ヨーグルトとフルーツゼリー(9)
週が明けて月曜日。
孝美の言った通り、将人と牧野さんを冷やかす噂はすっかり沈静化していた。
まだ完全に消えたわけではないけれど、口さがないクラスの女子たちの目下の話題は矢部くんの噂に移っていた。
「矢部っち、麗子さまに告白したんだって!」
「え、マジで? 身の程知らずもいいとこじゃん」
断片的に小耳にはさんだ噂話を総合すると、将人と牧野さんの噂が立って焦った矢部くんが、日曜日に彼女を呼び出して「付き合ってください」とデートに誘い、結果的に玉砕したという話だ。
なんとも気の毒なことだけれど、きっとバンサンスーの件の報いを受けたのに違いない。
「それにしても、よくクラス一の美人を呼び出そうなんて思い切ったもんだよね」
給食の時間、私がぼそっとそう言うと、孝美は無言でくすくすと笑って、ちらりと横目で千葉さんを見た。
ん? ひょっとして――。
「千葉さんが矢部を焚きつけたの?」
「ちがうよ。レイちゃんとみゆきちゃんは仲がいいから、一緒にお出かけしたら、行き先に偶然矢部くんがいただけ」
「…………」
ええと、孝美はなんでそんな細かい事情を知ってるんだ?
私はちょっと怖くなって、それ以上追求しないことにした。
「会長、ほんと本山ちゃんのこと好きだよねえ」
千葉さんは少し頭を低くして、上目遣いに私たちの様子をうかがいながら、不敵ににやついた表情で言った。
「もう一つファンクラブつくる?」
「それはダメ」
孝美はきっぱりそう言った。
「今の朔子ちゃんに必要なのは、ファンじゃなくて、お友達なんだから」
「うっ」
「ちゃんと女子同士の友達がいないから、変な噂ばっかり信じちゃうんだよ?」
「そ、そうかな」
そのやりとりの間じゅう、千葉さんはクスクスと笑っていた。
「みゆきちゃんも、朔子ちゃんからかっちゃダメだからね」
「ほーい、了解。――で、その噂の方は、こんな感じで良かったのかな?」
「うん。ありがと、みゆきちゃん。朔子ちゃんも、これで安心だよね」
よくわからないけど、矢部くんの不名誉な噂が広まっているのは、どうやら千葉さんの情報工作の賜物で間違いないようだった。
たぶん将人の噂を消すために、同じぐらい面白い噂を流す、というカウンターインテリジェンス。
そして、彼女にそうさせたのはほかならぬ我が幼馴染にして親友、策士・近藤孝美にちがいない。
あっけないものだ。先週自分があんなにも悩んでいたのが、ばかばかしく思えてくる。
でもまあ、それはそれとして。
「千葉さん」
私は、自分の給食のトレイからカップ入りのフルーツゼリーを手に取って、千葉さんの机の隅に置いた。
「相談に乗ってくれてありがとう。これ、相談料」
木曜日に彼女が相談に乗ってくれなかったら、週末までずっと気が重いままだったに違いない。
そしてなにより。
「あと、その――情報工作の分も」
それを聞くと、千葉さんはまたぷっと吹き出し、しばらく腹を抱えて笑い続けた。
「会長から聞いちゃいたけどさあ」
と、千葉さんは私が置いたゼリーを手元に引き寄せた。
「本山ちゃんて、ほんっとに友達つくるの下手だね!」
そして、おもむろに自分のトレイの上にあったゼリーをつかむと――そっと私の机の隅に置いた。




