨てずにご覧くださっている数少ない読者の方方、どうかもうしばらくお付き合いいただけましたら幸いです。

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