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~白洲視点~
胞構造空間全体、法術師連合に超空間通信。
それは突然だった。
スフェライオスからの声明だ。
「かつて、堕落を経験した文明として、私は断言する。
絶対者・神坂を欠いた貴様らの未来に、堕落は避けられぬ。
その神坂を、自らの手で滅ぼしたというのならば、なおさらだ。
私は彼の盟友であり、かつて彼に救われた存在だ。
貴様ら胞構造の、緩慢で自己満足に満ちた腐敗、
神坂の理想を穢すそのあり方を、私は看過しない。
——これより、貴様らに対し全面的な戦闘行動を開始する。
神坂の死は終わりではない。
それは、真なる変革の始まりだ。
私は創生者。
全空間的秩序の創出と再構築のために、
今、再びこの手を汚そう。
——貴様らに、宣戦を布告する」
スフェライオス文明創生者・プロトアーカ……!
侵攻の原因は分かっている。
……神坂の弔いか。
傍受とほぼ同時に空間歪曲。
超構造転移。未定義座標、スフェライオス文明からのワープアウトを確認。
スフェライオス艦隊が各空間に向けてワープアウトしたのだ。
「この超空間跳躍技術……もともとは、貴様らから習ったものだったな」
オープンチャンネルでプロトアーカの嘆きを伴った声が響く。
「総意ではないことは理解しよう。だが。それゆえなぜ……
なぜ、神坂の死を看過した。
……全員同罪だ。貴様らも。私たちも」
……神坂の死を俺らが看過したとでも……?
そんなわけはない。そんなわけがあるか!
胞構造空間内のスフェライオス各艦隊から精神分解酵素散布。
量子通信網に断末魔が混ざり始める。
電撃作戦か……!
「文明レベルで劣っている?
構わない。 これは弔いだ」
胞構造間通信が混線し、法術師連合にも衝撃が走る。
……つーか神坂!プロトアーカにも遺言を残しておけよ!
否。残したのだろう。自分が死ぬ予定は。
ただ、プロトアーカが納得していないだけ。
……俺ら法術師連合の大部分と同じように。
◇◇
《広域空間群管理者》広域空間管理者・対策会議ログ
場所:第0空間外縁バッファリング層内・非実体同期座標帯
参加者:
・白洲 響也――第2広域空間管理者(ストレンジレット制御権能保持)
・黒瀬 遥人――第3広域空間管理者(シュバルツシルト径操作権能保持)
・xect――法術師連合総帥(過去時間操作権能保持)
白洲:「さて、迅速な集合、感謝する。
……今回の議題は現在進行中のスフェライオス文明侵攻の件だ」
xect:「向こうの気分もわかります」
黒瀬:「しかし、宣戦布告と同時侵攻、精神分解酵素バラマキは違うだろ!」
白洲:「既に我々以下の空間管理者も被害を受けている。
胞構造が崩壊するぞ」
黒瀬:「どうする?方針を共有したい」
白洲:「いや、xectさん。過去改変は使わないのか?」
xect:「どこまで改変するんですか?
神坂の死を?断ります。それは彼の意思です。
スフェライオス侵攻直前まで?それも無理です。
どのみちプロトアーカの心の闇は晴れない」
白洲:「現在の時間軸でどうにかするしかないのか」
黒瀬:「俺たち第3広域空間群は抗戦するぞ」
白洲:「……ああ、当然だ」
xect:「待ってください。
……共同戦線はできないんですか?
神坂殺害の主犯に対して、協力できるはずです」
黒瀬:「……無理だ。すでに向こうは無差別攻撃に手を染めている」
白洲:「……神坂殺害の主犯も既に死亡しているはずだ。
それでもスフェライオスの侵攻が止まっていない」
xect:「完全にこちらを壊滅させるつもりですか。
……神坂の未来をつぶす気ですかっ……!」(ここちょい修正したい)
白洲:「……神坂の未来?」
xect:「元日本人なら理解はできるはずと信じて開示します。
……神坂は基底世界に転生するんですよ。
その舞台を壊す気ですか……!」
黒瀬:「それ、プロトアーカに共有すれば……
いや、そもそも理解できるのか?」
白洲:「そもそもスフェライオスに転生が認識できるか……。
下手すれば愚かな詭弁扱いされるな」
xect:「……。
待ち伏せます。
直接プロトアーカを説得します。
何度だってやり直しますよ」
白洲:「神坂の来世の存在が最後の希望か。
見殺しにしておいてあいつにまた縋るのか」
黒瀬:「仕方ない。一縷の望みってやつだ。
もうそれしか希望が残っていない」
◇◇
説得に成功した時間軸。
(t1=1612/05/14 t2=356)(356回目の1612/05/14にて)
時間は何度も巻き戻され、この日付に辿り着くのはこれで356回目。
だが、xectの目は決して濁らない。
今度こそ——彼を止めるために、言葉を選ぶ。
~プロトアーカ視点~
既に弔いは成就した。
神坂を殺害した法術師どもを特定。
すでに艦隊の砲撃で沈めた。
私の友であり、鏡であり、子であるスフェライオスたちの攻勢は続いている。
しばらく黙祷する。
見ているか?神坂。お前は認めないだろうが……。
このまま胞構造を壊す。
「やめなさい!」
法術師総帥……か。
空間系の権能は無し。時間操作の権能を備える。
……厄介な。
精神分解酵素カートリッジを装填。いつでも発砲できる。
「彼がそれを認めるわけないでしょう!」
傍観者が……知った口を。
「少なくとも、それは彼の未来を壊す行為です」
笑わせるな。すでに無いだろう。
「未来?笑わせるな。あの男は死んだ。骸は灰になり、記録は焼失した。
……何を守るつもりだ、法術師よ。幻想か?」
「そう。幻想ですよ。けれど……あなたにとって、神坂が何だったか、それも“幻想”ですか?」
プロトアーカ(沈黙)
「……」
(手を止める。酵素カートリッジを半分だけ抜く)
xectが前へ一歩踏み出す。
「神坂は、あなたの“希望”だった。
あなたが“堕落した文明”から立ち直れたのは、彼の思想が、理想が——生きていたから。」
「今、あなたが行っているのは、その希望を“怒りの感情”で焼き捨てる行為です。」
「……私は神坂に“世界を変える資格”を見た。
私は創生者。彼は変革者。
だが、変革者が死んだ世界に、何の意味がある」
「意味は、残ってる。
……神坂は、自らの意思で“死”を選んだ。だからこそ——
転生という手段で、“未来”に託したんです。」
プロトアーカ(目を細める)
「転生……?この次元で、“霊的連続性”を信じろというのか?」
xect(語調を強める)
「信じてください、ではありません。
受け取ってください。神坂の、最後のメッセージです。」
(左手を掲げ、時空座標記録装置を投影)
※神坂が死亡直前に記録した「転生情報」の断片が空間に展開される。
そこには、基底世界へ向かう“思念ルート”の断層ログが刻まれていた。
xect
「彼はまだ終わっていません。
——あなたに会いに来ようとしています。
もう一度、あなたと話すために。」
プロトアーカ(沈黙。拳を強く握る)
「……会いに……?」
xect(静かに頷く)
「あなたがここで胞構造を壊せば、その道は潰える。
それは、“あなた自身が、彼を二度殺す”ということになるんです。」
長い沈黙。
精神分解酵素カートリッジが、完全に排出される音が響いた。
プロトアーカ(顔を伏せ、かすれた声)
「……どうすれば……会える?」
xect(微笑む)
「信じるだけでいい。
あなたが手を止めて、待っていてくれれば。
……必ず、来ます。彼はあなたに、きっと“未来の理由”を語りに来ます。」
プロトアーカ
「……神坂。
お前は、やはり……
まだ俺に、変われというのか。」
(遠くでスフェライオス艦隊の砲撃が止まる)
プロトアーカ
「……スフェライオスたちへ。侵攻停止。
……撤退だ」




